暴力的な幼馴染が執着してきますが今更元の関係には戻りません~必要ないと言われたから自立したんです。元に戻るくらいなら死んだ方がましです~

ギルマン

文字の大きさ
1 / 15

2人の関係

しおりを挟む
「ど、どうして連れて行ってもらえないんですか」
 若い女が、悲痛な声でそう訴えた。
 長い黒髪に黒い瞳、美しいが、どこか儚げな印象の女だった。

「足手まといだからに決まってるだろ」
 金髪を短めに切りそろえた若い男がそう答える。
 彼はその琥珀色の瞳を一瞬だけ女に向けると、視界に入れるのも疎ましいと言わんばかりに顔を背けた。

「そんな、だって、私はずっとあなたの……」
 女は更に何か訴えようとしたが、男は一顧だにしない。

 女の名はマリーベル、男はヘンリーという名だった。
 そしてここは、アースマニス大陸西方に位置するマイエルヘルム王国の王都にある冒険者の店。
 2人は冒険者だった。
 そして兄妹同然に、あるいはそれ以上に親密に育った幼馴染でもある。

 しかし、2人の関係は到底平等とはいえなかった。
 ヘンリーはその優れた剣の腕で、若くして王都でも名の知れた冒険者となっている。
 少し前には、ある迷宮で個人として活動中に隠し部屋を発見し、そこに設置されていた宝箱から貴重な魔道具を見つけるという大きな幸運にも恵まれ、そのことでも名を売っていた。

 また、戦闘時の勝負強さにも定評があり、ここ一番という時には見事な大技を決めることが多かった。そうした時には、手にした武器が光り輝くように見えると言われ、光の戦士などとも呼ばれている。
 今では、彼のことを信奉する取り巻きのような者達まで存在していた。

 ヘンリーが光であるならば、マリーベルは陰だ。実際に陰の娘と言われることすらある。
 元々猟師の娘だった彼女は、弓の扱いと野外活動などを行う野伏としての技術に長けており、王都に出て来てからは賢者の学院にも属して賢者としての知識も積んでいた。
 だが、魔術を身につけることは出来なかった。才能云々以前に、保有するマナが異常なほど少なく、覚えたところでまともな魔術は使えないと宣告されてしまったのだ。

 また、乱戦状態になってしまえば、そこに弓を放つ事は出来ない。
 つまり、彼女は戦闘が始まってしまえば、ほとんど役立たずになってしまうのだ。
 野伏としての技術と賢者としての知識は見るべきものがあったが、余りにも地味だ。

 ヘンリーはそんなマリーベルを露骨に蔑み疎んじていた。
 そしてとうとう、次の冒険に連れていかないと宣告したのだ。

 この決定は、ヘンリーについて行けるように必死で努力していたマリーベルにとって余りにも非情なものだった。そして、合理的な行為とも言えなかった。
 確かに冒険者にとって戦闘は重要だ。しかし、それが全てというわけではない。
 マリーベルの技術と知識は戦闘以外では十分に冒険の役に立つ。

 マリーベルはその事を主張した。
「確かに、戦闘では役に立てないかも知れません。ですがそれ以外なら必ず役に立って見せます。ですから、お願いします。私も連れて行ってください」
「……」
 ヘンリーは最早答えることすらしなかった。

 ヘンリーの冷たい態度を受け、本当に見捨てられてしまうと思ったマリーベルはついにヘンリーに取りすがった。
「お、お願いします。どうか私も…」

 ヘンリー腕を強く振るい、マリーベルを突き飛ばす。
「あっ!」
 マリーベルはそんな声を上げて倒れた。

「うぜぇ。まとわり付くんじゃねぇ」
 ヘンリーはそう言い放った。その顔には酷薄な笑みが浮かんでいた。
「おい、場所を変えて飲みなおすぞ」
 そして他の仲間達に向かってそう言うと、店を出て行った。
 仲間達もその後に続く。
 そして、ショックの余り立ち上がることも出来なくなっていたマリーベルだけが、取り残されてしまった。

 そして翌日、実際にヘンリーたちは、マリーベルを置き去りにして出立してしまったのだった。



 マリーベルは打ちひしがれ、1人で冒険者の店の片隅の椅子に座っていた。彼女は自分の存在意義そのものを否定されてしまったかのように感じていた。

 昔はヘンリーの態度もあのようなものではなかった。
 幼い頃に森の魔物によって両親を殺されたマリーベルが、以前から親交のあったヘンリーの両親に引き取られた時、ヘンリーは悲しみの余り言葉を失っていたマリーベルを抱きしめ、自分も涙を流しながら「マリーは必ず僕が守るから」と誓ってくれた。

 その時から、マリーベルはヘンリーを愛し、彼のことを絶対の存在と思うようになる。
 そして同時に、ヘンリーに見捨てられる事を酷く恐れるようにもなったのだった。

 以後マリーベルは何があってもヘンリーを立てた。
 マリーベルは常にヘンリーに付き従い、大人たちから「まるで2人で一つみたいね」などと言われることもあった。
 ヘンリーが子供らしい癇癪などを起こしてマリーベルにあたっても、マリーベルは抗議するどころか自分が悪いのだと思ってひたすら謝った。
 意地悪などをされた時も何の抗議もしなかった。

 もしも2人の関係をずっと見ている者がいたならば、マリーベルのそのような態度が最初のきっかけだったのだと思ったかもしれない。
 やがてヘンリーはマリーベルを酷く邪険に扱うようになっていった。
 それでもヘンリーとマリーベルの関係は変わらなかった。

 ヘンリーの親は農家だったが、兵士として長く従軍した経験があり、その剣の腕は一端のもので、村の自警団長だった。ヘンリーもそんな父から剣を習っていた。
 だが、3男だったヘンリーは親の後を継ぐことは出来ない。
 そのヘンリーが15歳で冒険者になるといって村を出た時も、マリーベルは当然のように付き従った。

 それから4年。その間にヘンリーのマリーベルへの言動は悪化の一途をたどっていた。
 そしてついに、側にいたいというマリーベルの切なる願いさえ振り払われてしまったのだ。

 だが、そんな状態であるにも関わらず、マリーベルはヘンリーの為に祈っていた。
(どうかヘンリーが無事に、変わらぬ活躍が出来ますように)
 それはマリーベルの日課だった。
 かつて、ヘンリーが彼女に優しい言葉をかけることもあった頃「マリーに祈ってもらうといつもより上手く戦える」と言ってもらった時から、彼女は1日も欠かさず、日に何度も何度も祈りを捧げていたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...