剣魔神の記

ギルマン

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第4章

余禄:アストゥーリア王国の歴史

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アストゥーリア王国の歴史

○新暦665年 建国
 公式な王国史では、アストゥーリア王国はこの年、初代国王マキシムス1世が現在の王都アイラナ周辺に巣くっていた邪悪な巨竜を倒して、建国したとされている。
 しかし、竜の狩場だったはずの土地から、直ぐに農作物を得る事が出来た事など不自然な点があるため、歴史学者などはこの建国史を史実と見なしていない。
 歴史学者達は、先住民を追い散らして農地を奪ったのではないかと推測している。

 実際には、マキシムスら故郷を追われた一部族がたどり着いた時、その地を支配していたのは強大な力を持つ精霊術師フィントリッド・ファーンソンだった。マキシムスらはフィントリッドから土地を奪おうとしたが、容易く敗れてしまう。
 フィントリッドはマキシムス達を滅ぼす事も出来たが、マキシムスの娘のアイラに興味を引かれ、その懇願に答えて土地をマキシムス達に譲り、自身は西のヤルミオンの森に移った。
 ところが、懇願して土地を譲ってもらったという事実を隠したいと考えたマキシムスは、娘アイラの存在を歴史から抹消し、偽りの建国物語を後に伝える事とした。

 なお、土地を譲った際フィントリッドは、譲り渡した土地には二度と立ち入らないという魔法的な契約を結んでいる。
 マキシムスとその子孫がその地を支配する限り、支配する者の許しのないまま立ち入ったならば、死を持ってその罪を贖う。などという内容だった。
 マキシムスとの交渉の結果だが、後にフィントリッドはこれを失敗だったと考えることになる。
 また、マキシムスはフィントリッドの怒りを買う様なことも行った。
 フィントリッドはマキシムスの事を「面倒な男」「不快な男」とも述べている。

 ちなみに、マキシムスはヤルミオンの森には手を出さない事をフィントリッドと約束しており、これについてはアストゥーリア王国の国法として今も守られている。
 また、マキシムスは王都にはフィントリッドは立ち入れないから、王都から動かなければ報復はされない。王都を動かさなければ子孫の安全も守られる。と考え、遷都してはならない、王族は出来るだけ王都から出てはならない、との国法も残した。このため王都アイラナは、今もヤルミオンの森の直ぐ近くに存在している。


○新暦922年 貴族の反乱
 ギグナシウス・クラスス侯爵を首謀者とする貴族の反乱が勃発。
 王城は陥落し、当時の王フレグストとその息子は捕らえられ処刑される。
 王女オフィーリアだけは城外に逃れ、紆余曲折の末ヤルミオンの森に逃げ込む。
 後から反乱に参加したフレグストの弟のアルトリオが新王に即位。

 逃げたオフィーリアに対しては、追っ手を放って捕らえるが命は助ける事に決まる。
 だが、この決定に不満があったアルトリオは秘かに追っ手に手を回し、オフィーリアを殺すように指示する。しかもこの時、そのような指示を出したのはクラスス侯爵ら最初に決起した貴族だと追っ手が思い込むように工作していた。

 この反乱について、今日知られている歴史では、フレグスト王は長い間クラスス侯爵達に傀儡にされており、クラスス侯爵らが悪政の限りを尽くしていた。フレグスト王はその状況を打開しようとしたが、先手を打ったクラスス侯爵らが反乱を起し王を殺した。とされている。
 しかしこれは事実ではなく、実際に悪政をしていたのはフレグスト自身であり、クラスス侯爵らは、むしろフレグストの悪政から民を守るために決起したものだった。


○同年 オフィーリア王女の反攻
 オフィーリア王女は近衛騎士1人とハーフエルフの侍女1人の2人だけに守られてヤルミオンの森に逃げ込む。しかし、森の中で追っ手に追いつかれてしまう。
 この時追っ手の者達から、自分を殺そうとしているのはクラスス侯爵らであると聞かされ、更に憎悪を募らせる。
 その時、大精霊使いフィントリッド・ファーンソンが介入し、オフィーリアを助けた。
 オフィーリアはフィントリッドに協力を要請。フィントリッドは見返りとして、国を取り戻して即位したなら、王都アイラナ周辺への立ち入り禁止の契約を破棄すること、そして更に、自分に身を捧げろとオフィーリアに要求し、オフィーリアはこれを受諾。
 フィントリッドを味方としたオフィーリアは、反乱貴族達に対して反撃に出る。

