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2人の関係
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「ど、どうして連れて行ってもらえないんですか」
若い女が、悲痛な声でそう訴えた。
長い黒髪に黒い瞳、美しいが、どこか儚げな印象の女だった。
「足手まといだからに決まってるだろ」
金髪を短めに切りそろえた若い男がそう答える。
彼はその琥珀色の瞳を一瞬だけ女に向けると、視界に入れるのも疎ましいと言わんばかりに顔を背けた。
「そんな、だって、私はずっとあなたの……」
女は更に何か訴えようとしたが、男は一顧だにしない。
女の名はマリーベル、男はヘンリーという名だった。
そしてここは、アースマニス大陸西方に位置するマイエルヘルム王国の王都にある冒険者の店。
2人は冒険者だった。
そして兄妹同然に、あるいはそれ以上に親密に育った幼馴染でもある。
しかし、2人の関係は到底平等とはいえなかった。
ヘンリーはその優れた剣の腕で、若くして王都でも名の知れた冒険者となっている。
少し前には、ある迷宮で個人として活動中に隠し部屋を発見し、そこに設置されていた宝箱から貴重な魔道具を見つけるという大きな幸運にも恵まれ、そのことでも名を売っていた。
また、戦闘時の勝負強さにも定評があり、ここ一番という時には見事な大技を決めることが多かった。そうした時には、手にした武器が光り輝くように見えると言われ、光の戦士などとも呼ばれている。
今では、彼のことを信奉する取り巻きのような者達まで存在していた。
ヘンリーが光であるならば、マリーベルは陰だ。実際に陰の娘と言われることすらある。
元々猟師の娘だった彼女は、弓の扱いと野外活動などを行う野伏としての技術に長けており、王都に出て来てからは賢者の学院にも属して賢者としての知識も積んでいた。
だが、魔術を身につけることは出来なかった。才能云々以前に、保有するマナが異常なほど少なく、覚えたところでまともな魔術は使えないと宣告されてしまったのだ。
また、乱戦状態になってしまえば、そこに弓を放つ事は出来ない。
つまり、彼女は戦闘が始まってしまえば、ほとんど役立たずになってしまうのだ。
野伏としての技術と賢者としての知識は見るべきものがあったが、余りにも地味だ。
ヘンリーはそんなマリーベルを露骨に蔑み疎んじていた。
そしてとうとう、次の冒険に連れていかないと宣告したのだ。
この決定は、ヘンリーについて行けるように必死で努力していたマリーベルにとって余りにも非情なものだった。そして、合理的な行為とも言えなかった。
確かに冒険者にとって戦闘は重要だ。しかし、それが全てというわけではない。
マリーベルの技術と知識は戦闘以外では十分に冒険の役に立つ。
マリーベルはその事を主張した。
「確かに、戦闘では役に立てないかも知れません。ですがそれ以外なら必ず役に立って見せます。ですから、お願いします。私も連れて行ってください」
「……」
ヘンリーは最早答えることすらしなかった。
ヘンリーの冷たい態度を受け、本当に見捨てられてしまうと思ったマリーベルはついにヘンリーに取りすがった。
「お、お願いします。どうか私も…」
ヘンリー腕を強く振るい、マリーベルを突き飛ばす。
「あっ!」
マリーベルはそんな声を上げて倒れた。
「うぜぇ。まとわり付くんじゃねぇ」
ヘンリーはそう言い放った。その顔には酷薄な笑みが浮かんでいた。
「おい、場所を変えて飲みなおすぞ」
そして他の仲間達に向かってそう言うと、店を出て行った。
仲間達もその後に続く。
そして、ショックの余り立ち上がることも出来なくなっていたマリーベルだけが、取り残されてしまった。
そして翌日、実際にヘンリーたちは、マリーベルを置き去りにして出立してしまったのだった。
マリーベルは打ちひしがれ、1人で冒険者の店の片隅の椅子に座っていた。彼女は自分の存在意義そのものを否定されてしまったかのように感じていた。
昔はヘンリーの態度もあのようなものではなかった。
