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第5章
2.炎獅子隊長との会談①
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エイクの活躍によってチムル村が救われてから2日後の昼過ぎ、炎獅子隊長メンフィウス・ルミフス率いる妖魔討伐軍の本隊が、チムル村に到着した。
到着が遅れたのは、メンフィウスが戦力の回復を優先させた結果だった。
チムル村を囲んだ妖魔達が撃退されたことを知ったメンフィウスは、予定通りその場で野営する事にした。そして、翌朝には、これも予定通り直ぐに戦える程度に回復した兵を選抜した。
チムル村は解放されたが、その北では約1000のサルゴサの部隊と3000ほどの妖魔が、まだにらみ合っている可能性があったからである。
選抜された兵は200ほどだったが、それでも有意な援軍になるはずだ。メンフィウスはその部隊を衛兵隊長に指揮させて北へと送り出した。
妖魔軍がまだ健在だった場合には、サルゴサの部隊と連携をとり、こちらからは仕掛けずに妖魔の動きを牽制して、付近の村々を守ることを第一にして動くよう指示していた。
そして、他のより疲弊が大きい将兵は、その場で更に1日待機させ回復を図る事とした。
従軍していた神聖術師に、残った魔石やマナ回復薬を渡して最大限効果的に回復魔法を使ってもらい、また、回復薬や傷薬も惜しみなく使って、重傷者を中心に出来るだけ傷を癒す事にしたのである。お陰で本隊の戦力は相当に回復した。
メンフィウスは、2日後の朝にその本隊を率いて出立し、同日の昼過ぎにチムル村の到着したのだ。
ちなみに本隊が到着した時、エイクは他の冒険者達や一部の兵士と共にヤルミオンの森に入って、森に逃げ込んだ妖魔の様子を探っていた。
先日も森の探索を行ったエイクは、妖魔が完全に散り散りにはなっておらず、合計で1500ほどの妖魔が、十数体から数十体程度の集団毎にまとまって、森の比較的浅い場所に屯しているのを確認していた。
これを無視することは出来ない。エイクは率先してその探索と監視を行っていたである。
また、森に入るのにあたって、エイクは合流を果たした女オーガのアズィーダを同行させていた。
エイクはアズィーダの事を、自分が一騎打ちで勝って奴隷とした女オーガだと軍や村人達に説明した。
村を救った最大の功労者であるエイクの言葉は無下にはできない。また、闇の担い手を奴隷として使役する事は違法ではないし、アズィーダが妖魔を攻撃する様子が目撃されていた事もあって、エイクの主張は一応受け入れられた。
とはいっても、突然現れた闇の担い手が直ぐに信用されるはずがない。世の中には、光の担い手達の社会に受け入れられる魔族も稀に存在するが、それは信頼に足る実績を積み重ねた場合だけだ。
とりあえずエイクは、アズィーダを常に自分に同行させ、自分の命令に従順に従う様子を冒険者や兵士に確認させた。また、村に戻った後は鎖でつないで村人達が安心するように計らった。
今後アズィーダを自分の部下として使うつもりであるエイクは、そうやって出来るだけアズィーダが受け入れられるようにしようと考えたのである。
アズィーダは、そんなエイクの指示に全て従っていた。
チムル村に着いたメンフィウスは、兵達に野営の準備をさせ、自身は村長の屋敷の一室で、幹部達との会議に臨んだ。状況の確認と今後の対応を決めるためだ。
まず、参謀のマチルダが状況説明を行う。
「北では、未だにサルゴサの部隊約1000と妖魔軍約3000が互いに陣を築いてにらみ合いを続けています。先行した部隊は妖魔軍の東に配置したとの連絡がありました。
また、この村の近くの森にも合計で1500ほどの妖魔が残っています。ですが、こちらは統一的に指揮されている様子はありません。
全体的な指揮者は既に失われており、ゴブリンロードやシャーマンなどある程度の強さの妖魔が、それぞれ十数体から数十体程度の集団を別個に率いているものと思われます。
王都からの指示ですが、引き続き総指揮はルミフス隊長に任せるとの確認を得ています。
今後の対応も現地の判断に任せる、と。ただ、情勢が落ち着いたならば、出来るだけ早く王都に帰還するように、とも指示されています。
また、王都では妖魔に対応する為の部隊が編成されたそうです。
我々が敗れた場合に備えて、我々に代わって妖魔を討伐するか、或いは情勢が悪ければ王都を守る為の部隊です。
