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第5章
16.炎獅子隊が敗れていた場合
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その話にアルターも反応を示した。
「なるほど、部隊の指揮官が誰になるか明らかにされないのは不審と思っていましたが、そういう事情ですか。
これは、反ルファス派の勢力は思ったよりも大きくなっているのかも知れませんな。
宿敵であるトラストリア公爵家の者を要職に就けることに同意するとは、ルファス大臣にとっては苦渋の決断だったはずです。
しかし、そうすると、預言者の行いの意味がいっそう分からなくなってしまいますな」
「どういうことかしら?」
セレナの問いに、アルターが応える。
「魔族の侵攻によってチムル村などに大きな被害が出た場合、それは現地で戦った炎獅子隊や衛兵隊の失態となり、引いては軍総司令官のルファス公爵の責任も問われます。つまり、ルファス公爵の権威と権力に傷を付ける事になったわけです。
それだけの為にしては、行動の規模が大げさすぎると思うのですが、ルファス公爵にとって害になる行為なのは間違いありません。
ですから、あえて言えば今回の侵攻は、ルファス派に害をなし反ルファス派に与するものだった可能性はあり得るかも知れないと考えていました。要するに、預言者は反ルファス派と結び付いているのかも知れない、と。
ですが、その魔族たちを討つ役職にアルストール公子が就くことになっていたとするならば、それは考え難いでしょう。それでは、同士討ちをする事になってしまいますからな」
「……そうかしら? むしろ、逆に預言者とアルストールが結託している可能性が高まったのではない?
だって、討伐軍の司令官が敵と通じているなら、意図的に討伐軍を壊滅させることも可能でしょう? そうなれば、もう王都を守るための戦力は残されていない。容易く占領できるわ」
「おっしゃるとおりですが、そのような事をしても後が続きません。
魔族と結託して、そんな悪辣な策略を行う者に貴族も民も付いて行くはずがありません。
西方全域の、いえ、大陸全土の神殿や賢者の学院も間違いなく敵に回ります。冒険者達の中にも、大勢の同業者を謀殺した者を許せないと考える者は多く出るでしょう。
そして、王都を占領しても、軍の主力はセレビアに健在です。
それらの者達に攻められて、魔族もアルストール公子も、あっという間に壊滅してしまうでしょう。そんな愚かな行動をとるとは思えません。
仮に、その全てに攻められても勝てるほどの戦力を保持しているなら、面倒な小細工を弄する必要はないので、やはり辻褄が合いません」
「それもそうね。
……それじゃあ、その反対はどうかしら? 魔族たちが意図的に負けて、アルストール公子の名声を高めるというのは」
「公子の名声を高める為だけに、これほど大げさな事をするとは思えませんな」
そこで、ロアンが発言した。
「あ、あの、そ、そうでしょうか?」
いつもどおり、気弱そうな声音だ。
「何か考えがあるなら言ってくれ」
エイクにそう促され、ロアンは続きを話し始める。
「この時期に、ルファス公爵の権威が下がって、アルストール公子の名声が高まる事の意味は、皆様が思っているよりも大きいと思うのです。
皆様は、いざとなれば国に頼らなくても生きてゆける力量があります。ですので、国に依存する気持ちもそれほど強くはないでしょう。
ですが、そうではない一般の庶民には、戦や国の行く末に不安を感じている者は少なくありません。
不安の一つは、ルファス公爵のお歳です。
ルファス公爵は幾つもの戦を勝利に導いた、国の守護者とも言えるお方です。5年前の大勝利によって講和が成立して、一時の平安が得られたのも公爵のお力です。
しかし、公爵は既に70歳近いお歳になっています。果たして5年前と同じほどご活躍が今後もできるのだろうか、と思ってしまうのです。
もう一つは、王位の後継者についてです。現在正統な王位後継者はファナフロア王女様お一人だけ。ですが、王女様は公の場に全く姿を御見せになりません。
