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第4章
35.魔物の行進②
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「なッ!」
エイクの方を向いた女剣士が、そんな声を発して息を飲んだ。
彼女は、自分に向かって来たライトニング・バット1体を倒し、エイクに加勢しようと思ってそちらを向き、そして、恐るべき魔獣であるバイコーンが倒れるのを目にして驚愕した。
だが、女剣士は一瞬の後には、呆けている場合ではない事を思い出し、エイクに向かって警告を告げた。
「次の魔物が直ぐに来ます!」
その声を受けエイクは女剣士の方を向いた。
女剣士は比較的小柄で、黒髪を背中でまとめ、ハードレザーアーマーを身に纏い、大振りなシャムシールを構えている。
「あんたらは逃げろ!」
エイクがそう告げる。
しかし、女戦士の答えは「それでは戦力の分散になります」というものだった。
この場合、女剣士の見解の方が正しいだろう。
一部の者が後に残って敵を引き受け、他の者を先に逃がす。その行為が意味を成すのは、それによって他の者が逃げ切れる場合だけだ。
だが今エイクが1人で残った場合、逃げるべきなのは、自分で動けない男1人と女2人である。男を見捨てないとするならば、普通に考えた場合、多少時間を稼いだところで逃げ切れるとは思えない。
そして、追いつかれた場合、今度は女剣士が1人で戦うことになる。確かに戦力の分散だ。
それならば、戦う覚悟と能力があるエイクと女剣士の2人が、共にこの場に残って協力して戦い、敵を倒し切るか或いは撃退する確率を、少しでも上げる方が妥当な選択だろう。
もっとも、実際のところエイクは、自分が戦うところを見られたくないと考えて逃げろと言ったのだったが、そんなことは説明できない。
そして、エイクは女剣士達をこの場から退かせる方法をとっさに思いつかなかった。
「俺は協力して戦うのが苦手だ。出来るだけ俺が前に出て可能な限り魔物をひきつけるから、漏れた魔物を頼む」
だから、エイクはそう告げて、女剣士との共闘を受け入れた。
「分かりました」
女剣士も承諾する。
そして、エイクは宣言どおり魔物たちが来る通路に向かって動こうとする。だが、そのタイミングで、次の魔物が飛び出してきた。
体長3mに及ぶ巨大な狼。狼の能力と攻撃性を大幅に強化した魔獣ダイナウルフだ。
それが5体、ほとんど同時にエイクに向かって襲い掛かって来る。
エイクはその動きを見切って、体勢を低くしつつ体を右に半回転させ、5体の内4体を同時に狙ってクレイモアを振るう。
クレイモアは、まず下段から斜め上へ斬り上げられる軌跡を描き、駆けて来る1体目の頭部を斜めに切り裂いた。
2体目と3体目は飛び掛かって来ていた。その2体目の頭部を鼻の上で切断し、3体目は首を斬り飛ばす。
そこでクレイモアの動きは振り下ろしへと変わって、駆けよって来ていた4体目の胴体を捉えこれを両断した。
一撃の範囲に捉える事が出来なかった5体目は、エイクに向かって飛び掛かって来た。だが、エイクはそのまま体を回転させ、その攻撃を難なく避ける。
エイクへの攻撃を外した5体目のダイナウルフは、エイクを襲う愚を悟ったのか、後方の女剣士へと向かう。
エイクはその1体は女剣士に任せる事にした。
エイクが見たところ、女剣士は冒険者として上級下位に位置する程度の技量があるようだ。
ダイナウルフは弱い魔物ではないが、中級といえる程度の戦士なら互角に戦える。女剣士が不覚を取る事はまずないだろう。
エイクは、それよりも直ぐ後に続いて通路の向こうから接近してくるオドに注意を向けていた。それは人工生命のオドであり、異様な形をしていた。
(活発に動いて向かってくるということは、待ち伏せ型のイミテーターじゃあない。
人ならざる形状だが、不定形でもない。とすると、イミテーション・ビーストか。だか、この形は……)
エイクはそんな事を思いつつ、通路の方へ前進する。
エイクが通路の前に到達するよりも早く、そのものたちが姿を現した。
その姿は、太さ10cmほど、長さは10mほどの巨大な環形生物。デスワームのものだった。
(わざわざ、人工生物でデスワームを模す必要はないだろう! 趣味が悪すぎるぞ)
エイクは心中でそう叫んだ。
デスワームは醜悪な生物だ。
ミミズを巨大にしたような胴体がウゾウゾと蠢く様は、多くの者に生理的な嫌悪感を懐かせる。それが、思いの外素早く動いて接近してくる様はかなり恐ろしい。
身体の一方の先端部は口になっていて、一円に細かい牙がついている。そして更にその周りに、2mほどの長さの細い触手が無数に生えていて、この触手も自在に蠢く。これもまた、おぞましい印象を与える。
自然界に住む本物のデスワームは、この触手も使って獲物を絡め取るらしい。
そして、このイミテーション・デスワームは、その全てが忠実に再現されていた。悪趣味と言わざるを得ないだろう。
イミテーション・デスワームは5体おり、その内3体がエイクに向かって接近して鎌首をもたげる。他の2体は床を這いずってエイクの後方に向かう。
エイクの前で首をもたげるなど、切って下さいと言っているような行為だ。だが、どうやらこのイミテーション・デスワームは何かを吐き出そうとしているらしい。
(本物同様に酸を吐くのか? 変なところにこだわりやがって)
エイクはそう思いつつも、素早くクレイモアを右から左へと振るって、何かする前に3体まとめてイミテーション・デスワームを切り捨てた。
両断されたイミテーション・デスワームから、すえた匂いがする液体が飛び散る。本当に酸を吐くところまで再現されているらしい。
「こいつらは、酸を吐く」
エイクは、後ろにいる女剣士にそう忠告した。
床を這いずる2体を止める術はなく、女剣士の方に向かっていたからだ。
「はい」
女剣士も短く返答を返す。
その時には、既に女剣士はダイナウルフを倒していた。
テレサとニコラの姉弟は奥の通路の中に入って身を寄せ合い、その通路の前に女剣士が立って2人を守る形になっている。
2体のイミテーション・デスワームも女剣士に任せられる。
そう判断したエイクは、通路の方に前進した。続いて、またも異様な姿の魔物が現れようとしていたからだ。
それは、広い通路全体を埋めるほどの巨体を誇る軟体生物で、8本の触手を動かしている。
海の悪魔とも言われる、ジャイアントオクトパス。それを模した、イミテーション・ビーストだ。
(本当に趣味が悪い!)
エイクは心中でそう罵りつつ、更に前進して、イミテーション・ジャイアントオクトパスが、広間に完全に入ってくる前に攻撃を仕掛けた。
そうすることで、通路がイミテーション・ジャイアントオクトパスの身体で埋まり、後続の魔物たちが広間に入ってこられなくすることを狙ったのだ。
エイクは猛然と戦い始めたが、八本の足を駆使して戦うイミテーション・ジャイアントオクトパスにはてこずった。
足による攻撃は全て危なげなく避けているが、足を何本か切り落とさなければ本体まで攻撃が届かないからだ。
そしてエイクはイミテーション・ジャイアントオクトパスの巨体の奥に、こちらに近づいてくる魔物の姿を垣間見ていた。それは、全身鎧とフルヘイムで体をくまなく覆った戦士のように見える。しかし、その存在からオドは感じられない。
(ゴーレムの類か。形状からするとタロスだな、上位のタロス・ジェネラルもいる)
エイクは魔物の正体をそう看破した。
エイクの方を向いた女剣士が、そんな声を発して息を飲んだ。
彼女は、自分に向かって来たライトニング・バット1体を倒し、エイクに加勢しようと思ってそちらを向き、そして、恐るべき魔獣であるバイコーンが倒れるのを目にして驚愕した。
だが、女剣士は一瞬の後には、呆けている場合ではない事を思い出し、エイクに向かって警告を告げた。
「次の魔物が直ぐに来ます!」
その声を受けエイクは女剣士の方を向いた。
女剣士は比較的小柄で、黒髪を背中でまとめ、ハードレザーアーマーを身に纏い、大振りなシャムシールを構えている。
「あんたらは逃げろ!」
エイクがそう告げる。
しかし、女戦士の答えは「それでは戦力の分散になります」というものだった。
この場合、女剣士の見解の方が正しいだろう。
一部の者が後に残って敵を引き受け、他の者を先に逃がす。その行為が意味を成すのは、それによって他の者が逃げ切れる場合だけだ。
だが今エイクが1人で残った場合、逃げるべきなのは、自分で動けない男1人と女2人である。男を見捨てないとするならば、普通に考えた場合、多少時間を稼いだところで逃げ切れるとは思えない。
そして、追いつかれた場合、今度は女剣士が1人で戦うことになる。確かに戦力の分散だ。
それならば、戦う覚悟と能力があるエイクと女剣士の2人が、共にこの場に残って協力して戦い、敵を倒し切るか或いは撃退する確率を、少しでも上げる方が妥当な選択だろう。
もっとも、実際のところエイクは、自分が戦うところを見られたくないと考えて逃げろと言ったのだったが、そんなことは説明できない。
そして、エイクは女剣士達をこの場から退かせる方法をとっさに思いつかなかった。
「俺は協力して戦うのが苦手だ。出来るだけ俺が前に出て可能な限り魔物をひきつけるから、漏れた魔物を頼む」
だから、エイクはそう告げて、女剣士との共闘を受け入れた。
「分かりました」
女剣士も承諾する。
そして、エイクは宣言どおり魔物たちが来る通路に向かって動こうとする。だが、そのタイミングで、次の魔物が飛び出してきた。
体長3mに及ぶ巨大な狼。狼の能力と攻撃性を大幅に強化した魔獣ダイナウルフだ。
それが5体、ほとんど同時にエイクに向かって襲い掛かって来る。