ですが、当面の危機を脱したことから、我々が必要としない限りは、その部隊をこちらに送る予定はない。との事でした。
加えて、情勢が落ち着いた後に、ヤルミオンの森の調査を行うことも連絡されています。
基本的に周辺部は我々炎獅子隊が中心になって行い、森の深部に関しては闇梟隊が行うとのことでした。
現状の報告は以上です」
「分かった」
軽く頷きつつそう告げたメンフィウスは、続いて部下達に指示を出す。
「まずは北の妖魔共に対応する。
べネス、ご苦労だが騎兵を率いて、速やかに北の妖魔たちの東に回り込んで、先行した部隊と合流して欲しい。先行した部隊の指揮権も貴公に移す。妖魔が周りの村々に被害を出すのを可能な限り防ぐのだ。
もちろん、何かあった際の連絡や、サルゴサの部隊との連携も確実に行ってくれ」
「はい、承りました」
先日までチムル村防衛の指揮をとっていたヴァスコ・ベネス副隊長が力強くそう答えた。
メンフィウスは説明を続ける。
「本隊の北上は明日の早朝からとする。
今から本隊を北に動かせば、到着は夜になってしまい不確実性が増してしまうからだ。それよりも、明日の朝から出陣し、昼間に接敵した方が確実に対応できる。
仮に、その前に妖魔から攻撃されても、サルゴサの部隊と先行する部隊だけで持ちこたえる事は出来るだろう。
もちろん、想定外の何かが起こった際には、早急に本隊に連絡する体制を整えておいてくれ」
「了解いたしました」
ヴァスコが再度了承の意を示した。
「それから、1500という規模の妖魔が近くにいる以上、当然この村も無防備にするわけには行かない。
ギスカー、貴公に村に残る部隊の指揮を任せる。村の状況や防衛について良く引継ぎをしておいてくれ。
当然未だに戦えない重傷者も残すから、その者たちの対応も頼む」
メンフィウスは、副隊長の一人にして隊長補佐を兼ねるギスカーにそう指示を出した。
「畏まりました」
ギスカーの返答を受けたメンフィウスは、もう一人の副隊長であるパトリシオの方に顔を向けた。
パトリシオは会議の間ずっと厳しい表情をしていた。先日の戦いの際に思うように結果を出せなかった為である。
「パトリシオ、貴公には明日、私とともに北上してもらう。
前にも言ったが、貴公はまだ若く、部隊指揮は初めてだ。今は経験を積むべき時と考えるべきだ。そう思って励むように」
「はい。承知いたしました」
そう答えたパトリシオは、少しだけ気を取り直しているように見受けられた。
「マチルダ、王都には援軍は当面不要と伝えてくれ。むしろ、何か変事があった場合に即応できるよう、王都で待機すべきだ、と」
「了解いたしました」
「うむ。それでは皆、それぞれ最善をつくしてくれ」
メンフィスはそう告げて会議を終わらせた。
炎獅子隊幹部達の会議が終わってしばらくした頃に、エイクが森から帰還した。
彼は早速担当の兵士に探索の結果を報告しようとしたのだが、その前に話しかけてくる兵士がいた。
「エイク殿、メンフィウス・ルミフス隊長が、エイク殿とお話しをしたいとの事です。報告も直接伺う、との事でした。
よろしければ、隊長のいる部屋まで来ていただけますでしょうか」
その兵士は、チムル村で防衛戦を戦った者だった。チムル村防衛戦に参加した兵士達は、先日以来エイクに丁重な態度で接するようになっていた。
「分かりました」
エイクはそう答え、素直にメンフィウスの元へ向かった。
エイクが部屋に入ってくると、メンフィウスは案内した兵士に退出を命じた。
そして、兵が去るとおもむろに席を立ち、エイクに向かって頭を下げ、謝罪の言葉を述べる。
「エイク殿、ガイゼイク様が亡くなった後の事について謝罪させて欲しい。
あの時、フォルカス・ローリンゲンが不当な事を行っている事に、私は気付いていた。だが、新たに隊長になったフォルカスの威勢を恐れて、何もしなかった。誠に申し訳なかったと思っている」
この発言は、正確なものではない。メンフィウスがエイクを助けようとしなかったのは、フォルカスを恐れたからではなく、軍務大臣エーミール・ルファス公爵から、フォルカスの行いを黙認するように指示が出ていたからだった。
だが、そんな事をメンフィウスの独断でエイクに告げる事はできない。
それに、その事実をエイクが知れば、エーミールに対する反感を大きくするだけである。エイクに軍に仕官して欲しいと思っているメンフィウスとしてはそれも望ましいことではない。
だから、悪かったのは、フォルカスと自分の怯懦であるという事にしたのである。