 この時オフィーリアは、父が悪政を行っておりクラスス侯爵らは民を守るために決起した事を既に承知していた。しかし、それを承知の上で、それでも正統な王位後継者である自分が王位を継ぐのだと決意していた。
 そして、オフィーリアは、悪政を行っていたのは父フレグストではなく、クラスス侯爵達だったと宣告し、自身と父王の正当性を主張した。


○同年 オフィーリア王女の勝利と即位
 フィントリッドを味方にしたオフィーリアは最終的に勝利して自ら即位する。
 そして、クラスス侯爵ら最初に決起した貴族達を反乱の首謀者として処刑した。
 この時オフィーリアは、民のために決起した善意の貴族達を、父の悪政を擦り付けて極悪人とした上で殺す事に躊躇いを覚えていた。
 しかし、当時オフィーリアは自分を殺そうとしたのもクラスス侯爵らだと思い込んでおり、その恨みもあったので、結局クラスス侯爵らを極悪人として処刑した。だが、一族皆殺しにはしておらず、彼らの子孫は残った。

 そして、後から反乱に参加した貴族達まで全て滅ぼしては国政が立ち行かなくなる情勢だった為、他の貴族には罰則を与えたものの存続を許した。
 その中には、オフィーリア殺害計画の本当の首謀者だったアルトリオすら含まれており、アルトリオはトラストリア公爵家を起こす事となる。

 フィントリッドとの約束も果たされ、以後フィントリッドは王都アイラナに自由に出入りするようになる。
 また、オフィーリアは最後まで自分に付き従った近衛騎士と、ハーフエルフの侍女のルファナに公爵の地位を以って報いている。
 近衛騎士は婚姻をせず、養子も取らなかったのでその公爵家は一代で絶えたが、侍女ルファナの家は後に残り、ルファス公爵家となった。


〇新暦923年以降 周辺諸国の介入とオフィーリアの結婚
 内乱に前後してアストゥーリア王国は周辺諸国からの介入を受ける事になる。オフィーリアはこれに対してもフィントリッドの助力を受けて対抗する。
 その過程で、オフィーリアとフィントリッドの間に肉体関係があることを周りに察せられてしまい、後には引けなくなった両者は正式に婚姻を結ぶことになった。


○新暦927年 オフィーリア殺害計画の真相発覚
 反乱当時オフィーリアを殺そうとしたのはクラスス侯爵らではなく、アルトリオだった事が発覚する。
 だが、その少し前にアルトリオは既に死亡してしまっていた。
 オフィーリアは自分が誤った認識の上で行動していた事を知り、深く思い悩み苦しんだが、結局アルトリオの罪を子に問うことはせず、トラストリア公爵家を存続させた。
 また、自分の権威に傷が付くことや世を混乱させる事を防ぐ為に、真実も一切公表しなかった。

 なお、事の真相を知ったルファナ・ルファスは激怒し、トラストリア公爵家を激しく敵視するようになる。
 そして、その意思を自らの子孫に引き継いだ。これが、ルファス公爵家とトラストリア公爵家の対立の原点となっている。


○新暦932年 王子誕生
 オフィーリアとフィントリッドの間に男子が誕生し、マキシムスと名付けられる。


○新暦957年 マキシムス2世即位
 オフィーリア女王は退位し、息子のマキシムスに王位を譲る(マキシムス2世)。
 ただし、伴侶であるフィントリッド共々その影響力は強く残っていた。


〇新暦976年 オフィーリア死去
 オフィーリア女王が死亡し、フィントリッドもこれを機会にヤルミオンの森へ戻った。


〇新暦977年 侵略戦争開始
 マキシムス2世の指揮の元、アストゥーリア王国軍が周辺諸国へ侵攻。拡大を開始する。


〇新暦1002年 マキシムス2世死去
 マキシムス2世が死亡する。その治世の間アストゥーリア王国は拡大の一途を続け、周辺の小国を飲み込み、更に南方のヴィント王国、南東のクミル王国を滅ぼし、南方の大国レシア王国にも勝利した。
 その業績から、マキシムス2世は大王と称されている。