エイクはその動きを見切って、体勢を低くしつつ体を右に半回転させ、5体の内4体を同時に狙ってクレイモアを振るう。
クレイモアは、まず下段から斜め上へ斬り上げられる軌跡を描き、駆けて来る1体目の頭部を斜めに切り裂いた。
2体目と3体目は飛び掛かって来ていた。その2体目の頭部を鼻の上で切断し、3体目は首を斬り飛ばす。
そこでクレイモアの動きは振り下ろしへと変わって、駆けよって来ていた4体目の胴体を捉えこれを両断した。
一撃の範囲に捉える事が出来なかった5体目は、エイクに向かって飛び掛かって来た。だが、エイクはそのまま体を回転させ、その攻撃を難なく避ける。
エイクへの攻撃を外した5体目のダイナウルフは、エイクを襲う愚を悟ったのか、後方の女剣士へと向かう。
エイクはその1体は女剣士に任せる事にした。
エイクが見たところ、女剣士は冒険者として上級下位に位置する程度の技量があるようだ。
ダイナウルフは弱い魔物ではないが、中級といえる程度の戦士なら互角に戦える。女剣士が不覚を取る事はまずないだろう。
エイクは、それよりも直ぐ後に続いて通路の向こうから接近してくるオドに注意を向けていた。それは人工生命のオドであり、異様な形をしていた。
(活発に動いて向かってくるということは、待ち伏せ型のイミテーターじゃあない。
人ならざる形状だが、不定形でもない。とすると、イミテーション・ビーストか。だか、この形は……)
エイクはそんな事を思いつつ、通路の方へ前進する。
エイクが通路の前に到達するよりも早く、そのものたちが姿を現した。
その姿は、太さ10cmほど、長さは10mほどの巨大な環形生物。デスワームのものだった。
(わざわざ、人工生物でデスワームを模す必要はないだろう! 趣味が悪すぎるぞ)
エイクは心中でそう叫んだ。
デスワームは醜悪な生物だ。
ミミズを巨大にしたような胴体がウゾウゾと蠢く様は、多くの者に生理的な嫌悪感を懐かせる。それが、思いの外素早く動いて接近してくる様はかなり恐ろしい。
身体の一方の先端部は口になっていて、一円に細かい牙がついている。そして更にその周りに、2mほどの長さの細い触手が無数に生えていて、この触手も自在に蠢く。これもまた、おぞましい印象を与える。
自然界に住む本物のデスワームは、この触手も使って獲物を絡め取るらしい。
そして、このイミテーション・デスワームは、その全てが忠実に再現されていた。悪趣味と言わざるを得ないだろう。
イミテーション・デスワームは5体おり、その内3体がエイクに向かって接近して鎌首をもたげる。他の2体は床を這いずってエイクの後方に向かう。
エイクの前で首をもたげるなど、切って下さいと言っているような行為だ。だが、どうやらこのイミテーション・デスワームは何かを吐き出そうとしているらしい。
(本物同様に酸を吐くのか? 変なところにこだわりやがって)
エイクはそう思いつつも、素早くクレイモアを右から左へと振るって、何かする前に3体まとめてイミテーション・デスワームを切り捨てた。
両断されたイミテーション・デスワームから、すえた匂いがする液体が飛び散る。本当に酸を吐くところまで再現されているらしい。
「こいつらは、酸を吐く」
エイクは、後ろにいる女剣士にそう忠告した。
床を這いずる2体を止める術はなく、女剣士の方に向かっていたからだ。
「はい」
女剣士も短く返答を返す。
その時には、既に女剣士はダイナウルフを倒していた。
テレサとニコラの姉弟は奥の通路の中に入って身を寄せ合い、その通路の前に女剣士が立って2人を守る形になっている。
2体のイミテーション・デスワームも女剣士に任せられる。
そう判断したエイクは、通路の方に前進した。続いて、またも異様な姿の魔物が現れようとしていたからだ。
それは、広い通路全体を埋めるほどの巨体を誇る軟体生物で、8本の触手を動かしている。
海の悪魔とも言われる、ジャイアントオクトパス。それを模した、イミテーション・ビーストだ。
(本当に趣味が悪い!)
エイクは心中でそう罵りつつ、更に前進して、イミテーション・ジャイアントオクトパスが、広間に完全に入ってくる前に攻撃を仕掛けた。
そうすることで、通路がイミテーション・ジャイアントオクトパスの身体で埋まり、後続の魔物たちが広間に入ってこられなくすることを狙ったのだ。
エイクは猛然と戦い始めたが、八本の足を駆使して戦うイミテーション・ジャイアントオクトパスにはてこずった。
足による攻撃は全て危なげなく避けているが、足を何本か切り落とさなければ本体まで攻撃が届かないからだ。
そしてエイクはイミテーション・ジャイアントオクトパスの巨体の奥に、こちらに近づいてくる魔物の姿を垣間見ていた。それは、全身鎧とフルヘイムで体をくまなく覆った戦士のように見える。しかし、その存在からオドは感じられない。
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