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第5章
31.異国の復讐者
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そこまでアルターの話を黙って聞いたエイクは、僅かに顔をしかめて口を開いた。
「ひょっとしてフオーレル侯爵の孫たちもそこに居たのか?」
「はい。孫達も皆、殿に残ったのだそうです」
(孫娘も従軍していたんだったな)
エイクはそう考え、そして思わず呟いた。
「オークの群れに襲われたのか……」
女がオークの群れに襲われればどうなるか、誰にでも想像がつく。
自分が多くの女性に対して酷い行いをしている事を自覚しているエイクですら、その最期を思えば陰鬱な気持ちになるのを押さえる事はできなかった。
そんなエイクの気持ちを察したのか、アルターがそのフオーレル侯爵の孫娘に関する事を告げた。
「ちなみに、先ほど一族全員討ち死にしたと申し上げましたが、より正確に言えば、その中の孫娘は討ち死にではなく自害だったそうです。
オークに捕らえられるよりはましな最期だったかも知れませんな」
(確かにそうだろうな)
エイクはそう思いつつも疑問を口にした。
「そんな事まで分かっているのか?」
「はい、生き残った者が、オークに捕らえられる前に自らの首に短剣をつき立てる孫娘の姿を見たそうです。
それから、後にレシア王国の探索部隊がその遺体を発見しています。これも、その娘が捕らえられる前に死んでいた証拠といえるでしょう」
オークは他種族の女を使って繁殖する性質を持つ。特に人間やエルフなど光の担い手の女が好みらしい。その性欲は異常なほど強く、時には繁殖の為という目的すら忘れて死ぬまで犯し続ける事すらあるといわれている。
だが、どちらにしても人間の女を生きたまま捕らえたならば、その場で直ぐに殺してしまうはずがない。塒に連れ帰って楽しむはずだ。
つまり、その場で死体が発見されたということは、生きて虜囚とはならなかった事を強く示唆している。
アルターは話しを続けた。
「ただ、その遺体は酷く損壊されていたそうです。オークは人を食う習性もありますからな。その惨状はある程度想像ができます。
そして、聞くところによると、その遺体を発見したのが、実の弟であるシモン・フオーレルだったとのこと。
彼は、無理に頼み込んで探索隊に参加して、姉など一族の多くの骸を自ら発見したそうなのです。相当の衝撃を受けた事は間違いありますまい。
そのような経験をすれば、元凶といえるルファス大臣を仇と狙うようになるのも当然といえるでしょう。
当時我が国は、国威を発揚する目的でルファス大臣の知略を大いに喧伝し、フオーレル侯爵を貶めていましたから尚更というものです」
「……」
それは、自らも仇討ちを追い求めるエイクにとって他人事とは言えない話だった。
「いずれにしても、ヨセフス・フオーレル侯爵は、総司令官としての責任を放棄して逃亡し軍に甚大な被害を与えた罪に問われ、当人は処刑、家も廃絶という裁きが下されたのです。
そのような事情を含めても、家ごと廃絶は重すぎる罰のようにも思えますが、或いは何らかの政治的な思惑が働いたのかも知れませんな。
フオーレル家廃絶後、残されたシモンは母親と共にその実家に引き取られたのですが、夫と2人の子を失った衝撃に耐えられなかったのか、母親も倒れ1年後に死亡。
シモンが行方をくらましたのはその後です」
「そして、ルファス大臣を仇と狙って襲撃したということか?」
「はい、そう推測できます。
ルファス大臣の襲撃には、フオーレル家縁の者が何人も参加していたことは確認されています。
そして、その場から逃れた者の中に、確証は得られなかったものの、シモンと思われる者が目撃されていました。
諸々の状況を考えれば、それが実際にシモン・フオーレル当人であった可能性はかなり高いでしょう」
「そうか。そういう事情があるなら、シモンという男は、生きている限りルファス大臣を殺そうとするだろうな……」
エイクは我が身を省みてそう口にした。
「……恐らくそうでしょうな。
ですが、生き残った襲撃者は、その後姿をくらましています。相当厳しい捜索が行われたにも関わらず、何の痕跡も見つかっていないのです」
「だから、何者かに匿われている可能性がかなり高い。と、そういうことだったな」
「左様です」
「ありがとう。参考になった」
「身に余るお言葉です。
それでは、改めまして明日以降の準備をさせていただきます」
「ああ、頼む」
エイクの言葉を受けると、アルターは一礼してからその場を辞した。
エイクは改めて考えをまとめた。
(要するに、何としてでもルファス大臣を殺したいと思っている者達が、今も存在しているのは、まず間違いないということだ。そしてそれを匿っている者も。
匿っている者として一番怪しいのは反ルファス派の者達だろう。だが、そんな事は誰でも思いつく。ルファス大臣の指揮下にある炎獅子隊や闇梟隊がその者達を調べないはずがない。
それでも何の痕跡もないということは、よほど巧妙な工作をしているか、それとも反ルファス派以外の者が匿っているという事なのだろう。