○新暦1055年 レシア王国をほぼ制圧
 アストゥーリア王国はマキシムス2世の死後も拡大を続け、このころまでにレシア王国をほぼ制圧し、更にレシア王国の東に位置するラベルナ王国にも手を伸ばす。


○新暦1056年 レシア王国の反撃
 遥か東方からやって来たハイドゥ・ルルカという人物がレシア王国の残党に雇われる。
 ハイドゥは卓越した武人にして優れた指揮官であり、その働きによってアストゥーリア王国軍の追討部隊を打ち破る。
 当時、アストゥーリア王国はレシア王国の制圧も完成しない状況で、東に位置するラベルナ王国へも侵攻の手を伸ばすという無理のある戦略をとっていた。その上、北方都市連合やブルゴール帝国からも警戒されるようになっており、レシア王国の残党に兵力を集中する事が出来なかった。


○新暦1057年 レシア王国軍に大敗
 ハイドゥを総司令官としたレシア王国軍は幾度かアストゥーリア王国軍を破って勢力を拡大。アストゥーリア王国も戦線を整理して大兵力を送り込み、一大会戦が行われた。
 アストゥーリア王国はこの戦いに敗れ、劣勢に転じる。


○同年以降 本国領域まで縮小
 アストゥーリア王国の退勢は続き、レシア王国は旧領を回復、ヴィント王国とクミル王国も独立を回復し、アストゥーリア王国は本国領域まで縮小した。
 ヴィント王国とクミル王国の連合軍が余勢を駆ってアストゥーリア王国の本国領域に攻め込むが、レシア王国はこの侵攻には参加しなかった。
 アストゥーリア王国軍は決死の反抗を行い連合軍を撃破。これ以降各国とも軍事行動を控えるようになり、一旦戦乱は終結する。


○新暦1100年代 再度の拡大と大戦乱。
 アストゥーリア王国は勢力を盛り返し、ヴィント王国を圧迫する。ヴィント王国とクミル王国はアストゥーリア王国に対抗するために国家合同をなし、クミル・ヴィント二重王国となった。しかし、それでもアストゥーリア王国が優勢だった。

 クミル・ヴィント二重王国はレシア王国に救援を要請する。これに対抗して、アストゥーリア王国もブルゴール帝国に救援を要請。両国が介入し、西方全土を巻き込んだ大乱に発展する。
 やがて和平が結ばれ大乱は終息する。大乱の結果、アストゥーリア王国と二重王国は衰退し、レシア王国とブルゴール帝国は勢力を拡大。特に二重王国は、レシア王国の事実上の属国となる。

 その後もアストゥーリア王国と二重王国の対立は続き、断続的に戦が起こっていた。だが、レシア王国は積極的に二重王国を支援し、時には直接アストゥーリア王国に攻め込んだりしたが、ブルゴール帝国のアストゥーリア王国救援の動きは鈍く、アストゥーリア王国は概ね劣勢だった。


○新暦1150年代 復調
 エーミール・ルファス公爵や“英雄”ガイゼイクの活躍などにより、アストゥーリア王国はやや勢力を取り戻す。


○新暦1162年 王女誕生
 国王エリック・アストゥーラと王妃リディアの間に王女ファナフロアが誕生する。
 ところが、以後ファナフロア王女は人前に一度も姿を現しておらず、多くの者に不審に思われている。


○新暦1170年 大勝利と和議そして国内の不和
 エーミール率いるアストゥーリア王国軍は、ボルドー河畔の戦いで、策を弄してレシア王国軍に大勝する。
 続けて、ランセス丘陵の戦いでクミル・ヴィント二重王国軍を撃破。両国との間に1175年末までを期限とする講和条約を締結する。
 なお、レシア王国軍はボルドー河畔の戦いから退却する時に、妖魔に襲撃され大きな被害を出している。

 アストゥーリア王国では、当面の脅威が去り国内の問題に目が向くようになり、派閥対立が表面化する。
 その結果、皮肉にも勝利の立役者だったエーミールの権力に綻びが生じ始める。


○新暦1171年 物語開始と中断
 3月から『剣魔神の記』の物語が始まる。その後、9月までの出来事が語られた。


○新暦1174年 エーミール・ルファス公爵暗殺未遂事件
 エーミール・ルファスが襲撃されるが護衛の者達が撃退し、エーミールは無事だった。


○新暦1175年 物語再開
 8月から『剣魔神の記』の物語が再開する。
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