13 / 15
決着
しおりを挟む
開始の声が響くと同時に、ヘンリーが全速でマリーベルに向かって走る。
「ジェンナお願い!」
マリーベルの声に応えてヴァルキリーのジェンナが顕現し、ヘンリーの前に立ちふさがった。そしてたちまち激しい剣戟が始まった。
ヘンリーには余裕があった。
(俺はこの決闘に勝てる。マリー、お前にもそれが分かっていて決闘なんて手段を選んだんだろう?
俺が勝ってお前は俺のところに戻る。それがお前の望みなんだ!お前は今でも俺の事が好きなんだ!)
ヘンリーは本気でそう信じていた。
だが、彼の考えは満更荒唐無稽なものではない。
彼が優れた戦士であるのは事実だったからだ。
ヘンリーはヴァルキリーの加護を得ていた頃に比べると、確かに精彩を欠いていた。
だがヴァルキリーの加護は、本人の実力に若干の上乗せをするものであり、実力を何倍にするほどの劇的なものではない。
ヴァルキリーの加護を失ってもなお、ヘンリーが優秀な戦士であることに変わりはなかった。
事実、ヘンリーは上位精霊ヴァルキリーに対してさえ優勢に戦いを進めている。
彼も無傷ではない。だが自分が受けた以上のダメージをヴァルキリーに与えた実感が、彼にはあった。
ジェンナの鋭い突きをいなし、代わりに剣の一撃を叩き込んだヘンリーは、勝利への実感を持ち、心中で叫んだ。
(このままこのヴァルキリーとかいう精霊に勝って、お前を俺の物にしてやる! お前は俺の物なんだ、マリー!)
だが彼は、ひとつ思い違いをしていた。
この戦いはヴァルキリーとヘンリーとの戦いではない。マリーベルとヘンリーの戦いなのだ。
唐突にジェンナの姿が掻き消えた。
次の瞬間、ヘンリーは強烈な殺気を感じた。
殺気を放つ方を向いたヘンリーが目にしたのは、弓を構えヘンリーに狙いを定めるマリーベルの姿だった。
マリーベルの弓につがえられた矢は、間違いなくヘンリーの心臓を狙っている。
その矢が放たれた。
その瞬間、矢尻が光り輝くのを、ヘンリーは確かに目にしていた。
マリーベルは、ジェンナとヘンリーが戦い始めてから、ずっとヘンリーを狙い、その動きを観察していた。
ここぞという時に一撃を加えるためだ。
そしてその瞬間、ジェンナを自分の身に宿らせた。
マリーベルの弓の腕では、本来はヘンリーに当てるのは難しい。
だが、ヴァルキリーの加護を得れば、その差を埋めることも不可能ではない。
事実、その矢はヘンリーの体に届いた。
ヘンリーは辛うじて心臓への直撃を避けた。
しかし、マリーベルの矢はヘンリーの左肩を深々と刺し貫いく。無視できないダメージだ。
そしてそのダメージ以上に、ヘンリーはマリーベルから強烈な殺意のこもった一撃を受けたことにショックを受けていた。
そのヘンリーを2の矢が襲う。それは彼の腹を貫いた。
次はまた心臓が狙われ、とっさに庇った右腕にあたった。
「そこまでッ! 勝者マリーベル!」
審判がそう叫ぶ。
ヘンリーの受けたダメージが、既に相当深刻なものになっていたのも間違いないが、それ以上に戦意を喪失したと思われた事が敗北を決定的にした。
ヘンリーはマリーベルに対して、攻撃する為に向かっていく意思を示せていなかった。
マリーベルの勝利が確定すると、レミが駆け寄って来てマリーベルに飛びつきながら叫ぶ。
「やった! マリーさん」
マイラとエイシアもマリーベルの近くまでやってくる。
「見事だったマリーベル。最後は想定したよりもあっけなかったな」
