剣魔神の記

ギルマン

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第3章

66.決定的な報告

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 19日の日中から夜半までは特に大きな動きはなかった。
 さすがにゴルブロ一味が街中に出て来ることはなく、何の騒ぎも起きなかった。

 だが、深夜になって事態が動いた。
 アルマンドが興奮した様子でエイクが詰める部屋を訪れたのだ。

 その時同室していたのはアルターだけだった。
 アルマンドは両者に向かって早速報告を始める。
「上手く行きました。トニーニョはこっちにつきました。
 それで、早速大事な報告があります。今夜の内に、ゴルブロを直接討ち取る絶好の機会が訪れます」
「今夜?今日の今日でいきなりか?」

 エイクが訝しげに尋ねると、アルマンドが説明を始めた。
「はい、そうです。
 まず、今レイダーの隠れ家には全部で7人の人間が潜んでいます。
 レイダーとその配下の幹部、トニーニョともう1人のイリーノって男も呼ばれています。
 そしてゴルブロ、ミカゲ、ザンサルス、それからザンサルスの護衛も1人います。
 バルドス他の連中は別の場所にいるそうです。アルターさんの推測どおりですね。
 で、ゴルブロ一味は今日の内にいろいろ相談して、何とかバルドスとも連絡を取って、今夜中に街を出ることを決めたんだそうです。
 そしてレイダーもこれ以上隠れ家に閉じこもっている事を諦めて、それに従って街を出ることにしたそうです。
 具体的なやり方は、まずバルドス率いる者達が全員で南門から強引に脱出を図る。
 当然騒ぎになるので、予めタイミングを計っておいて、その隙にレイダーとその幹部達、それにザンサルスとその護衛が東門から街を出る。
 そして最後に、一番手薄になるはずの西門からゴルブロとミカゲが脱出する。
 そんなやり方だそうです。
 要するに、隠れ家にゴルブロとミカゲしかいなくなる時間帯が出来るわけです」

「自分と女の安全を最優先にして他の部下を囮に使うわけか。
 俺が言えた事ではないが、思ったより肝が小さいな」
 そんな感想を口にしたエイクに、アルマンドが答える。
「そうですね。でもそれを承知で手下が囮役をやるわけですから、ある意味で人望があるって事かも知れません」
「いずれにしても、時期を見計らって攻撃すれば、その2人だけと戦えるというわけだな」
「そのとおりです」

 そこでアルターが発言した。
「これは抜かりました。
 そのようなことになるならば、テティス殿達には待機してもらっているべきでした。
 考えてみれば、今の状況でゴルブロ一味がいつまでも王都に居ようと思うわけがない。
 そして王都を抜け出すなら早い方がいい。今夜動くというのは道理です。
 そこに思い至らないとは私の失態でした。お許しください」

「いや、構わない。どうせゴルブロとミカゲに対しては俺1人で戦うつもりだった。彼女達を使うつもりはない」
「お言葉ですがエイク様、お1人だけで行動するのはさすがに不用意すぎます。
 戦いの中で更なる強さを求めたいというお気持ちは理解できますが、死んでしまっては仕方がないというのも事実。
 まずはお1人で戦うにしても、後詰は用意すべきです。
 僭越ながら、ここは私に同行させてください」
「アルターの言う事ももっともだが、悪いがお前のその足では援護にならないだろう。
 やはりお前はここにいて、出来るだけ早くテティス達と連絡を取るように努めてくれ。
 そして、彼女達を後詰に送って欲しい。
 だが、たとえ彼女達が間に合わなくても、機会が訪れたなら俺は戦う」
「……承知しました」

 アルマンドもアルターに向かって発言する。
「アルターさん、エイク様1人だけって事はないですよ。俺も戦います。
 相手が俺よりも遥かに格上なのは分かっていますが、この身で攻撃を受けてでも足止めくらいはして見せます」
「そうですね。あなたもしっかりと務めを果たしなさい」
「分かりました」

 エイクもアルマンドに声をかける。
「命まで賭けろなどと言うつもりはないが、期待している」
「はい!任せてください」
 アルマンドはそう元気良く応えた。

 続けてエイクが問いかけた。
「それで、その、レイダーたちの隠れ家というのはどこなんだ?」
「ザンクロフト伯爵という貴族の別邸です。どういうコネがあるのかはトニーニョも知らないそうですが、レイダーはずっとそこを使っていたそうです。
 それも足が着かないように1人だけで、です。
 その建物の裏口の合鍵を貰ってきています。
 罠とかの場所も教えてもらっているんで、攻め込むのに不都合はありません。早速行きましょう」

「そうか……」
 アルマンドの言葉を聞いたエイクは、そう呟くと視線を下げてしばし沈黙した。そして、改めて自分がこれから挑もうとしている戦いについて考えた。
(この戦いは危険な賭けだ。今までも何度も危険な戦いに挑んできたが、それらに比べても跳び抜けて危険だ。
 一歩間違えれば俺は簡単に死ぬ。少し運が悪かっただけでも死ぬだろう。
 だが、勝算がないわけじゃあない。勝算があるなら、これは強敵と戦える貴重な機会でもある。
 勝って当たり前の敵とばかり戦っても強くはなれない。
 命がけの戦いをくぐり抜けてこそ強くなれる。一番最初の実戦から、俺はずっとそう思って戦って来た。それはこれからも変わらない。
 これはそんな戦いの一つだ。
 そして、この戦いに勝った時には貴重な者を得られるだろう。価値ある何かを得ようと思うなら、相応の危険に身をさらすのは当然だ。
 この戦いには命を賭ける価値がある)

 エイクはそう考えをまとめ、決意を新たにして視線をあげ、真直ぐにアルマンドを見て彼に向って告げた。
「分かった。行こう」
「はい」
 そう応えるアルマンドもその表情を厳しく引き締めている。

 エイクはアルターに向かっても言葉をかけた。
「後のことをよろしく頼んだぞ」
「承知しました。御武運をお祈りしております」
 アルターのそんな返答を受け、エイクは部屋を出た。
 そしてアルマンドと共に、レイダーとゴルブロ達が潜むというその隠れ家へ向かったのだった。
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