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第1章
35.罠③
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鋭く睨みつけて来るエイクに対して、テオドリックが問いを発した。
「どうしてこっちの動きに気付いたんだ?」
「ここは俺の狩場だからな。獲物の場所を知るための細工はいくらでもあるんだよ」
「貴様、その力は……」
どうした、と聞こうとしたテオドリックは、聞くまでもないことに気付いた。隠していたに決まっている。
テオドリックが実力を出し切るしかない窮地と思っていたさっきの状況は、エイクにとってはそこまでではなかったということだ。
そして、まんまとこの場所におびき寄せられ、この状況に陥った。
テオドリックは3人だけでは最早勝ち目は薄いということを認めないわけにはいかなかった。
そんなテオドリックにエイクが問いかける。
「一応聞いておくが、降伏する気はあるか?知っている情報を全て吐くなら命くらいは助けてやってもいいぞ」
一瞬その選択肢を検討したテオドリックに、続けて言葉が投げかけられる。
「まあ、その場合身動きが取れなくなるように拘束させてもらうが。今までのお前らの行動を考えれば、当然の対応だろ?」
そう言って薄く笑うエイクからは確かな殺気が感じられた。
(助ける気など最初から無いのか?それにこの場で殺されなくても正規の裁判で死刑になる可能性は高い。
フォルカスがどこまで俺達をかばうか知れたもんじゃあないし、そもそも奴の権力だって絶対じゃあない。しかしこの状態で戦って勝てるのか……)
テオドリックが迷っていると、前に進んでその真横に並んだガルバが彼に声をかけた。
「やろう、テオ。俺達なら出来る」
その短い言葉は、テオドリックから迷いを払った。
(……そうだ、どっちにしても生き残れる保証がないなら戦うべきだ。
2人で田舎から出てきて10年。今までだって格上や勝ち目の薄い敵とも戦ってきた。そして勝って来たんだ)
「ああ、やろう。
カテリーナ、援護に時間をかける余裕はない。攻撃魔法だ。
ガルバ、行くぞ!」
テオドリックらの様子を注意深く見ていたエイクは、テオドリックの気合の声が終わるのを待たずに動いた。
そして先制攻撃をかける。必要な錬生術も全て入れている。
目標はガルバだ。
ガルバがテオドリックをかばうように動くのは分かっている。だから最初からガルバを狙ったのだった。
その攻撃はガルバの頭部を捉える。兜の上からの打撃だったが、的確に脳を震わせ甚大なダメージを与えた。
しかしガルバは歯を食いしばり反撃を放つ。いつもの大降りのメイスの一撃だ。
エイクは危なげなく避ける。そこにテオドリックの双撃が迫る。2人が田舎の悪ガキだった頃から続けていた連携だった。
テオドリックの攻撃は威力よりも、とにかく当てることを重視したもので、命中と威力を増加させる錬生術も全て乗せていた。
その一撃目はエイクを捉えた。しかし二撃目は避けられる。
そこにカテリーナの“魔力の投槍”が炸裂する。それはマナを余分に消費して、威力を重視したものだった。
テオドリックは己を鼓舞した。
(俺たちだけの連携でも当てられる。当てられるなら勝てる!カテリーナの魔法も有効だ)
しかし、当てることを重視したテオドリックの剣撃によるダメージは、エイクにとってさほど大きなものではなく、カテリーナの魔法も大したダメージを与えてはいなかった。
エイクは魔法によるダメージを軽減する錬生術を使用していた。
そして、エイクはガルバとテオドリックの連携を確認し、戦術を変えた。
威力重視の攻撃を放つが、無理に急所までは狙わず、当てられるところに当てる。そして代わりに回避にも気を配るようにした。
そうして放たれたエイクの攻撃はガルバの左肩を強打した。
その一撃は板金を大きく歪ませ、ガルバは再び深刻なダメージを受けた。
彼も防御を高める錬生術を使っていたが焼け石に水だった。
「ぐあッ」ガルバが短く声を上げる。
戦闘で彼が苦痛の声を上げるのは、めったにないことだった。
