剣魔神の記

ギルマン

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第2章

19.王都の盗賊ギルド②

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「この街が盗賊にとって魅力がない理由は、単純に金や物の動きが少ないからさ。
 この街は、国の流通の中心からは大分ずれてるからね。
 王都だから貴族や騎士の往来は多いが、この国の貴族には大金持ちは少ないから、莫大な浪費は発生しない。何しろこの国はずっと負けが込んでいたからね。
 大図書館のお陰で賢者や学者も多いが、こいつらも盗賊の稼ぎのネタにはしにくいね。
 そのくせ、王都だからってんで衛兵の数はやたらと多いし、連中は基本的には仕事熱心だ。
 まあ、最近は炎獅子隊長がボンクラになっていたお陰で、そこらへんは随分と緩んでいるがね。

 今から思えば“呑み干すもの”が急に大きくなれたのも、炎獅子隊の隊長を取り込んで、その基本的には熱心だった衛兵どもから、摘発されなくなったからこそ、だったわけだ。
 まあ、そんな特別な事情でもない限り、この街は盗賊にとっては割に合わない街だってことさ。

 もちろん、他所の街の盗賊連中にとっても、国全体の政の動向は重要だから、この街にかなりの諜報員や工作員を入れている。その中には政府の高官や有力貴族と結びついている奴らもいるよ。
 むしろ、この街を稼ぎの場にしているあたしらの方が、政の中枢との関わりからは締め出されているくらいだ。情けない話しだがね。

 この国で一番稼ぎになるのは、国内の流通でも、国外との流れを見ても、経済の中心になっているセレビヤの街だ。物や金は主にそっちに集まっている。それを当て込んだ腕利きの盗賊達もね。
 この街を狙う盗賊が他所から現れるとしたら、セレビヤの街から落ちぶれた連中になる可能性が高いだろうよ。

 そんな理由でこの街には腕利きの盗賊はいなかったわけだが、そんな中でマシだったのは、“猟犬の牙”の前の長だったカルロスだろう。
 “猟犬の牙”と“鮮血の兄弟団”がこの街の盗賊ギルドの二強と言われていたが、カルロスが健在の間は、“猟犬”の方が優勢だった。

 だが、そのカルロスも部下の育成って奴には失敗していた。奴の周りの幹部連中はほとんどが馬鹿だった。
 ひょっとすると、周りに頭が良いのが余りいない方が、何でもかんでも自分の思い通りに出来て都合がいいと思っていたのかもね。だとすれば奴も器が小さかったって事になるだろう。

 他に何か考えがあったのかも知れないが……、まあ、今となっちゃあ分からないね。
 どっちにしても“猟犬”の幹部連中も有能な奴はほとんどいなかったってわけさ。
 だが、カルロスの奴が元気だったなら、闇司祭ごときにいいようにはされなかったはずだよ。

 ところが、そのカルロスは3年ばかり前にぶっ倒れちまった。
 残ったのは、さっき言ったとおり、ほとんどが馬鹿な幹部連中。
 更に悪い事に、カルロスは意識不明になったが、直ぐには死ななかった。
 カルロスには熱心な信奉者もいたから、そいつらは看病を続け、カルロスが生きている限り新しい長を認めないと主張した。このせいもあって“猟犬”の動きは鈍った。

 1年ほど前にカルロスがとうとうおっ死んで、トティアっていう腕っ節だけの男が長になった。
 だが、ごたごたしているうちに大分勢力を削られていて、トティアは焦ったんだろう。情報収集もそこそこに“鮮血の兄弟団”と組んで“呑み干すもの”をはめようとした。
 だが逆に潰されちまったわけだ。

 この、“呑み干すもの”への攻撃も、実際に主導したのは“兄弟団”だったと私は思うね。
 “兄弟団”の連中は、“呑み干すもの”の戦力を、“猟犬”よりは詳しく知っていたはずさ。
 で、その面倒な敵を“猟犬”に押し付けて、自分らで“呑み干すもの”の頭を潰して、漁夫の利を得ようとしたんだろう。
 ところが、結局はこっちの方も、ギルド長はじめ主力が全滅したんじゃあ、お話しにならないがね。

 いずれにしても、どっちのギルドもこれで壊滅だ。
 残った連中は三流以下さ。
 頭の出来はもちろん、腕っ節だけでも見ても禄なのが残っていない。
 “猟犬”からは離反者が続出だし、“兄弟団”に至っちゃあ早々に分裂だ。分かれた連中は“血染めのナイフ”と名乗っているが、そいつらも含めて、全部今じゃあただのごろつきの群れだね。

 前に“呑み干すもの”に潰されていた“悦楽の園”と“黄金車輪”も、主だった連中は殺されていて、残っている中で一番マシなのがレイダーなのも事実だ。

 で、弱小ギルドだって理由で無視されていたあたしらが、繰り上がって今じゃあ王都最強の盗賊ギルドってわけさ。
 他の街の盗賊連中から見れば、とんだお笑い種だろうね。

 ちなみに、それぞれのギルドには特色もあった。
 “猟犬の牙”は基本的にはあたしらと同じ正統派って奴だったが、暗殺の請負や復讐の代行もしていた。
 相手を散々苦しめてから殺す術に長けた連中だったよ。
 連中の勢いが良かった頃には、偶に随分と無残な有様の死骸が晒されたりしていたもんさ。
 一応殺す相手は選んでいたようだけどね。

 “鮮血の兄弟団”は押し込み強盗を得意としていた。街の外で隊商なんかを襲ったり、捕らえた者を違法に奴隷にしていたりもしていたね。
 “黄金車輪”は禁制品の運び込みや密売品の流通を主な仕事にしていた。
 “悦楽の園”の主な稼ぎは麻薬や毒薬なんかの製造販売。
 今もレイダーの奴の主な資金源は麻薬関係さ。
 ざっとこんなところかね。
 どうだい参考になったかい?」

「ああ、大いに参考になったよ」
「今後も直接話したくなったらいつでも声をかけておくれよ。ラテーナの連中に言えば連絡はつく。それじゃあね」
 ドロシーはそう言って今度こそ去っていった。



 ドロシーが去った後、エイクはしばし考え込んだ。
 彼は、こうなったからには、裏社会から得られる情報を情報収集の主軸にする方が効率的だと考えた。ドロシーに、より詳しい話を聞いたのはその一環だ。
 だが、そうするには大きな問題がある。
 それは、今のままでは情報のほぼ全てをドロシーたち“黒翼鳥”に依存する事になってしまうことだ。

 情報に基づいて決断し行動する以上、情報のほとんどを握られているという事は、行動を操られるのと同じだ。
 それはどう考えても不都合だ。

 最悪の場合、“黒翼鳥”が父の仇とつながっていて、仇に操られてしまう可能性すらある。
 最低でも他の情報源を確保して、情報のすり合わせは行えるようにする必要がある。
 出来れば独自の情報収集役を雇いたい。
 しかし、裏社会にも通じた、情報収集が出来る人材の心当たりなど、エイクにあるはずがない。

 エイクの知り合いの中で、裏社会にもっとも詳しいのは、今も隣にいるロアンだろう。
 エイクはとりあえず、自分のために情報収集役を担ってくれそうな者に心当たりがないか、ロアンに聞いてみることにした。
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