「……顔を上げてください。
気にしていません、といえば嘘になります。ですが、今は、それぞれ立場というものがあった、ということも理解しているつもりです」
エイクはメンフィウスから謝罪されるとは思っておらず面食らったが、とりあえずそう返した。
それは彼の本音だった。
最初エイクは、父の死後に行われた不当な行いを、見て見ぬ振りをしていた者達全員が敵だと思っていた。
だが、ラング子爵と話したりする中で、有力貴族だったフォルカス・ローリンゲンに歯向かって、当時の自分や父の名誉の為に行動するのは相当に難しかったのだと思い至っていた。
だから、見て見ぬ振りをしていただけの相手を、復讐の対象だとはもう思っていない。
とはいっても、そんな状況でも自分の為に行動してくれたアルターやギスカーと比べてしまえば、やはりわだかまりが残っているのも事実だ。
エイクの言葉に従って頭を上げ、それでも重ねて詫びを述べようとするメンフィウスに先んじて、エイクが告げた。
「それにしても、お会いするのは随分久しぶりですね。ルミフス、隊長」
メンフィウスは、エイクの父ガイゼイクが炎獅子隊長だった時に参謀を務めており、その頃エイクとも面識があった。
「……ああ、ガイゼイク様の死後、一度も会おうとすらしなかった不義理も許して欲しい」
「その事はもう良いです。この4年間、ルミフス隊長もフォルカスの下で随分ご苦労を重ねておられたと、ギスカーさんからも聞いていました」
「情けない話だが、確かに奴の指揮下で部隊を運営するのは楽ではなかった。
今にして思えば、隊の運営に汲々としているよりも、フォルカスの身辺調査をするべきだった。奴が闇教団と通じている事に気付けていれば、奴を失脚させる事も出来ただろうに……。
いや、そんな事よりも、改めて礼を言いたい。
エイク殿の加勢のおかげでこの村を守る事が出来た。感謝する」
「いえ、それは、他の方にも言いましたが、私は炎獅子隊からの依頼を受けた冒険者パーティ“黄昏の蛇”の一員です。任務をこなしただけの事です」
「その事についても、改めて教えて欲しい。何度も説明してもらった事だが、すまないが私にも直接聞かせてくれないだろうか?」
「構いません」
「よろしく頼む。まあ、とりあえずかけてくれ」
メンフィウスはそう告げると今まで座っていた席にもどる。
エイクも着座して、そして話し始めた。
到着が遅れたのは、メンフィウスが戦力の回復を優先させた結果だった。
チムル村を囲んだ妖魔達が撃退されたことを知ったメンフィウスは、予定通りその場で野営する事にした。そして、翌朝には、これも予定通り直ぐに戦える程度に回復した兵を選抜した。
チムル村は解放されたが、その北では約1000のサルゴサの部隊と3000ほどの妖魔が、まだにらみ合っている可能性があったからである。
選抜された兵は200ほどだったが、それでも有意な援軍になるはずだ。メンフィウスはその部隊を衛兵隊長に指揮させて北へと送り出した。
妖魔軍がまだ健在だった場合には、サルゴサの部隊と連携をとり、こちらからは仕掛けずに妖魔の動きを牽制して、付近の村々を守ることを第一にして動くよう指示していた。
そして、他のより疲弊が大きい将兵は、その場で更に1日待機させ回復を図る事とした。
従軍していた神聖術師に、残った魔石やマナ回復薬を渡して最大限効果的に回復魔法を使ってもらい、また、回復薬や傷薬も惜しみなく使って、重傷者を中心に出来るだけ傷を癒す事にしたのである。お陰で本隊の戦力は相当に回復した。
メンフィウスは、2日後の朝にその本隊を率いて出立し、同日の昼過ぎにチムル村の到着したのだ。
ちなみに本隊が到着した時、エイクは他の冒険者達や一部の兵士と共にヤルミオンの森に入って、森に逃げ込んだ妖魔の様子を探っていた。
先日も森の探索を行ったエイクは、妖魔が完全に散り散りにはなっておらず、合計で1500ほどの妖魔が、十数体から数十体程度の集団毎にまとまって、森の比較的浅い場所に屯しているのを確認していた。
これを無視することは出来ない。エイクは率先してその探索と監視を行っていたである。
また、森に入るのにあたって、エイクは合流を果たした女オーガのアズィーダを同行させていた。
エイクはアズィーダの事を、自分が一騎打ちで勝って奴隷とした女オーガだと軍や村人達に説明した。
村を救った最大の功労者であるエイクの言葉は無下にはできない。また、闇の担い手を奴隷として使役する事は違法ではないし、アズィーダが妖魔を攻撃する様子が目撃されていた事もあって、エイクの主張は一応受け入れられた。
とはいっても、突然現れた闇の担い手が直ぐに信用されるはずがない。世の中には、光の担い手達の社会に受け入れられる魔族も稀に存在するが、それは信頼に足る実績を積み重ねた場合だけだ。
とりあえずエイクは、アズィーダを常に自分に同行させ、自分の命令に従順に従う様子を冒険者や兵士に確認させた。また、村に戻った後は鎖でつないで村人達が安心するように計らった。
今後アズィーダを自分の部下として使うつもりであるエイクは、そうやって出来るだけアズィーダが受け入れられるようにしようと考えたのである。
アズィーダは、そんなエイクの指示に全て従っていた。
チムル村に着いたメンフィウスは、兵達に野営の準備をさせ、自身は村長の屋敷の一室で、幹部達との会議に臨んだ。状況の確認と今後の対応を決めるためだ。
まず、参謀のマチルダが状況説明を行う。
「北では、未だにサルゴサの部隊約1000と妖魔軍約3000が互いに陣を築いてにらみ合いを続けています。先行した部隊は妖魔軍の東に配置したとの連絡がありました。
また、この村の近くの森にも合計で1500ほどの妖魔が残っています。ですが、こちらは統一的に指揮されている様子はありません。
全体的な指揮者は既に失われており、ゴブリンロードやシャーマンなどある程度の強さの妖魔が、それぞれ十数体から数十体程度の集団を別個に率いているものと思われます。
王都からの指示ですが、引き続き総指揮はルミフス隊長に任せるとの確認を得ています。
今後の対応も現地の判断に任せる、と。ただ、情勢が落ち着いたならば、出来るだけ早く王都に帰還するように、とも指示されています。
また、王都では妖魔に対応する為の部隊が編成されたそうです。
我々が敗れた場合に備えて、我々に代わって妖魔を討伐するか、或いは情勢が悪ければ王都を守る為の部隊です。
ですが、当面の危機を脱したことから、我々が必要としない限りは、その部隊をこちらに送る予定はない。との事でした。
加えて、情勢が落ち着いた後に、ヤルミオンの森の調査を行うことも連絡されています。
基本的に周辺部は我々炎獅子隊が中心になって行い、森の深部に関しては闇梟隊が行うとのことでした。
現状の報告は以上です」
「分かった」
軽く頷きつつそう告げたメンフィウスは、続いて部下達に指示を出す。
「まずは北の妖魔共に対応する。
べネス、ご苦労だが騎兵を率いて、速やかに北の妖魔たちの東に回り込んで、先行した部隊と合流して欲しい。先行した部隊の指揮権も貴公に移す。妖魔が周りの村々に被害を出すのを可能な限り防ぐのだ。
もちろん、何かあった際の連絡や、サルゴサの部隊との連携も確実に行ってくれ」
「はい、承りました」
先日までチムル村防衛の指揮をとっていたヴァスコ・ベネス副隊長が力強くそう答えた。
メンフィウスは説明を続ける。
「本隊の北上は明日の早朝からとする。
今から本隊を北に動かせば、到着は夜になってしまい不確実性が増してしまうからだ。それよりも、明日の朝から出陣し、昼間に接敵した方が確実に対応できる。
仮に、その前に妖魔から攻撃されても、サルゴサの部隊と先行する部隊だけで持ちこたえる事は出来るだろう。
もちろん、想定外の何かが起こった際には、早急に本隊に連絡する体制を整えておいてくれ」
「了解いたしました」
ヴァスコが再度了承の意を示した。
「それから、1500という規模の妖魔が近くにいる以上、当然この村も無防備にするわけには行かない。
ギスカー、貴公に村に残る部隊の指揮を任せる。村の状況や防衛について良く引継ぎをしておいてくれ。
当然未だに戦えない重傷者も残すから、その者たちの対応も頼む」
メンフィウスは、副隊長の一人にして隊長補佐を兼ねるギスカーにそう指示を出した。
「畏まりました」
ギスカーの返答を受けたメンフィウスは、もう一人の副隊長であるパトリシオの方に顔を向けた。
パトリシオは会議の間ずっと厳しい表情をしていた。先日の戦いの際に思うように結果を出せなかった為である。
「パトリシオ、貴公には明日、私とともに北上してもらう。
前にも言ったが、貴公はまだ若く、部隊指揮は初めてだ。今は経験を積むべき時と考えるべきだ。そう思って励むように」
「はい。承知いたしました」
そう答えたパトリシオは、少しだけ気を取り直しているように見受けられた。
「マチルダ、王都には援軍は当面不要と伝えてくれ。むしろ、何か変事があった場合に即応できるよう、王都で待機すべきだ、と」