幼い頃に森の魔物によって両親を殺されたマリーベルが、以前から親交のあったヘンリーの両親に引き取られた時、ヘンリーは悲しみの余り言葉を失っていたマリーベルを抱きしめ、自分も涙を流しながら「マリーは必ず僕が守るから」と誓ってくれた。
その時から、マリーベルはヘンリーを愛し、彼のことを絶対の存在と思うようになる。
そして同時に、ヘンリーに見捨てられる事を酷く恐れるようにもなったのだった。
以後マリーベルは何があってもヘンリーを立てた。
マリーベルは常にヘンリーに付き従い、大人たちから「まるで2人で一つみたいね」などと言われることもあった。
ヘンリーが子供らしい癇癪などを起こしてマリーベルにあたっても、マリーベルは抗議するどころか自分が悪いのだと思ってひたすら謝った。
意地悪などをされた時も何の抗議もしなかった。
もしも2人の関係をずっと見ている者がいたならば、マリーベルのそのような態度が最初のきっかけだったのだと思ったかもしれない。
やがてヘンリーはマリーベルを酷く邪険に扱うようになっていった。
それでもヘンリーとマリーベルの関係は変わらなかった。
ヘンリーの親は農家だったが、兵士として長く従軍した経験があり、その剣の腕は一端のもので、村の自警団長だった。ヘンリーもそんな父から剣を習っていた。
だが、3男だったヘンリーは親の後を継ぐことは出来ない。
そのヘンリーが15歳で冒険者になるといって村を出た時も、マリーベルは当然のように付き従った。
それから4年。その間にヘンリーのマリーベルへの言動は悪化の一途をたどっていた。
そしてついに、側にいたいというマリーベルの切なる願いさえ振り払われてしまったのだ。
だが、そんな状態であるにも関わらず、マリーベルはヘンリーの為に祈っていた。
(どうかヘンリーが無事に、変わらぬ活躍が出来ますように)
それはマリーベルの日課だった。
かつて、ヘンリーが彼女に優しい言葉をかけることもあった頃「マリーに祈ってもらうといつもより上手く戦える」と言ってもらった時から、彼女は1日も欠かさず、日に何度も何度も祈りを捧げていたのである。
若い女が、悲痛な声でそう訴えた。
長い黒髪に黒い瞳、美しいが、どこか儚げな印象の女だった。
「足手まといだからに決まってるだろ」
金髪を短めに切りそろえた若い男がそう答える。
彼はその琥珀色の瞳を一瞬だけ女に向けると、視界に入れるのも疎ましいと言わんばかりに顔を背けた。
「そんな、だって、私はずっとあなたの……」
女は更に何か訴えようとしたが、男は一顧だにしない。
女の名はマリーベル、男はヘンリーという名だった。
そしてここは、アースマニス大陸西方に位置するマイエルヘルム王国の王都にある冒険者の店。
2人は冒険者だった。
そして兄妹同然に、あるいはそれ以上に親密に育った幼馴染でもある。
しかし、2人の関係は到底平等とはいえなかった。
ヘンリーはその優れた剣の腕で、若くして王都でも名の知れた冒険者となっている。
少し前には、ある迷宮で個人として活動中に隠し部屋を発見し、そこに設置されていた宝箱から貴重な魔道具を見つけるという大きな幸運にも恵まれ、そのことでも名を売っていた。
また、戦闘時の勝負強さにも定評があり、ここ一番という時には見事な大技を決めることが多かった。そうした時には、手にした武器が光り輝くように見えると言われ、光の戦士などとも呼ばれている。
今では、彼のことを信奉する取り巻きのような者達まで存在していた。
ヘンリーが光であるならば、マリーベルは陰だ。実際に陰の娘と言われることすらある。
元々猟師の娘だった彼女は、弓の扱いと野外活動などを行う野伏としての技術に長けており、王都に出て来てからは賢者の学院にも属して賢者としての知識も積んでいた。
だが、魔術を身につけることは出来なかった。才能云々以前に、保有するマナが異常なほど少なく、覚えたところでまともな魔術は使えないと宣告されてしまったのだ。
また、乱戦状態になってしまえば、そこに弓を放つ事は出来ない。
つまり、彼女は戦闘が始まってしまえば、ほとんど役立たずになってしまうのだ。