それでも彼はメイスを大きく振りかぶって振り下ろした。だが、その攻撃はやはり避けられてしまう。
続いてテオドリックが攻撃する。
しかし何時にないガルバの苦境に気をとられたのか、その双撃は精彩を欠き、いずれも空しく空を切った。
カテリーナの魔法攻撃もやはり決定打を与えられない。
ガルバは気を抜けば意識を失ってしまいそうな激痛の中、それでもなお右手のメイスを、もう一度大きく振りかぶった。
テオドリックをかばえる位置を保つことも、この期に及んでも忘れてはいない。
テオドリックを敵の攻撃から守りつつ、テオドリックの攻撃を援護する為の攻撃を放つ。それが10年以上続けてきた彼の戦い方だ。
そうしていればテオドリックがどうにかしてくれる。彼はそう信じていた。
しかし、愚直にいつもの攻撃を放とうとする彼の左手は、いつもより下がり、その手に持つ竜燐の盾の隙も大きくなっていた。
その隙を見逃すエイクではなかった。
次の瞬間、ガルバがメイスを振り下ろすよりも前に、エイクのバスタードソードがガルバの左目を貫き、その頭蓋を破壊した。完全な致命傷だった。
「テ、オ……」
そう呟いてガルバは崩れ落ちた。
「ガルバァ!!」
そう叫びつつも切り付けてくるテオドリックの攻撃を、エイクは容易く避けた。
それは最早脅威を感じるものではなかった。
その後の展開は一方的だった。
守る者がいなくなったテオドリックは、エイクが剣を振るうたびに確実に傷つき、逆に彼の攻撃はかすりもしない。
カテリーナも“魔力の投槍”を唱え続けていたが、その術式が大成功を収めることもなく、大きなダメージは与えられていなかった。
「なぜだ!どうして、どうして、こんなことになっちまったんだぁ!!」
テオドリックは涙を流し、そう絶叫しながら双撃を放とうとした。
彼は既に気を失ってもおかしくないほどの傷を受けていた。
そのテオドリックの首筋をエイクの剣が貫く。
(何が、いけなかったんだ……)
テオドリックは最後までそう問いかけていたが、その口から最早意味のとれる声が発せられることはなく、答えはどこからも返ってはこなかった。
「ッか、ッは」
そして、そんな呻き声と共に大量の血を吐くと彼は倒れた。その体から大量のオドが発散されていくのを、エイクは感じ取っていた。
エイクはしばらくテオドリックの死体を見ていたが、やがてカテリーナの方に目を向ける。
カテリーナは、テオドリックが倒れるのとほぼ同時にマナを使い切っていた。
魔石はまだ残っていたが、既にそれを使ってまで戦う気力をなくしていた彼女は呆然と立ち尽くしている。
エイクはそのカテリーナに軽い口調で声をかけた。
「あんたは生かしておいてやるよ。意味は分かるよな?」
その目は凶悪なまでの欲望を湛え、カテリーナの魅惑的な体を捉えていた。
「ひッ!」
思わずそんな声をあげ、カテリーナは恐怖に身を震わせ後ずさった。
彼女はエイクの意図を察した。
それなりの異性経験を持つ彼女だったが、恐怖を感じずにはいられなかった。
エイクの凶悪な表情を見れば、そして今までの自分たちの行いを顧みれば、普通に抱かれるだけで済むとは思えなかった。
そしてカテリーナは、それ以上にエイクという存在に言い知れない恐怖を感じていた。
1回目の戦いで、逃走を計ったエイクに“誘眠”の魔法を放った時、彼女は大成功の手ごたえを感じていた。
あの術式ならたとえ竜が相手でも、少なくともまどろむ程度の効果はあるはずだった。
しかし、エイクには全く効かなかった。そんな事はありえないはずだった。
そして、エイクが1回目の戦闘時のダメージを回復させていたこともおかしい。
テオドリックはエイクが多くの回復薬を隠し持っていたと考えていたようだが、そんな大量の回復薬は、カテリーナが“魔法の瞳”で見た限り、エイクが潜む枯木の空洞にはなかった。
他の方法で回復していたのだ。それがなんなのかカテリーナには分からなかった。そして、分からないことが恐ろしかった。
その恐ろしい男が、こちらに近づいてくる。
カテリーナは身を翻して逃げようとした。
しかし、容易く追いつかれ後ろから抱きしめられてしまう。
