惨劇の廃墟の死者の声

ギルマン

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8.悍ましき魔物

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 私は無事にその場所へと行き着く事ができました。
 それは他の建物よりも少し大きいだけの、特に目立ったところもない一つの家です。
 朽ち果てた扉から中に入ります。
 そして、直ぐにそれを見つけることが出来ました。
 比較的広い部屋の床の中心に、濁った黄色の光を放つ文様が描かれています。
 あれがホドリートさんが言った呪印、そしてゴーストとされたレーシアさんの記憶にある、死者をアンデッドとしてしまう術式で間違いありません。

 私はその文様を壊すべく、ジャムシールを抜き払いつつ急ぎました。
 その時、背後に何者かの気配が生じます。私はその気配に気付く事ができました。急ぎつつも注意を怠ってはいなかったからです。
 呪印を壊そうとしたホドリートさんが、それを果たせずに死んだという事実は、呪印を守る何者かがいること、そしてその者が侮れない強さであることを示しています。私は、その事を忘れてはいませんでした。

 素早く振り返ると、どこから現れたのか、全身が黒色の人型の魔物がいました。ただし、その両腕は長い鞭のようになっています。恐らく、古代魔法帝国時代に作られ、倒されるまで永遠に動き続けるという人工生物の一種でしょう。
 その鞭状の両腕が私に向かって振るわれます。
 敵の存在を予想して、呪印に向かおうとする直前に敏捷力を強化する錬生術を使っていた私は、かろうじてその攻撃を避けました。
 そして思い切って踏み込み、反撃を加えます。

 魔物の動きはそれほど早くはなく、私のシャムシールはその魔物の胸を捉えました。
 しかし、致命傷には程遠いダメージしか与えられません。
 魔物は鞭状の腕を使っての攻撃を繰り返します。その攻撃は容易く避けられるような甘いものではありません。防御を疎かにすることも錬生術を解く事も出来ません。
 私はどうにかその攻撃をかいくぐりつつ反撃を繰り返します。

 戦いは私の方が優勢です。
私のシャムシールは2度3度と魔物を傷つけました。このまま順当にいけば勝てるはずです。
 しかし、戦いはこの魔物を倒せばそれで終わりとはなりません。この魔物は一刻も早く倒さなければならないのです。

 そんな焦り故か、足がわずかに滑り、私の回避が一瞬遅れました。
「しまっ!!」
 思わずそんな声を発した時には、魔物の右腕が私を捉え、巻き付いてきます。そして、驚くほどの強さで締め上げられます。更に、左腕も巻き付けられ、私の動きは封じられてしまいました。

「ぐげッ、ぐげッ、ぐげッ」
 すると、何も無い筈の壁際からそんな声が聞こえました。
 私がその声が聞こえて来た方を向いて睨みつけると、異様な姿が浮かび上がって来ました。今まで透明化していたようです。
 その姿を見た瞬間、私は激しい怒りにかられました。それがレーシアさんの記憶にある魔物だったからです。
 その姿は、高さ2mにもなろうかという大きさの、直立したカエルのようなものでした。
 カエルと人間を掛け合わせたような顔には、醜い笑いが浮かんでいます。
 そして、その両手で巨大な鋏のような物を握っています。

 その武器がホドリートさんを殺した物でしょう。
 ホドリートさんの致命傷は喉への切り傷でした。最初に現れた黒い人型の魔物の形状を考えれば、その傷は他の者から与えられたのは明らかです。
 つまり、ここには他の敵もいるということです。
 それを察していた私は、最初に現れた黒い魔物を早く倒そうと焦ってしまいました。
 その結果、不覚をとって動きを封じられてしまい、それを受けてこの魔物が姿を現したのでしょう。

「ぐげげ、やっど捕まえたが、げげ」
 カエルのような魔物はそう口にしました。
 やはり、私が動きを封じられるのを待っていたようです。
 私は怒りを抑えてその魔物に問いました。
「この街の方たちを殺したのは、あなたですね」
 それは確認でした。

 私はレーシアさんの記憶から、魔術師によって抵抗する術を奪われたこの街の住民たちを、実際に殺して回ったのはこのような姿をした魔物だった事を知っていました。
 そして、その武器の形状から、ホドリートさんを殺したのもこの魔物だろうと思っていました。つまり、千数百年が経った今も、その魔物が存在し続けていると想定していたのです。

「げげ、げげ、ぞうだ、おでがやった。あでは楽じがった。げげげげげ」
 カエルのような魔物は、そう言って醜い笑いを見せます。
「あなたは、いったい何なのですか」
 私は、この余りに邪悪な魔物に対して、そう問い詰めずにはいられませんでした。
「おでは、モードア。おめらが、レッサーデーモンと呼ぶもんだ、げ、げ、げ」
 モードアと名乗った魔物は、聞き苦しい声をあげながらこちらに一歩一歩向かってきます。

「まだ玩具が、でに入っで、うでしい」
 そして、そんな事を言いつつ、「ガツッ、ガツッ」と音を立てて、手にした巨大な鋏を何度も開いたり閉じたりします。
 その顔には、欲望を湛えた悦びの表情が浮かんでいました。
「くッ」
 余りの悍ましさに、私は思わずそんな声を出してしまいます。

「ぐげげげ」
 嫌悪する私の様子が面白いのか、モードアは更にそんな笑い声をあげて、無造作に近づいてきます。

 そのモードアが間合いに入る直前、私は首にかけたペンダントに意識を向け、同時に腕に力を込めました。
 すると、私を締め上げていた黒色の魔物の腕が瞬時に解け、私は自由を取り戻しました。

 ホドリートさんは拘束されて殺されたと思われる。という私の推測に応じて、治療師さんが貸してくれた“身かわしの首飾り”は、間違いなくその効果を発揮してくれたのです。

「が!?」
 モードアは呆けたような声をあげました。
 私がとっさに考えた、相手の意表を突くために“身かわしの首飾り”を使うという手は成功しました。
 私はすかさず、シャムシールを右から左に振るい、モードアを切りつけます。
「げぇ」
 無理に退こうとしたモードアは、そんな声をあげてその場で尻もちをつき、その胸のあたりをシャムシールが浅く切ります。
 私は勢いを緩めず体を回転させ、そのまま黒い魔物にも切りつけました。

 狙い過たずシャムシールは黒い魔物の腹部分を切り裂きます。
 しかし、まだ倒せてはいません。魔物は腕を使って反撃しようとします。
 私は思い切ってシャムシールを大きく振り上げ、渾身の力を込めて振り下ろしました。
 シャムシールは魔物の左肩から入ってその身を深く切り裂き右脇腹に抜けます。
 黒い魔物は崩れ落ちるように倒れました。

 ほぼ同時に、背後から強い殺気が迫ります。
 とっさに右に体を動かしますが、左の脇腹を抉られました。それは、閉じられた状態で突き出された巨大な鋏です。
 モードアは、背を向けた私を黙って見ているほど愚かではなかったのです。
 そしてその攻撃は、見た目の印象よりも遥かに鋭く強烈なものでした。
 私が負ったダメージは相当のものです。そのことに戦慄を感じつつも、私は素早く振り返りました。

 モードアは続けざまに鋏を突き出して来ます。
 私は懸命にその攻撃を避け、反撃を試みます。
 再び激しい戦いが始まりました。
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