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第4章
67.未知の術①
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(これも錬生術の奥義か)
エイクは驚きつつもそう考える。
オドを感知出来るエイクには、その変容がオドの動きによるものだと分かった。間違いなく複数の錬生術をまとめて発動した結果だ。
ありえない事ではない、エイクも錬生術の奥義をすべて知っているわけではないのだから。
エイクは驚きながらも攻撃の手を緩めなかった。
クレイモアを振り上げる。
しかし、その攻撃は空を切った。
アズィーダが飛翔してそれを回避したのである。その背に生えた羽は飾りではなかった。
「我が身に加護を」
そして呪文を唱える。
それは“能力小上昇”の神聖魔法だ。僅かに身体能力を向上させる効果がある。
その上でアズィーダは空中からエイクに向かって攻撃を仕掛けた。
頭部を狙っての回し蹴り、エイクはクレイモアでこれを受ける。続いて尻尾が迫る。身を屈めて避ける。
その頭部へ上から鉤爪が振るわれた。これはクレイモアで弾いた。
エイクのクレイモアはそのまま横薙ぎに振るわれ、アズィーダの腹を傷つける。
一連の攻防は、アズィーダが変身してもなお、エイクの方が優勢である事を証明した。
神聖魔法の効果により、アズィーダの身体能力は僅かばかり上昇している。
また、空中から攻撃することは攻守両面で有利だった。だがそれをあわせても、まだエイクには及ばない。
鱗が生じた事によって、防御能力も向上していたが、エイクの攻撃を弾くほどのものではない。
現にアズィーダは、斬り付けられた腹と、クレイモアで回し蹴りを受けられた右足に浅くない傷を負っている。
更に言えば、継戦能力もまず間違いなくエイクの方が有利だ。
エイクもアズィーダも、戦いを始めると同時に身体能力を強化する錬生術を全力で発動させていた。
それに加えて両者ともに他の錬生術も複数使用している。
エイクは炎によるダメージを防ぐ為に、アズィーダは変身する為に、だ。しかしその数はアズィーダの方が多い。
神聖魔法も扱うアズィーダのマナはエイクより豊富だろう。だが、その神聖魔法を併用している事も考えれば、エイクより先にマナが尽きると思われる。
その事を理解したのか、アズィーダは大きく羽ばたいて上空へと舞い上がる。
そして同時に再び炎を吹いた。
エイクはすかさずスティレットを投擲する。
彼は、アズィーダが大きく羽ばたいた時点で、クレイモアで斬りつけても届かなくなる事を察し、右腰のベルトの装備したスティレットに右手を伸ばしていた。
スティレットはアズィーダの腹に突き刺さる。相当の深手だ。
対してアズィーダの炎は、またしてもエイクにダメージを与えていない。
更に、スティレットは即座にエイクの右手に戻って来る。エイクはマルギットから貰った魔道具“取り戻す手鎖”を、早速愛用のスティレットに使っていたのである。
遠距離戦も不利と悟ったアズィーダは、上位回復魔法を己にかけつつ、更に上へと飛ぶ。
エイクが再度スティレットを放つ前に、アズィーダはその攻撃範囲の外に逃れていた。
(逃がしたか)
エイクはスティレットを構えたまま、苦々しくそう思った。
ひたすら戦えと説くムズルゲルだが、逃走を全面的に禁止してはいない。力を増して必ず再戦を挑む事を条件に、逃げても良いとしている。
そして、ムズルゲル信者は戦いに有利になるならば、どのような卑怯卑劣な行いも躊躇わずに行う。
つまり、この場でアズィーダを逃してしまえば、彼女はいずれ必ずエイクに襲い掛かって来るし、その時どれほど卑劣な行動をとるか分からない。
エイクとしては避けたい状況だ。
しかし、今のエイクにアズィーダの逃走を阻む手段はない。
エイクの攻撃から逃れたアズィーダは、しかし、そのまま飛び去る事はなく、エイクを見下ろした。
その顔にはさすがに笑みはなくなっており、険しい視線をエイクに向けている。そして口を開いた。
「人間、エイクという名だったな。貴様の事を侮っていた。
この姿になっても届かない上に、私の炎すらまるで効かないとは思わなかった。見事だ。
この上は、私も全力で戦わせて貰おう」
その言葉を聞きエイクもいっそう気を引き締めた。
逃げないでくれるのは結構だが、今以上に強くなるなら油断は出来ない。
(何をしてくる?)