野伏としての技術と賢者としての知識は見るべきものがあったが、余りにも地味だ。
ヘンリーはそんなマリーベルを露骨に蔑み疎んじていた。
そしてとうとう、次の冒険に連れていかないと宣告したのだ。
この決定は、ヘンリーについて行けるように必死で努力していたマリーベルにとって余りにも非情なものだった。そして、合理的な行為とも言えなかった。
確かに冒険者にとって戦闘は重要だ。しかし、それが全てというわけではない。
マリーベルの技術と知識は戦闘以外では十分に冒険の役に立つ。
マリーベルはその事を主張した。
「確かに、戦闘では役に立てないかも知れません。ですがそれ以外なら必ず役に立って見せます。ですから、お願いします。私も連れて行ってください」
「……」
ヘンリーは最早答えることすらしなかった。
ヘンリーの冷たい態度を受け、本当に見捨てられてしまうと思ったマリーベルはついにヘンリーに取りすがった。
「お、お願いします。どうか私も…」
ヘンリー腕を強く振るい、マリーベルを突き飛ばす。
「あっ!」
マリーベルはそんな声を上げて倒れた。
「うぜぇ。まとわり付くんじゃねぇ」
ヘンリーはそう言い放った。その顔には酷薄な笑みが浮かんでいた。
「おい、場所を変えて飲みなおすぞ」
そして他の仲間達に向かってそう言うと、店を出て行った。
仲間達もその後に続く。
そして、ショックの余り立ち上がることも出来なくなっていたマリーベルだけが、取り残されてしまった。
そして翌日、実際にヘンリーたちは、マリーベルを置き去りにして出立してしまったのだった。
マリーベルは打ちひしがれ、1人で冒険者の店の片隅の椅子に座っていた。彼女は自分の存在意義そのものを否定されてしまったかのように感じていた。
昔はヘンリーの態度もあのようなものではなかった。
幼い頃に森の魔物によって両親を殺されたマリーベルが、以前から親交のあったヘンリーの両親に引き取られた時、ヘンリーは悲しみの余り言葉を失っていたマリーベルを抱きしめ、自分も涙を流しながら「マリーは必ず僕が守るから」と誓ってくれた。
その時から、マリーベルはヘンリーを愛し、彼のことを絶対の存在と思うようになる。
そして同時に、ヘンリーに見捨てられる事を酷く恐れるようにもなったのだった。
以後マリーベルは何があってもヘンリーを立てた。
マリーベルは常にヘンリーに付き従い、大人たちから「まるで2人で一つみたいね」などと言われることもあった。
ヘンリーが子供らしい癇癪などを起こしてマリーベルにあたっても、マリーベルは抗議するどころか自分が悪いのだと思ってひたすら謝った。
意地悪などをされた時も何の抗議もしなかった。
もしも2人の関係をずっと見ている者がいたならば、マリーベルのそのような態度が最初のきっかけだったのだと思ったかもしれない。
やがてヘンリーはマリーベルを酷く邪険に扱うようになっていった。
それでもヘンリーとマリーベルの関係は変わらなかった。
ヘンリーの親は農家だったが、兵士として長く従軍した経験があり、その剣の腕は一端のもので、村の自警団長だった。ヘンリーもそんな父から剣を習っていた。
だが、3男だったヘンリーは親の後を継ぐことは出来ない。
そのヘンリーが15歳で冒険者になるといって村を出た時も、マリーベルは当然のように付き従った。
それから4年。その間にヘンリーのマリーベルへの言動は悪化の一途をたどっていた。
そしてついに、側にいたいというマリーベルの切なる願いさえ振り払われてしまったのだ。
だが、そんな状態であるにも関わらず、マリーベルはヘンリーの為に祈っていた。
(どうかヘンリーが無事に、変わらぬ活躍が出来ますように)
それはマリーベルの日課だった。
かつて、ヘンリーが彼女に優しい言葉をかけることもあった頃「マリーに祈ってもらうといつもより上手く戦える」と言ってもらった時から、彼女は1日も欠かさず、日に何度も何度も祈りを捧げていたのである。
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