マイラがそう声をかけた。
ヘンリーがマリーベルの方に向かって来たなら、再度ジェンナによって足止めをし、マリーベルは距離をとってもう一度弓矢でヘンリーを狙う予定だった。
戦士としての地力に勝るヘンリーによって、そのような事をする余裕もなくジェンナが倒されてしまう可能性も高かい。
だが、マリーベルの勝算もないとは言えない。そう判断したことも、マイラ達がマリーベルの決闘に同意した理由のひとつだった。
「ありがとう。みんなのおかげよ」
マリーベルがそう応える。
マイラは、膝をつき座り込んでしまったヘンリーの様子を確認していたが、マリーベルは、最早ヘンリーを一瞥もしなかった。
勝利を喜び合うマリーベルたちに、審判が告げる。
「勝者は、費用を負担するならば、魔法によって敗者に条件を強制することが出来るが、どうするね?」
「もちろんお願いします」
マリーベルは即答した。それが彼女の目的だ。
今更ヘンリーの口約束を信じるなど、全くありえない。
審判は頷くと、今後の手続きの説明を始めた。
「ま、待ってくれマリー」
そんな声が発せられた。ヘンリーだった。
彼はマリーベルの方に向かって這いずって来ようとしている。
彼が受けたダメージはやはり深刻で、一度座り込んでしまえばもはや立つことも出来ないようだ。
そんな状況でも彼は、マリーベルに向かって語りかけ続けた。
「行かないでくれ。俺はお前を愛しているんだ。俺を見捨てないでくれマリー」
そのヘンリーの告白を聞き、その姿を見てしまったマリーベルは、嫌悪感と恐怖の余り背筋が震えるのを感じた。
その恐怖は、自分では全く理解ができない得体の知れない存在を見てしまった者が本能的に感じる恐怖だった。
マリーベルは審判に向かって言った。
「早く手続きをお願いします」
「ああ、速やかに行うから安心してくれ」
その回答を聞いたマリーベルは、「よろしくお願いいたします」と告げると、仲間たちと共にその場を去った。
ヘンリーには声もかけなかったし、一瞥もしなかった。
マリーベルは、最早ヘンリーの事を声をかけるべき相手と認識していなかった。
「ジェンナお願い!」
マリーベルの声に応えてヴァルキリーのジェンナが顕現し、ヘンリーの前に立ちふさがった。そしてたちまち激しい剣戟が始まった。
ヘンリーには余裕があった。
(俺はこの決闘に勝てる。マリー、お前にもそれが分かっていて決闘なんて手段を選んだんだろう?
俺が勝ってお前は俺のところに戻る。それがお前の望みなんだ!お前は今でも俺の事が好きなんだ!)
ヘンリーは本気でそう信じていた。
だが、彼の考えは満更荒唐無稽なものではない。
彼が優れた戦士であるのは事実だったからだ。
ヘンリーはヴァルキリーの加護を得ていた頃に比べると、確かに精彩を欠いていた。
だがヴァルキリーの加護は、本人の実力に若干の上乗せをするものであり、実力を何倍にするほどの劇的なものではない。
ヴァルキリーの加護を失ってもなお、ヘンリーが優秀な戦士であることに変わりはなかった。
事実、ヘンリーは上位精霊ヴァルキリーに対してさえ優勢に戦いを進めている。
彼も無傷ではない。だが自分が受けた以上のダメージをヴァルキリーに与えた実感が、彼にはあった。
ジェンナの鋭い突きをいなし、代わりに剣の一撃を叩き込んだヘンリーは、勝利への実感を持ち、心中で叫んだ。
(このままこのヴァルキリーとかいう精霊に勝って、お前を俺の物にしてやる! お前は俺の物なんだ、マリー!)