エイクはそう考えながら、オドの感知も含めてアズィーダの様子を伺った。
既にエイクが知らない錬生術の奥義を使っているのだから、更に未知の術が使われる可能性は高い。
案の定アズィーダのオドが激しく動くのが感知された。
(オドが増大している?)
エイクにはそんな事も感知できた。
そしてアズィーダの体が光に包まれる。
次に起こった事は、未知の術が使われる事を考慮していたエイクすら驚愕させた。
一瞬の後、アズィーダがいた場所には、1体の巨大な竜が存在していたのである。
尻尾まで含めた体長は10m以上、翼長は15mほどに達するだろう。
その身体は暗褐色の鱗に覆われている。
エイクは驚きの余り大きく目を見開いた。
もちろん、見間違いではない。その全身にオドが満ちている事から、幻影でもありえなかった。
(竜に変身しただと!?)
エイクはアズィーダのオドが増大し、この形になった事を感知している。目の前の竜はアズィーダが変じたもので間違いない。
(魔法使いが魔物に変身するという話は聞いていたが、これは……)
エイクはそんな事を考えたが、アズィーダはエイクが熟慮する間を与えなかった。
大きく羽ばたくと、エイクの方に向かって急降下し、そして炎を吐く。
炎の威力は変身前よりも増している。射程はそれほど長くないままのようだが、効果範囲は遥かに広い。エイクを中心に半径5mほどに炎が撒き散らされた。
それでもなお、それはエイクにとって危険なものではなかった。
エイクは精神を集中させて抵抗する。その結果、負ったダメージは軽微なものでしかない。
(距離をとっての戦いなら俺の方がまだ有利だ)
炎によるダメージを確認したエイクはそう判断した。
だが、投擲用のスティレットを素早く鞘にもどし、クレイモアを両手で構える。
アズィーダがそのまま突っ込んでくると見て取っていたからだ。アズィーダも遠距離戦は自分に不利と判断をしたようである。
まず、牙が迫る。開かれた口はエイクの上半身を食いちぎれるほどの大きさだ。
エイクは後退して噛まれるのは避けた。だが、そのまま突き出された頭部が激突する。
「くッ」
思わず声があがった。その打撃だけでもかなりのダメージだ。
続けざまに巨大な鉤爪が生えた左右の前肢が振るわれる。
エイクは大きく身を屈めてこれを避けた。
そして、その体勢からクレイモアを突き上げ、自身の上を通り過ぎる右の翼に当てる。だが、竜と変じたアズィーダの防御力は人だった時とは桁違いだ。その攻撃は決定的なダメージを与えてはいない。
アズィーダは大きく羽ばたいてエイクの上を通り過ぎる。そして過ぎ去る際に尻尾が振るわれる。
体勢を崩していたエイクはこれを避けることが出来ず、弾き飛ばされた。
竜と変じたアズィーダの戦闘能力は大きく上昇している。
巨大な牙と爪による攻撃は、単純にその大きさ故に今まで以上に避けにくい。広範囲をなぎ払う尻尾による打撃も脅威だ。
そして、当然ながらその威力は今までと段違である。
事実エイクは、頭部と尻尾による打撃だけで相当のダメージを受けていた。
守備に関しては更に向上している。
体躯が巨大になった事により、当てるだけなら人型だったときよりも当てやすい。
だが、強固な鱗に包まれ高速で動くその身体に単純に武器を当てても、ただ弾かれてしまうだけである。
鱗の重ね目などの隙を狙う困難な行為を成功させなければ、有効な攻撃にはならない。
しかも、その皮膚の防御力もまた、人型だった時とは比べ物にならない。
今のアズィーダに有効なダメージを通すのはたやすい事ではなかった。
そして、その生命力も竜の身体に相応しいものに増大している。エイクを大きく凌いでいるのは間違いないだろう。
エイクに大きなダメージを与えて飛び去ったアズィーダは、反転してまたエイクに迫る。
そして再度、牙、鉤爪、尻尾の攻撃を繰り出した。
エイクは牙と鉤爪を避け、右翼に攻撃を当てることに成功した。だが、尻尾の攻撃はよけ切れない。
エイクの身体は、また弾き飛ばされた。
両者が受けたダメージを比べれば、明らかにエイクの方が大きい。
一見して情勢はエイク不利になっている。
だがしかし、エイクは勝機を見出していた。
(こいつは俺の強さを見誤っている)
と、そう判断していたからだ。
エイクは驚きつつもそう考える。
オドを感知出来るエイクには、その変容がオドの動きによるものだと分かった。間違いなく複数の錬生術をまとめて発動した結果だ。
ありえない事ではない、エイクも錬生術の奥義をすべて知っているわけではないのだから。
エイクは驚きながらも攻撃の手を緩めなかった。
クレイモアを振り上げる。
しかし、その攻撃は空を切った。
アズィーダが飛翔してそれを回避したのである。その背に生えた羽は飾りではなかった。
「我が身に加護を」
そして呪文を唱える。
それは“能力小上昇”の神聖魔法だ。僅かに身体能力を向上させる効果がある。
その上でアズィーダは空中からエイクに向かって攻撃を仕掛けた。
頭部を狙っての回し蹴り、エイクはクレイモアでこれを受ける。続いて尻尾が迫る。身を屈めて避ける。
その頭部へ上から鉤爪が振るわれた。これはクレイモアで弾いた。
エイクのクレイモアはそのまま横薙ぎに振るわれ、アズィーダの腹を傷つける。
一連の攻防は、アズィーダが変身してもなお、エイクの方が優勢である事を証明した。
神聖魔法の効果により、アズィーダの身体能力は僅かばかり上昇している。
また、空中から攻撃することは攻守両面で有利だった。だがそれをあわせても、まだエイクには及ばない。
鱗が生じた事によって、防御能力も向上していたが、エイクの攻撃を弾くほどのものではない。
現にアズィーダは、斬り付けられた腹と、クレイモアで回し蹴りを受けられた右足に浅くない傷を負っている。
更に言えば、継戦能力もまず間違いなくエイクの方が有利だ。
エイクもアズィーダも、戦いを始めると同時に身体能力を強化する錬生術を全力で発動させていた。
それに加えて両者ともに他の錬生術も複数使用している。
エイクは炎によるダメージを防ぐ為に、アズィーダは変身する為に、だ。しかしその数はアズィーダの方が多い。
神聖魔法も扱うアズィーダのマナはエイクより豊富だろう。だが、その神聖魔法を併用している事も考えれば、エイクより先にマナが尽きると思われる。
その事を理解したのか、アズィーダは大きく羽ばたいて上空へと舞い上がる。
そして同時に再び炎を吹いた。
エイクはすかさずスティレットを投擲する。
彼は、アズィーダが大きく羽ばたいた時点で、クレイモアで斬りつけても届かなくなる事を察し、右腰のベルトの装備したスティレットに右手を伸ばしていた。
スティレットはアズィーダの腹に突き刺さる。相当の深手だ。
対してアズィーダの炎は、またしてもエイクにダメージを与えていない。
更に、スティレットは即座にエイクの右手に戻って来る。エイクはマルギットから貰った魔道具“取り戻す手鎖”を、早速愛用のスティレットに使っていたのである。
遠距離戦も不利と悟ったアズィーダは、上位回復魔法を己にかけつつ、更に上へと飛ぶ。
エイクが再度スティレットを放つ前に、アズィーダはその攻撃範囲の外に逃れていた。
(逃がしたか)
エイクはスティレットを構えたまま、苦々しくそう思った。
ひたすら戦えと説くムズルゲルだが、逃走を全面的に禁止してはいない。力を増して必ず再戦を挑む事を条件に、逃げても良いとしている。
そして、ムズルゲル信者は戦いに有利になるならば、どのような卑怯卑劣な行いも躊躇わずに行う。
つまり、この場でアズィーダを逃してしまえば、彼女はいずれ必ずエイクに襲い掛かって来るし、その時どれほど卑劣な行動をとるか分からない。
エイクとしては避けたい状況だ。
しかし、今のエイクにアズィーダの逃走を阻む手段はない。
エイクの攻撃から逃れたアズィーダは、しかし、そのまま飛び去る事はなく、エイクを見下ろした。
その顔にはさすがに笑みはなくなっており、険しい視線をエイクに向けている。そして口を開いた。
「人間、エイクという名だったな。貴様の事を侮っていた。
この姿になっても届かない上に、私の炎すらまるで効かないとは思わなかった。見事だ。
この上は、私も全力で戦わせて貰おう」
その言葉を聞きエイクもいっそう気を引き締めた。
逃げないでくれるのは結構だが、今以上に強くなるなら油断は出来ない。
(何をしてくる?)
エイクはそう考えながら、オドの感知も含めてアズィーダの様子を伺った。
既にエイクが知らない錬生術の奥義を使っているのだから、更に未知の術が使われる可能性は高い。
案の定アズィーダのオドが激しく動くのが感知された。
(オドが増大している?)
エイクにはそんな事も感知できた。
そしてアズィーダの体が光に包まれる。
次に起こった事は、未知の術が使われる事を考慮していたエイクすら驚愕させた。
一瞬の後、アズィーダがいた場所には、1体の巨大な竜が存在していたのである。
尻尾まで含めた体長は10m以上、翼長は15mほどに達するだろう。
その身体は暗褐色の鱗に覆われている。
エイクは驚きの余り大きく目を見開いた。
もちろん、見間違いではない。その全身にオドが満ちている事から、幻影でもありえなかった。
(竜に変身しただと!?)
エイクはアズィーダのオドが増大し、この形になった事を感知している。目の前の竜はアズィーダが変じたもので間違いない。
(魔法使いが魔物に変身するという話は聞いていたが、これは……)
エイクはそんな事を考えたが、アズィーダはエイクが熟慮する間を与えなかった。
大きく羽ばたくと、エイクの方に向かって急降下し、そして炎を吐く。
炎の威力は変身前よりも増している。射程はそれほど長くないままのようだが、効果範囲は遥かに広い。エイクを中心に半径5mほどに炎が撒き散らされた。
それでもなお、それはエイクにとって危険なものではなかった。
エイクは精神を集中させて抵抗する。その結果、負ったダメージは軽微なものでしかない。
(距離をとっての戦いなら俺の方がまだ有利だ)
炎によるダメージを確認したエイクはそう判断した。
だが、投擲用のスティレットを素早く鞘にもどし、クレイモアを両手で構える。
アズィーダがそのまま突っ込んでくると見て取っていたからだ。アズィーダも遠距離戦は自分に不利と判断をしたようである。
まず、牙が迫る。開かれた口はエイクの上半身を食いちぎれるほどの大きさだ。
エイクは後退して噛まれるのは避けた。だが、そのまま突き出された頭部が激突する。
「くッ」
思わず声があがった。その打撃だけでもかなりのダメージだ。
続けざまに巨大な鉤爪が生えた左右の前肢が振るわれる。
エイクは大きく身を屈めてこれを避けた。
そして、その体勢からクレイモアを突き上げ、自身の上を通り過ぎる右の翼に当てる。だが、竜と変じたアズィーダの防御力は人だった時とは桁違いだ。その攻撃は決定的なダメージを与えてはいない。
アズィーダは大きく羽ばたいてエイクの上を通り過ぎる。そして過ぎ去る際に尻尾が振るわれる。
体勢を崩していたエイクはこれを避けることが出来ず、弾き飛ばされた。
竜と変じたアズィーダの戦闘能力は大きく上昇している。
巨大な牙と爪による攻撃は、単純にその大きさ故に今まで以上に避けにくい。広範囲をなぎ払う尻尾による打撃も脅威だ。
そして、当然ながらその威力は今までと段違である。
事実エイクは、頭部と尻尾による打撃だけで相当のダメージを受けていた。
守備に関しては更に向上している。
体躯が巨大になった事により、当てるだけなら人型だったときよりも当てやすい。
だが、強固な鱗に包まれ高速で動くその身体に単純に武器を当てても、ただ弾かれてしまうだけである。
鱗の重ね目などの隙を狙う困難な行為を成功させなければ、有効な攻撃にはならない。
しかも、その皮膚の防御力もまた、人型だった時とは比べ物にならない。
今のアズィーダに有効なダメージを通すのはたやすい事ではなかった。
そして、その生命力も竜の身体に相応しいものに増大している。エイクを大きく凌いでいるのは間違いないだろう。
エイクに大きなダメージを与えて飛び去ったアズィーダは、反転してまたエイクに迫る。
そして再度、牙、鉤爪、尻尾の攻撃を繰り出した。
エイクは牙と鉤爪を避け、右翼に攻撃を当てることに成功した。だが、尻尾の攻撃はよけ切れない。
エイクの身体は、また弾き飛ばされた。
両者が受けたダメージを比べれば、明らかにエイクの方が大きい。
一見して情勢はエイク不利になっている。
だがしかし、エイクは勝機を見出していた。
(こいつは俺の強さを見誤っている)
と、そう判断していたからだ。
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