王女様の姿を見た事がある民は誰一人としていないのです。
これはどう考えても普通の事ではありません。王女様は既にお亡くなりになっているという噂も実しやかに流れています。これにもやはり不安を感じてしまいます。
アルストール公子が大きな武功を上げ躍進なさると、その2つの不安を解消してくれるのはアルストール公子だ。と、そう考える者もかなり多くなるはずです。
公子には一応王位継承権はあるわけですし……」
アルターが少しだけ不快そうな様子で応じた。
「つまり、新たな軍総司令官にも、王位の後継者としても、アルストール公子こそが相応しいと考える者が増える。というわけですな。
王位後継者はともかくとして、軍総司令官に関しては浅慮といわざるを得ますまい。
アルストール公子はかなりの武勇を誇り、小部隊の指揮に関しても相応の実績を残しています。ですが、軍の総司令官として求められる能力は、それとは別のものです。ルファス大臣の代わりが務まるとは到底思えません」
アルターの声音には、いつもよりも若干だけ険がある。
自身も70歳を過ぎているアルターとしては、70近い者が活躍できるが疑問だ、という話題が不快だったのかもしれない。
エイクもエーミールの能力に不安があるという考えには賛同できなかった。エーミールの威厳ある姿を見たばかりだったからだ。
だが、直ぐに考えを改めた。その時エーミールに対して『老けた』という印象を持ったのも事実だったからである。多くの民も同じように思っていることだろう。
それに、エーミールのカリスマ性は健在のように見えたが、それは戦場での切れが健在である事を保証するものではない。
今後の戦場での活躍を不安視する者がいてもおかしくはないと思える。
アルターもロアンの意見を無下に退けず、それを踏まえて自身の見解を述べた。
「とは言っても、そのように思う者が増えるというのは事実でしょうな。そして、そのような“民の声”が無視できないというのも、その通りと思います」
実際、アストゥーリア王国においては、一般民衆の声というものは政に対してある程度の影響力を持っている。貴族の権力を強く抑制しているからだ。
そもそも、アースマニス大陸西方では、民の声を政に反映させるという考えは、それほど特殊なものではない。
かつて大陸西方から中央部に大版図を築き、滅びた後も西方諸国に大きな影響を残しているレムレア帝国が、元々は民会によって運営される一都市国家だったという歴史があるからだ。
現在においても、北方都市連合を構成する都市国家の一部には、そのような“共和制”を採っている国もある。
そして、アストゥーリア王国ではオフィーリア女王以来貴族の権力を抑制していた為、政治・軍事の分野での平民の躍進が著しい。大きな功績を挙げた平民が政府の要職に就くことも頻繁なのである。
アストゥーリア王国では、そのような平民が要職に就く際には、新たに爵位を与えるようにしている。エイクの父ガイゼイクが男爵位を得ていたのもそのような例である。
このため、表面上は政府の高位高官は、皆爵位持ちの貴族のように見える。だが、その内実は平民である事も多い。
実際、現在の政府の中核を占める、軍務、財務、外務、内務、の4大臣のうち、財務大臣ハルテア伯爵は親の代で世襲貴族の地位を与えられ、更に自身も功績を重ねて伯爵位すら賜った元平民の貴族。
内務大臣キルケイト子爵にいたっては己一代で平民から子爵にまで成り上がった人物だった。
当然、それ以下の役職に就き王国政府の実務を担う平民は数多い。
そのような情勢では王家も政府も、民の声を無視は出来ないのである。
といっても、民の声を直接的に政に反映させる制度があるわけではない。だから、必ず反映されるとはいえない。
セレナがその事を指摘した。
「でも、民がどれほど望んだところで、ルファス公爵が健在な限り、アルストール公子が軍を指揮する事も、王位の後継者になる事もありえないでしょう?」
アルターがその考えに賛意を示す。
「それもまた、その通りです。民の声を無視も出来ませんが、それだけで政府の情勢が覆されるとも思えません。
ルファス大臣への王の信頼は揺ぎ無いですし、宰相閣下も強固なルファス公爵派ですからな。
ルファス公爵ある限り、例え大きな武功を上げ名声が高まっても、アルストール公子が軍を指揮することも王位を継ぐことはありえません。
それに、アルストール公子の名声が高まるのは、魔族の指揮官クラスを討った場合だけでしょう。
確かに、闇の担い手や上級の妖魔は、下級の妖魔をいくらでも使い潰せる消耗品と見なしています。ですので、下級妖魔を意図的に討たせてアルストール公子の勝利を演出することはあり得るといえます。
ですが、下級妖魔は消耗品に過ぎないという事は、光の担い手達にも広く認識されている事です。ですから、下級妖魔を討つだけではさほどの功績とはいえません。
指揮官クラスを討たねば敵主力を討ち漏らしたと見なされて、むしろ失態として公子の権威に傷が付きます。
そして、指揮官クラスの上級妖魔や闇の担い手ともなれば、魔族にとっても重要な戦力。それを使い潰しの消耗品にするとは思えない。
その事を考えれば、やはり公子や公子を奉じる反ルファス派が魔族と結託しているということは考え難いと思えますな」
「といっても、魔族の侵攻が成功すれば、ルファス公爵の権威にも傷が付くのだから、ルファス公爵派と通じていたとも考え難い」
セレナがそう確認し、アルターが答える。
「その通りです。ですので、預言者の行いの意味がよりいっそう分からない。というわけです。
あえて言うならば、反ルファス派は今まで預言者と結託していたが、何らかの情勢が変わった結果、関係を切ることにした。という可能性はありえるかも知れません。
そう解釈すれば、アルストール公子が魔族を討つのもあり得ます。
ただそのような可能性を考えるならば、今までは預言者とルファス公爵派が結託していたが、預言者がルファス公爵派との関係を切る事にして、今回の侵攻を行った。という事も考えられます。ですので、やはりどちらとも断言は出来ません。
いずれにしても、預言者の行動の意味やその目的を考える為には、今はまだ情報が足りません。今はこれ以上の考察をしても徒労というものでしょう」
アルターはそうまとめた。
エイクは、今の話を聞いて思うところがあった。だが、その事について語る機を逸した。
セレナが速やかに次の話題に移ったからだ。
「それなら、次は私から“虎使い”に関する報告させてもらってよいかしら。相当重要と思える情報が得られているの」
その声音は今までよりも低くなっており、これから語る事が、本当に重要なものである事が察せられる。
エイクは、その話を聞くことを優先した。
「ああ、頼む」
エイクは気を引き締めてそう答える。
「ナースィルはやはり相当怪しいわ」
セレナはまずそう言った。
確かに、この報告もエイクにとって非常に重要なものになりそうだ。
「なるほど、部隊の指揮官が誰になるか明らかにされないのは不審と思っていましたが、そういう事情ですか。
これは、反ルファス派の勢力は思ったよりも大きくなっているのかも知れませんな。
宿敵であるトラストリア公爵家の者を要職に就けることに同意するとは、ルファス大臣にとっては苦渋の決断だったはずです。
しかし、そうすると、預言者の行いの意味がいっそう分からなくなってしまいますな」
「どういうことかしら?」
セレナの問いに、アルターが応える。
「魔族の侵攻によってチムル村などに大きな被害が出た場合、それは現地で戦った炎獅子隊や衛兵隊の失態となり、引いては軍総司令官のルファス公爵の責任も問われます。つまり、ルファス公爵の権威と権力に傷を付ける事になったわけです。
それだけの為にしては、行動の規模が大げさすぎると思うのですが、ルファス公爵にとって害になる行為なのは間違いありません。
ですから、あえて言えば今回の侵攻は、ルファス派に害をなし反ルファス派に与するものだった可能性はあり得るかも知れないと考えていました。要するに、預言者は反ルファス派と結び付いているのかも知れない、と。
ですが、その魔族たちを討つ役職にアルストール公子が就くことになっていたとするならば、それは考え難いでしょう。それでは、同士討ちをする事になってしまいますからな」
「……そうかしら? むしろ、逆に預言者とアルストールが結託している可能性が高まったのではない?