だが彼は、ひとつ思い違いをしていた。
この戦いはヴァルキリーとヘンリーとの戦いではない。マリーベルとヘンリーの戦いなのだ。
唐突にジェンナの姿が掻き消えた。
次の瞬間、ヘンリーは強烈な殺気を感じた。
殺気を放つ方を向いたヘンリーが目にしたのは、弓を構えヘンリーに狙いを定めるマリーベルの姿だった。
マリーベルの弓につがえられた矢は、間違いなくヘンリーの心臓を狙っている。
その矢が放たれた。
その瞬間、矢尻が光り輝くのを、ヘンリーは確かに目にしていた。
マリーベルは、ジェンナとヘンリーが戦い始めてから、ずっとヘンリーを狙い、その動きを観察していた。
ここぞという時に一撃を加えるためだ。
そしてその瞬間、ジェンナを自分の身に宿らせた。
マリーベルの弓の腕では、本来はヘンリーに当てるのは難しい。
だが、ヴァルキリーの加護を得れば、その差を埋めることも不可能ではない。
事実、その矢はヘンリーの体に届いた。
ヘンリーは辛うじて心臓への直撃を避けた。
しかし、マリーベルの矢はヘンリーの左肩を深々と刺し貫いく。無視できないダメージだ。
そしてそのダメージ以上に、ヘンリーはマリーベルから強烈な殺意のこもった一撃を受けたことにショックを受けていた。
そのヘンリーを2の矢が襲う。それは彼の腹を貫いた。
次はまた心臓が狙われ、とっさに庇った右腕にあたった。
「そこまでッ! 勝者マリーベル!」
審判がそう叫ぶ。
ヘンリーの受けたダメージが、既に相当深刻なものになっていたのも間違いないが、それ以上に戦意を喪失したと思われた事が敗北を決定的にした。
ヘンリーはマリーベルに対して、攻撃する為に向かっていく意思を示せていなかった。
マリーベルの勝利が確定すると、レミが駆け寄って来てマリーベルに飛びつきながら叫ぶ。
「やった! マリーさん」
マイラとエイシアもマリーベルの近くまでやってくる。
「見事だったマリーベル。最後は想定したよりもあっけなかったな」
マイラがそう声をかけた。
ヘンリーがマリーベルの方に向かって来たなら、再度ジェンナによって足止めをし、マリーベルは距離をとってもう一度弓矢でヘンリーを狙う予定だった。
戦士としての地力に勝るヘンリーによって、そのような事をする余裕もなくジェンナが倒されてしまう可能性も高かい。
だが、マリーベルの勝算もないとは言えない。そう判断したことも、マイラ達がマリーベルの決闘に同意した理由のひとつだった。
「ありがとう。みんなのおかげよ」
マリーベルがそう応える。
マイラは、膝をつき座り込んでしまったヘンリーの様子を確認していたが、マリーベルは、最早ヘンリーを一瞥もしなかった。
勝利を喜び合うマリーベルたちに、審判が告げる。
「勝者は、費用を負担するならば、魔法によって敗者に条件を強制することが出来るが、どうするね?」
「もちろんお願いします」
マリーベルは即答した。それが彼女の目的だ。
今更ヘンリーの口約束を信じるなど、全くありえない。
審判は頷くと、今後の手続きの説明を始めた。
「ま、待ってくれマリー」
そんな声が発せられた。ヘンリーだった。
彼はマリーベルの方に向かって這いずって来ようとしている。
彼が受けたダメージはやはり深刻で、一度座り込んでしまえばもはや立つことも出来ないようだ。
そんな状況でも彼は、マリーベルに向かって語りかけ続けた。
「行かないでくれ。俺はお前を愛しているんだ。俺を見捨てないでくれマリー」
そのヘンリーの告白を聞き、その姿を見てしまったマリーベルは、嫌悪感と恐怖の余り背筋が震えるのを感じた。
その恐怖は、自分では全く理解ができない得体の知れない存在を見てしまった者が本能的に感じる恐怖だった。
マリーベルは審判に向かって言った。
「早く手続きをお願いします」
「ああ、速やかに行うから安心してくれ」
その回答を聞いたマリーベルは、「よろしくお願いいたします」と告げると、仲間たちと共にその場を去った。
ヘンリーには声もかけなかったし、一瞥もしなかった。
マリーベルは、最早ヘンリーの事を声をかけるべき相手と認識していなかった。
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる