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5.残り香と記憶(中谷)
しおりを挟むボーッとする。
南が作ってくれた朝食を二人で食べ終えた後、後片付けまで自分がやると譲ってくれず言われるがまま南の家のソファで、新しく入れ直してもらったコーヒーを飲みながら辺りを見回す。
後ろのキッチンから手際よく洗い物をする水の音と食器の音が聞こえる。
寝室と同じようにリビングにも無駄なものはほとんど置かれてなく、一言で表せば〝白〟って感じの無機質で殺風景な部屋が自分の家とは真逆だと思わせた。
「先輩、そう言えば連絡先教えて下さい」
そんな事を考えていたらいつの間にか片付けをすませ、ソファでくつろぎボーッと考え込んでいる俺の横に立ち南が自分のスマホを差し出している。
「えっ、あっ……ああそっか今後何かあれば連絡しなくちゃいけないし、何があるか分からないからお互いの連絡先知らないとだよな。え、えっとー、はいこれ俺のLINEのQR」
どうしたらいいか分からずスマホの画面にQRを表示したまま俺も同じように差し出すと南はスマホを受け取り、ものの数秒でスマホを返してきた。
「ありがとうございます、登録しておいたんで何かあればいつでも連絡下さいね」
「う、うん。ありがとう。じゃあ、俺はそろそろ帰るよ、後片付け全部やらせた後で申し訳ないけどあまり長居するのも悪いし」
「えっ、もうですか?俺今日は大学休みで予定も無いですし、先輩ももう少し良くなってからの方がいいんじゃ……」
そう言いながら立ち上がる俺に驚いた表情を見せる。
「いや、もう全然大丈夫だから心配かけて悪いな。体調もいいのに尚更居座る理由がないから家に帰って一人反省会でもするよ」
「そう……ですか。分かりました、スーツは畳んであるだけで汚れとか取れてないんで今日はその服着たままで大丈夫です」
さっきとは違う聞き分けのいい寂しそうな表情をしながら南は寝室へと向かう。
「えっ、そんな悪いしいいよ。何から何まで迷惑かけてるからスーツは着て帰るよ」
「全然いいですよ、先輩が俺の服着て帰ったぐらいで着るもの無くなる訳じゃないですし、今は明るい時間なんで目立つかもしれないからやっぱりそのまま俺の服着て帰ってください」
寝室に向かった南を追いかけるとすでに紙袋にスーツを入れている最中で、そのまま強引に渡されてしまう。
「いや、で、でも……はぁ、分かったよ。ありがとう」
「いえ、全然これぐらいどうって事ないです」
お腹の辺りに差し出されていた紙袋を受け取ると、南はそう言いながら最後には微笑む。
やっぱり見た目は可愛らしいやつだけど中身はサバサバしてるのかと思ったのは間違いだったかもしれない。
理由はどうであれまた再会できて良かったと思いながらもこの時はまだ分かるはずもなかったんだこの先で思い知らせれる事になる。
この出会いがこの先二人に何を起こさせるのか。
「はぁ、なんか疲れた……」
南の家から自分の家まで思っていたよりもそれほど距離は無く、歩いて帰れる程度だったのが驚きだったが、元々インドアな部分もあり、休みの日に用も無く外に出て下手に疲れるのも好きじゃない上に、数しれた心を許せる友達はいるけど毎度休日に出かけるような友達はいない。
「南……浩太。高校の時は深く関わっていた訳じゃないけどすごい良い奴だったな……」
ソファに座り込み数時間前とは違う見慣れた天井を見上げながらそんな事を呟く。
「あっ、せっかく連絡先交換したんだし昨日の事もあるから俺から先に連絡して……おくべきなのか?」
どうしたらいいか分からない。
ここにきて連絡先を交換したのも、自分のコンプレックスを知られた上で何かしら協力すると言われたのも、初めてのことで戸惑いながらも承知したけど、そんな相手に何をどう関わりに行けばいいか分からない。
「い、いやいや。でも、昨日の事に関してはやっぱりもう一度謝罪と感謝の文を伝えるべきだと思うし、朝ごはんまで食べさせてもらって何もなしは流石にまずいんじゃ……いやでも、それは良いとして。相談って何をどう相談すればいいんだ……」
まずい。
成り行きとは言え、考えれば考えるほど分からなくなってきた。
「分からん……誰かに連絡するってこんなに精神使うものだったけ……とりあえず、風呂でも入って冷静に……」
重い体を上げ、脱衣場に向かう。
南の家は白色の物ばっかりだった、さっぱりしてて、余計な物がほとんど無く自分とは正反対な家だった。
脱衣場の鏡の前で自分の姿をみながらまた何となくそんな事をかんがえる。
「服……ぶかぶかじゃん」
鏡の前に写った不格好な姿の自分に少し呆れた。
記憶に残っている高校時代の南とは変わって身長も体格も遥かに大きく成長していて、顔に似つかわしくない外見をしていた。
「この服、普段は南が着てるんだよな……」
心臓が跳ねた。
少し意識を向けただけで服から香る南の匂いとその残り香をはっきりと認識し、自分でもよく分からない感覚に囚われる。
跳ね続ける心臓の音が自分の脳にまで直接響き痛く、苦しい。
「なに……どうなってんのこれ……」
それでも隣にいる訳でもない南の匂いがはっきりと分かりそれにクラつく自分が抑えられない。
「っ……アルコールまだ残ってたかも、はやくシャワー浴びよ」
衝動的に服を脱ぎ風呂場に急ぐ。
勢いよく頭からかかるシャワーの水が冷たく冷静にさせた。
少しづつお湯に変わり温まり始める自分の体をみて、また頭の中が真っ白になる、
「えっ……」
気づかなかった。
全く気づかなかった。
いつからなのか、自分の腫れ上がった下半身をみて絶句する。
「なん……で」
熱いシャワーのお湯を浴びながら手を伸ばし触ったそれはお湯と混じり合っていても分かるほどヌメり、かたくなっていた。
冷静になったと思っていた心臓もいつの間にかまた大きく跳ね続け、そのせいか湯けむりの中いつもよりも息苦しく感じる。
「っ……っつ……うっ……はぁ、はぁ……」
すでになんの躊躇いもなくそれを収めようと息が荒くなる。
息苦しさのせいか、初めての感覚に現状が物足りなく感じ無意識に唇を噛み締める。
「うっ、んん……っ、くっ、やば……い」
自分が自分じゃなく感じ、鼻から吸う空気に呼吸がより浅くなる。
「はっ……っ……」
するはずも無い香りがする。
見覚えのある顔が浮かぶ。
脳裏に覚えのない光景が流れる。
「あっ……っんん……む、り……もう……」
『先輩、ひろ先輩……好きです』
「んあっ……イクっみな、みっ……んんっ……!」
何も、考えられない。
南と、南の匂いと、頭に浮かんだのは暗い部屋で
南に好きだと言われキスをされている自分。
南の口からなのか俺の口からなのか滴る雫と、まるで自分が下から眺めているかのような南の顔。
「なに……やってんだよ俺……」
腰を抜かし熱いシャワーを浴びながら霧がかかる頭で排水溝へと流れていく白濁した液体を一瞬目で追いながら今度は違う理由で唇を噛み殺す。
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