カテリーナを捕らえたエイクは、その耳元に口を寄せささやいた。
「前からあんたを無茶苦茶に犯してやりたいと思っていたんだ。望みがかないそうで嬉しいよ」
そして、懐から取り出したロープで、恐怖に身をすくめる彼女の手と足を縛った。
動きを封じたカテリーナをその場に無造作に転がすと、エイクはテオドリックの死体の近くに戻った。
そして、テオドリックの死体に目を向けながら、声に出して呟いた。
「鍛錬を怠ったからだよ」
それはテオドリックが最後に叫んだ「どうしてこんなことになったのか」という言葉への回答だった。
エイクは心の底からテオドリックのことを嫌っていたが、彼が強くなる為の努力を欠かしていなかったことだけは認めざるを得なかった。
少なくとも、“イフリートの宴亭”に属する他の冒険者達に比べると、テオドリックは強くなることに貪欲で、その為にかなりの鍛錬を積んでいた。
しかし、半年前に成竜を討った後、彼はそれまでの鍛錬をやめてしまっていた。
もし彼が鍛錬を怠っていなかったならば、結果は違っていただろう。
エイクはそう思った。実際1回目の戦いはエイクにとってもギリギリの展開だったのだから。
エイクはしばし感慨に耽ったが、直ぐに戦利品集めを始めた。
まず、ジャックとテティスが倒れた場所に戻った。2人の体からオドがすっかりなくなっているのを確認すると、ジャックが所持していた荷物袋を奪う。それが魔法の品で、収容量を増やし重さも感じさせないという一品であることは分かっていた。
そして、テオドリックのミスリル銀製の2本のブロードソードと魔法の腕輪とベルトを奪ってその袋に収納した。
ガルバの所持していた竜燐のラウンドシールドは袋に入る大きさではなかったが、持っていくことにした。
テティスが使っていた弓も中々の名品だったが、これを持っていくのは諦めた。もっとかさ張る荷物があったからだ。
最後に、身をよじって逃げようとしていたカテリーナを肩に担ぐ。
彼女は必死に暴れたが、エイクは気にせず歩き始めた。
エイクはいつも狩りの拠点にしている、猟師小屋に向かう予定だった。
あそこなら、とりあえずゆっくりとすることが出来る。
「どうしてこっちの動きに気付いたんだ?」
「ここは俺の狩場だからな。獲物の場所を知るための細工はいくらでもあるんだよ」
「貴様、その力は……」
どうした、と聞こうとしたテオドリックは、聞くまでもないことに気付いた。隠していたに決まっている。
テオドリックが実力を出し切るしかない窮地と思っていたさっきの状況は、エイクにとってはそこまでではなかったということだ。
そして、まんまとこの場所におびき寄せられ、この状況に陥った。
テオドリックは3人だけでは最早勝ち目は薄いということを認めないわけにはいかなかった。
そんなテオドリックにエイクが問いかける。
「一応聞いておくが、降伏する気はあるか?知っている情報を全て吐くなら命くらいは助けてやってもいいぞ」
一瞬その選択肢を検討したテオドリックに、続けて言葉が投げかけられる。
「まあ、その場合身動きが取れなくなるように拘束させてもらうが。今までのお前らの行動を考えれば、当然の対応だろ?」
そう言って薄く笑うエイクからは確かな殺気が感じられた。
(助ける気など最初から無いのか?それにこの場で殺されなくても正規の裁判で死刑になる可能性は高い。
フォルカスがどこまで俺達をかばうか知れたもんじゃあないし、そもそも奴の権力だって絶対じゃあない。しかしこの状態で戦って勝てるのか……)
テオドリックが迷っていると、前に進んでその真横に並んだガルバが彼に声をかけた。
「やろう、テオ。俺達なら出来る」
その短い言葉は、テオドリックから迷いを払った。
(……そうだ、どっちにしても生き残れる保証がないなら戦うべきだ。
2人で田舎から出てきて10年。今までだって格上や勝ち目の薄い敵とも戦ってきた。そして勝って来たんだ)
「ああ、やろう。
カテリーナ、援護に時間をかける余裕はない。攻撃魔法だ。
ガルバ、行くぞ!」
テオドリックらの様子を注意深く見ていたエイクは、テオドリックの気合の声が終わるのを待たずに動いた。