やはり、セレナにしっかりと探ってもらう必要があるな)
エイクはそのような判断を下していた。
「ひょっとしてフオーレル侯爵の孫たちもそこに居たのか?」
「はい。孫達も皆、殿に残ったのだそうです」
(孫娘も従軍していたんだったな)
エイクはそう考え、そして思わず呟いた。
「オークの群れに襲われたのか……」
女がオークの群れに襲われればどうなるか、誰にでも想像がつく。
自分が多くの女性に対して酷い行いをしている事を自覚しているエイクですら、その最期を思えば陰鬱な気持ちになるのを押さえる事はできなかった。
そんなエイクの気持ちを察したのか、アルターがそのフオーレル侯爵の孫娘に関する事を告げた。
「ちなみに、先ほど一族全員討ち死にしたと申し上げましたが、より正確に言えば、その中の孫娘は討ち死にではなく自害だったそうです。
オークに捕らえられるよりはましな最期だったかも知れませんな」
(確かにそうだろうな)
エイクはそう思いつつも疑問を口にした。
「そんな事まで分かっているのか?」
「はい、生き残った者が、オークに捕らえられる前に自らの首に短剣をつき立てる孫娘の姿を見たそうです。
それから、後にレシア王国の探索部隊がその遺体を発見しています。これも、その娘が捕らえられる前に死んでいた証拠といえるでしょう」
オークは他種族の女を使って繁殖する性質を持つ。特に人間やエルフなど光の担い手の女が好みらしい。その性欲は異常なほど強く、時には繁殖の為という目的すら忘れて死ぬまで犯し続ける事すらあるといわれている。
だが、どちらにしても人間の女を生きたまま捕らえたならば、その場で直ぐに殺してしまうはずがない。塒に連れ帰って楽しむはずだ。
つまり、その場で死体が発見されたということは、生きて虜囚とはならなかった事を強く示唆している。
アルターは話しを続けた。
「ただ、その遺体は酷く損壊されていたそうです。オークは人を食う習性もありますからな。その惨状はある程度想像ができます。
そして、聞くところによると、その遺体を発見したのが、実の弟であるシモン・フオーレルだったとのこと。
彼は、無理に頼み込んで探索隊に参加して、姉など一族の多くの骸を自ら発見したそうなのです。相当の衝撃を受けた事は間違いありますまい。
そのような経験をすれば、元凶といえるルファス大臣を仇と狙うようになるのも当然といえるでしょう。
当時我が国は、国威を発揚する目的でルファス大臣の知略を大いに喧伝し、フオーレル侯爵を貶めていましたから尚更というものです」
「……」
それは、自らも仇討ちを追い求めるエイクにとって他人事とは言えない話だった。
「いずれにしても、ヨセフス・フオーレル侯爵は、総司令官としての責任を放棄して逃亡し軍に甚大な被害を与えた罪に問われ、当人は処刑、家も廃絶という裁きが下されたのです。
そのような事情を含めても、家ごと廃絶は重すぎる罰のようにも思えますが、或いは何らかの政治的な思惑が働いたのかも知れませんな。
フオーレル家廃絶後、残されたシモンは母親と共にその実家に引き取られたのですが、夫と2人の子を失った衝撃に耐えられなかったのか、母親も倒れ1年後に死亡。
シモンが行方をくらましたのはその後です」
「そして、ルファス大臣を仇と狙って襲撃したということか?」
「はい、そう推測できます。
ルファス大臣の襲撃には、フオーレル家縁の者が何人も参加していたことは確認されています。
そして、その場から逃れた者の中に、確証は得られなかったものの、シモンと思われる者が目撃されていました。
諸々の状況を考えれば、それが実際にシモン・フオーレル当人であった可能性はかなり高いでしょう」
「そうか。そういう事情があるなら、シモンという男は、生きている限りルファス大臣を殺そうとするだろうな……」
エイクは我が身を省みてそう口にした。
「……恐らくそうでしょうな。
ですが、生き残った襲撃者は、その後姿をくらましています。相当厳しい捜索が行われたにも関わらず、何の痕跡も見つかっていないのです」
「だから、何者かに匿われている可能性がかなり高い。と、そういうことだったな」
「左様です」
「ありがとう。参考になった」
「身に余るお言葉です。
それでは、改めまして明日以降の準備をさせていただきます」
「ああ、頼む」
エイクの言葉を受けると、アルターは一礼してからその場を辞した。
エイクは改めて考えをまとめた。
(要するに、何としてでもルファス大臣を殺したいと思っている者達が、今も存在しているのは、まず間違いないということだ。そしてそれを匿っている者も。
匿っている者として一番怪しいのは反ルファス派の者達だろう。だが、そんな事は誰でも思いつく。ルファス大臣の指揮下にある炎獅子隊や闇梟隊がその者達を調べないはずがない。
それでも何の痕跡もないということは、よほど巧妙な工作をしているか、それとも反ルファス派以外の者が匿っているという事なのだろう。
やはり、セレナにしっかりと探ってもらう必要があるな)
エイクはそのような判断を下していた。
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