だって、討伐軍の司令官が敵と通じているなら、意図的に討伐軍を壊滅させることも可能でしょう? そうなれば、もう王都を守るための戦力は残されていない。容易く占領できるわ」
「おっしゃるとおりですが、そのような事をしても後が続きません。
魔族と結託して、そんな悪辣な策略を行う者に貴族も民も付いて行くはずがありません。
西方全域の、いえ、大陸全土の神殿や賢者の学院も間違いなく敵に回ります。冒険者達の中にも、大勢の同業者を謀殺した者を許せないと考える者は多く出るでしょう。
そして、王都を占領しても、軍の主力はセレビアに健在です。
それらの者達に攻められて、魔族もアルストール公子も、あっという間に壊滅してしまうでしょう。そんな愚かな行動をとるとは思えません。
仮に、その全てに攻められても勝てるほどの戦力を保持しているなら、面倒な小細工を弄する必要はないので、やはり辻褄が合いません」
「それもそうね。
……それじゃあ、その反対はどうかしら? 魔族たちが意図的に負けて、アルストール公子の名声を高めるというのは」
「公子の名声を高める為だけに、これほど大げさな事をするとは思えませんな」
そこで、ロアンが発言した。
「あ、あの、そ、そうでしょうか?」
いつもどおり、気弱そうな声音だ。
「何か考えがあるなら言ってくれ」
エイクにそう促され、ロアンは続きを話し始める。
「この時期に、ルファス公爵の権威が下がって、アルストール公子の名声が高まる事の意味は、皆様が思っているよりも大きいと思うのです。
皆様は、いざとなれば国に頼らなくても生きてゆける力量があります。ですので、国に依存する気持ちもそれほど強くはないでしょう。
ですが、そうではない一般の庶民には、戦や国の行く末に不安を感じている者は少なくありません。
不安の一つは、ルファス公爵のお歳です。
ルファス公爵は幾つもの戦を勝利に導いた、国の守護者とも言えるお方です。5年前の大勝利によって講和が成立して、一時の平安が得られたのも公爵のお力です。
しかし、公爵は既に70歳近いお歳になっています。果たして5年前と同じほどご活躍が今後もできるのだろうか、と思ってしまうのです。
もう一つは、王位の後継者についてです。現在正統な王位後継者はファナフロア王女様お一人だけ。ですが、王女様は公の場に全く姿を御見せになりません。
王女様の姿を見た事がある民は誰一人としていないのです。
これはどう考えても普通の事ではありません。王女様は既にお亡くなりになっているという噂も実しやかに流れています。これにもやはり不安を感じてしまいます。
アルストール公子が大きな武功を上げ躍進なさると、その2つの不安を解消してくれるのはアルストール公子だ。と、そう考える者もかなり多くなるはずです。
公子には一応王位継承権はあるわけですし……」
アルターが少しだけ不快そうな様子で応じた。
「つまり、新たな軍総司令官にも、王位の後継者としても、アルストール公子こそが相応しいと考える者が増える。というわけですな。
王位後継者はともかくとして、軍総司令官に関しては浅慮といわざるを得ますまい。
アルストール公子はかなりの武勇を誇り、小部隊の指揮に関しても相応の実績を残しています。ですが、軍の総司令官として求められる能力は、それとは別のものです。ルファス大臣の代わりが務まるとは到底思えません」
アルターの声音には、いつもよりも若干だけ険がある。
自身も70歳を過ぎているアルターとしては、70近い者が活躍できるが疑問だ、という話題が不快だったのかもしれない。
エイクもエーミールの能力に不安があるという考えには賛同できなかった。エーミールの威厳ある姿を見たばかりだったからだ。
だが、直ぐに考えを改めた。その時エーミールに対して『老けた』という印象を持ったのも事実だったからである。多くの民も同じように思っていることだろう。
それに、エーミールのカリスマ性は健在のように見えたが、それは戦場での切れが健在である事を保証するものではない。
今後の戦場での活躍を不安視する者がいてもおかしくはないと思える。
アルターもロアンの意見を無下に退けず、それを踏まえて自身の見解を述べた。
「とは言っても、そのように思う者が増えるというのは事実でしょうな。そして、そのような“民の声”が無視できないというのも、その通りと思います」
実際、アストゥーリア王国においては、一般民衆の声というものは政に対してある程度の影響力を持っている。貴族の権力を強く抑制しているからだ。
そもそも、アースマニス大陸西方では、民の声を政に反映させるという考えは、それほど特殊なものではない。
かつて大陸西方から中央部に大版図を築き、滅びた後も西方諸国に大きな影響を残しているレムレア帝国が、元々は民会によって運営される一都市国家だったという歴史があるからだ。
現在においても、北方都市連合を構成する都市国家の一部には、そのような“共和制”を採っている国もある。
そして、アストゥーリア王国ではオフィーリア女王以来貴族の権力を抑制していた為、政治・軍事の分野での平民の躍進が著しい。大きな功績を挙げた平民が政府の要職に就くことも頻繁なのである。
アストゥーリア王国では、そのような平民が要職に就く際には、新たに爵位を与えるようにしている。エイクの父ガイゼイクが男爵位を得ていたのもそのような例である。
このため、表面上は政府の高位高官は、皆爵位持ちの貴族のように見える。だが、その内実は平民である事も多い。
実際、現在の政府の中核を占める、軍務、財務、外務、内務、の4大臣のうち、財務大臣ハルテア伯爵は親の代で世襲貴族の地位を与えられ、更に自身も功績を重ねて伯爵位すら賜った元平民の貴族。
内務大臣キルケイト子爵にいたっては己一代で平民から子爵にまで成り上がった人物だった。
当然、それ以下の役職に就き王国政府の実務を担う平民は数多い。
そのような情勢では王家も政府も、民の声を無視は出来ないのである。
といっても、民の声を直接的に政に反映させる制度があるわけではない。だから、必ず反映されるとはいえない。
セレナがその事を指摘した。
「でも、民がどれほど望んだところで、ルファス公爵が健在な限り、アルストール公子が軍を指揮する事も、王位の後継者になる事もありえないでしょう?」
アルターがその考えに賛意を示す。
「それもまた、その通りです。民の声を無視も出来ませんが、それだけで政府の情勢が覆されるとも思えません。
ルファス大臣への王の信頼は揺ぎ無いですし、宰相閣下も強固なルファス公爵派ですからな。
ルファス公爵ある限り、例え大きな武功を上げ名声が高まっても、アルストール公子が軍を指揮することも王位を継ぐことはありえません。
それに、アルストール公子の名声が高まるのは、魔族の指揮官クラスを討った場合だけでしょう。
確かに、闇の担い手や上級の妖魔は、下級の妖魔をいくらでも使い潰せる消耗品と見なしています。ですので、下級妖魔を意図的に討たせてアルストール公子の勝利を演出することはあり得るといえます。
ですが、下級妖魔は消耗品に過ぎないという事は、光の担い手達にも広く認識されている事です。ですから、下級妖魔を討つだけではさほどの功績とはいえません。
指揮官クラスを討たねば敵主力を討ち漏らしたと見なされて、むしろ失態として公子の権威に傷が付きます。
そして、指揮官クラスの上級妖魔や闇の担い手ともなれば、魔族にとっても重要な戦力。それを使い潰しの消耗品にするとは思えない。
その事を考えれば、やはり公子や公子を奉じる反ルファス派が魔族と結託しているということは考え難いと思えますな」
「といっても、魔族の侵攻が成功すれば、ルファス公爵の権威にも傷が付くのだから、ルファス公爵派と通じていたとも考え難い」
セレナがそう確認し、アルターが答える。
「その通りです。ですので、預言者の行いの意味がよりいっそう分からない。というわけです。
あえて言うならば、反ルファス派は今まで預言者と結託していたが、何らかの情勢が変わった結果、関係を切ることにした。という可能性はありえるかも知れません。
そう解釈すれば、アルストール公子が魔族を討つのもあり得ます。
ただそのような可能性を考えるならば、今までは預言者とルファス公爵派が結託していたが、預言者がルファス公爵派との関係を切る事にして、今回の侵攻を行った。という事も考えられます。ですので、やはりどちらとも断言は出来ません。
いずれにしても、預言者の行動の意味やその目的を考える為には、今はまだ情報が足りません。今はこれ以上の考察をしても徒労というものでしょう」
アルターはそうまとめた。
エイクは、今の話を聞いて思うところがあった。だが、その事について語る機を逸した。
セレナが速やかに次の話題に移ったからだ。
「それなら、次は私から“虎使い”に関する報告させてもらってよいかしら。相当重要と思える情報が得られているの」
その声音は今までよりも低くなっており、これから語る事が、本当に重要なものである事が察せられる。
エイクは、その話を聞くことを優先した。
「ああ、頼む」
エイクは気を引き締めてそう答える。
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確かに、この報告もエイクにとって非常に重要なものになりそうだ。
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