そして先制攻撃をかける。必要な錬生術も全て入れている。
目標はガルバだ。
ガルバがテオドリックをかばうように動くのは分かっている。だから最初からガルバを狙ったのだった。
その攻撃はガルバの頭部を捉える。兜の上からの打撃だったが、的確に脳を震わせ甚大なダメージを与えた。
しかしガルバは歯を食いしばり反撃を放つ。いつもの大降りのメイスの一撃だ。
エイクは危なげなく避ける。そこにテオドリックの双撃が迫る。2人が田舎の悪ガキだった頃から続けていた連携だった。
テオドリックの攻撃は威力よりも、とにかく当てることを重視したもので、命中と威力を増加させる錬生術も全て乗せていた。
その一撃目はエイクを捉えた。しかし二撃目は避けられる。
そこにカテリーナの“魔力の投槍”が炸裂する。それはマナを余分に消費して、威力を重視したものだった。
テオドリックは己を鼓舞した。
(俺たちだけの連携でも当てられる。当てられるなら勝てる!カテリーナの魔法も有効だ)
しかし、当てることを重視したテオドリックの剣撃によるダメージは、エイクにとってさほど大きなものではなく、カテリーナの魔法も大したダメージを与えてはいなかった。
エイクは魔法によるダメージを軽減する錬生術を使用していた。
そして、エイクはガルバとテオドリックの連携を確認し、戦術を変えた。
威力重視の攻撃を放つが、無理に急所までは狙わず、当てられるところに当てる。そして代わりに回避にも気を配るようにした。
そうして放たれたエイクの攻撃はガルバの左肩を強打した。
その一撃は板金を大きく歪ませ、ガルバは再び深刻なダメージを受けた。
彼も防御を高める錬生術を使っていたが焼け石に水だった。
「ぐあッ」ガルバが短く声を上げる。
戦闘で彼が苦痛の声を上げるのは、めったにないことだった。
それでも彼はメイスを大きく振りかぶって振り下ろした。だが、その攻撃はやはり避けられてしまう。
続いてテオドリックが攻撃する。
しかし何時にないガルバの苦境に気をとられたのか、その双撃は精彩を欠き、いずれも空しく空を切った。
カテリーナの魔法攻撃もやはり決定打を与えられない。
ガルバは気を抜けば意識を失ってしまいそうな激痛の中、それでもなお右手のメイスを、もう一度大きく振りかぶった。
テオドリックをかばえる位置を保つことも、この期に及んでも忘れてはいない。
テオドリックを敵の攻撃から守りつつ、テオドリックの攻撃を援護する為の攻撃を放つ。それが10年以上続けてきた彼の戦い方だ。
そうしていればテオドリックがどうにかしてくれる。彼はそう信じていた。
しかし、愚直にいつもの攻撃を放とうとする彼の左手は、いつもより下がり、その手に持つ竜燐の盾の隙も大きくなっていた。
その隙を見逃すエイクではなかった。
次の瞬間、ガルバがメイスを振り下ろすよりも前に、エイクのバスタードソードがガルバの左目を貫き、その頭蓋を破壊した。完全な致命傷だった。
「テ、オ……」
そう呟いてガルバは崩れ落ちた。
「ガルバァ!!」
そう叫びつつも切り付けてくるテオドリックの攻撃を、エイクは容易く避けた。
それは最早脅威を感じるものではなかった。
その後の展開は一方的だった。
守る者がいなくなったテオドリックは、エイクが剣を振るうたびに確実に傷つき、逆に彼の攻撃はかすりもしない。
カテリーナも“魔力の投槍”を唱え続けていたが、その術式が大成功を収めることもなく、大きなダメージは与えられていなかった。
「なぜだ!どうして、どうして、こんなことになっちまったんだぁ!!」
テオドリックは涙を流し、そう絶叫しながら双撃を放とうとした。
彼は既に気を失ってもおかしくないほどの傷を受けていた。
そのテオドリックの首筋をエイクの剣が貫く。
(何が、いけなかったんだ……)
テオドリックは最後までそう問いかけていたが、その口から最早意味のとれる声が発せられることはなく、答えはどこからも返ってはこなかった。
「ッか、ッは」
そして、そんな呻き声と共に大量の血を吐くと彼は倒れた。その体から大量のオドが発散されていくのを、エイクは感じ取っていた。