「了解いたしました」
「うむ。それでは皆、それぞれ最善をつくしてくれ」
メンフィスはそう告げて会議を終わらせた。
炎獅子隊幹部達の会議が終わってしばらくした頃に、エイクが森から帰還した。
彼は早速担当の兵士に探索の結果を報告しようとしたのだが、その前に話しかけてくる兵士がいた。
「エイク殿、メンフィウス・ルミフス隊長が、エイク殿とお話しをしたいとの事です。報告も直接伺う、との事でした。
よろしければ、隊長のいる部屋まで来ていただけますでしょうか」
その兵士は、チムル村で防衛戦を戦った者だった。チムル村防衛戦に参加した兵士達は、先日以来エイクに丁重な態度で接するようになっていた。
「分かりました」
エイクはそう答え、素直にメンフィウスの元へ向かった。
エイクが部屋に入ってくると、メンフィウスは案内した兵士に退出を命じた。
そして、兵が去るとおもむろに席を立ち、エイクに向かって頭を下げ、謝罪の言葉を述べる。
「エイク殿、ガイゼイク様が亡くなった後の事について謝罪させて欲しい。
あの時、フォルカス・ローリンゲンが不当な事を行っている事に、私は気付いていた。だが、新たに隊長になったフォルカスの威勢を恐れて、何もしなかった。誠に申し訳なかったと思っている」
この発言は、正確なものではない。メンフィウスがエイクを助けようとしなかったのは、フォルカスを恐れたからではなく、軍務大臣エーミール・ルファス公爵から、フォルカスの行いを黙認するように指示が出ていたからだった。
だが、そんな事をメンフィウスの独断でエイクに告げる事はできない。
それに、その事実をエイクが知れば、エーミールに対する反感を大きくするだけである。エイクに軍に仕官して欲しいと思っているメンフィウスとしてはそれも望ましいことではない。
だから、悪かったのは、フォルカスと自分の怯懦であるという事にしたのである。
「……顔を上げてください。
気にしていません、といえば嘘になります。ですが、今は、それぞれ立場というものがあった、ということも理解しているつもりです」
エイクはメンフィウスから謝罪されるとは思っておらず面食らったが、とりあえずそう返した。
それは彼の本音だった。
最初エイクは、父の死後に行われた不当な行いを、見て見ぬ振りをしていた者達全員が敵だと思っていた。
だが、ラング子爵と話したりする中で、有力貴族だったフォルカス・ローリンゲンに歯向かって、当時の自分や父の名誉の為に行動するのは相当に難しかったのだと思い至っていた。
だから、見て見ぬ振りをしていただけの相手を、復讐の対象だとはもう思っていない。
とはいっても、そんな状況でも自分の為に行動してくれたアルターやギスカーと比べてしまえば、やはりわだかまりが残っているのも事実だ。
エイクの言葉に従って頭を上げ、それでも重ねて詫びを述べようとするメンフィウスに先んじて、エイクが告げた。
「それにしても、お会いするのは随分久しぶりですね。ルミフス、隊長」
メンフィウスは、エイクの父ガイゼイクが炎獅子隊長だった時に参謀を務めており、その頃エイクとも面識があった。
「……ああ、ガイゼイク様の死後、一度も会おうとすらしなかった不義理も許して欲しい」
「その事はもう良いです。この4年間、ルミフス隊長もフォルカスの下で随分ご苦労を重ねておられたと、ギスカーさんからも聞いていました」
「情けない話だが、確かに奴の指揮下で部隊を運営するのは楽ではなかった。
今にして思えば、隊の運営に汲々としているよりも、フォルカスの身辺調査をするべきだった。奴が闇教団と通じている事に気付けていれば、奴を失脚させる事も出来ただろうに……。
いや、そんな事よりも、改めて礼を言いたい。
エイク殿の加勢のおかげでこの村を守る事が出来た。感謝する」
「いえ、それは、他の方にも言いましたが、私は炎獅子隊からの依頼を受けた冒険者パーティ“黄昏の蛇”の一員です。任務をこなしただけの事です」
「その事についても、改めて教えて欲しい。何度も説明してもらった事だが、すまないが私にも直接聞かせてくれないだろうか?」
「構いません」
「よろしく頼む。まあ、とりあえずかけてくれ」
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エイクも着座して、そして話し始めた。
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