エイクはしばらくテオドリックの死体を見ていたが、やがてカテリーナの方に目を向ける。
カテリーナは、テオドリックが倒れるのとほぼ同時にマナを使い切っていた。
魔石はまだ残っていたが、既にそれを使ってまで戦う気力をなくしていた彼女は呆然と立ち尽くしている。
エイクはそのカテリーナに軽い口調で声をかけた。
「あんたは生かしておいてやるよ。意味は分かるよな?」
その目は凶悪なまでの欲望を湛え、カテリーナの魅惑的な体を捉えていた。
「ひッ!」
思わずそんな声をあげ、カテリーナは恐怖に身を震わせ後ずさった。
彼女はエイクの意図を察した。
それなりの異性経験を持つ彼女だったが、恐怖を感じずにはいられなかった。
エイクの凶悪な表情を見れば、そして今までの自分たちの行いを顧みれば、普通に抱かれるだけで済むとは思えなかった。
そしてカテリーナは、それ以上にエイクという存在に言い知れない恐怖を感じていた。
1回目の戦いで、逃走を計ったエイクに“誘眠”の魔法を放った時、彼女は大成功の手ごたえを感じていた。
あの術式ならたとえ竜が相手でも、少なくともまどろむ程度の効果はあるはずだった。
しかし、エイクには全く効かなかった。そんな事はありえないはずだった。
そして、エイクが1回目の戦闘時のダメージを回復させていたこともおかしい。
テオドリックはエイクが多くの回復薬を隠し持っていたと考えていたようだが、そんな大量の回復薬は、カテリーナが“魔法の瞳”で見た限り、エイクが潜む枯木の空洞にはなかった。
他の方法で回復していたのだ。それがなんなのかカテリーナには分からなかった。そして、分からないことが恐ろしかった。
その恐ろしい男が、こちらに近づいてくる。
カテリーナは身を翻して逃げようとした。
しかし、容易く追いつかれ後ろから抱きしめられてしまう。
カテリーナを捕らえたエイクは、その耳元に口を寄せささやいた。
「前からあんたを無茶苦茶に犯してやりたいと思っていたんだ。望みがかないそうで嬉しいよ」
そして、懐から取り出したロープで、恐怖に身をすくめる彼女の手と足を縛った。
動きを封じたカテリーナをその場に無造作に転がすと、エイクはテオドリックの死体の近くに戻った。
そして、テオドリックの死体に目を向けながら、声に出して呟いた。
「鍛錬を怠ったからだよ」
それはテオドリックが最後に叫んだ「どうしてこんなことになったのか」という言葉への回答だった。
エイクは心の底からテオドリックのことを嫌っていたが、彼が強くなる為の努力を欠かしていなかったことだけは認めざるを得なかった。
少なくとも、“イフリートの宴亭”に属する他の冒険者達に比べると、テオドリックは強くなることに貪欲で、その為にかなりの鍛錬を積んでいた。
しかし、半年前に成竜を討った後、彼はそれまでの鍛錬をやめてしまっていた。
もし彼が鍛錬を怠っていなかったならば、結果は違っていただろう。
エイクはそう思った。実際1回目の戦いはエイクにとってもギリギリの展開だったのだから。
エイクはしばし感慨に耽ったが、直ぐに戦利品集めを始めた。
まず、ジャックとテティスが倒れた場所に戻った。2人の体からオドがすっかりなくなっているのを確認すると、ジャックが所持していた荷物袋を奪う。それが魔法の品で、収容量を増やし重さも感じさせないという一品であることは分かっていた。
そして、テオドリックのミスリル銀製の2本のブロードソードと魔法の腕輪とベルトを奪ってその袋に収納した。
ガルバの所持していた竜燐のラウンドシールドは袋に入る大きさではなかったが、持っていくことにした。
テティスが使っていた弓も中々の名品だったが、これを持っていくのは諦めた。もっとかさ張る荷物があったからだ。
最後に、身をよじって逃げようとしていたカテリーナを肩に担ぐ。
彼女は必死に暴れたが、エイクは気にせず歩き始めた。
エイクはいつも狩りの拠点にしている、猟師小屋に向かう予定だった。
あそこなら、とりあえずゆっくりとすることが出来る。
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