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第5章
64.ワレイザ砦解放②
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その場に捕らえられていた女たちは6人いて、一人残らず悲惨な状態だったが、命に別条がある者はいなかった。いずれも回復薬を使えば治りそうだ。
倒された22人の傭兵達の内5人は、意識はないもののまだ生きている。尋問して情報を聞き出すためにあえて殺さなかったからだ。
一応、偉そうに見えたり、強そうに見えたりする者を選んでいる。
砦内には、他に人間らしきオドは存在していない。馬と思われるオドが目立つくらいである。現時点で確認できている脅威は排除できたと言ってよいはずだ。
エイクは生きている傭兵たちを縛り上げてから、女たちに状況を説明した。
自分はベアトリクスに雇われた冒険者で、謀反人を討つためにやってきた事。そして、副隊長のアメリア・ヨーセインが生き残っている事などを。
女たちの反応は様々だった。
茫然自失で真面に動けない者もいれば、泣き声を押さえられない者も、比較的平静でエイクから詳しい話を聞きたがる者もいた。
だが、時間をかけたくなかったエイクは、とりあえず副隊長を連れてくるからこの場で待っているように告げて3階に戻った。
エイクが3階に戻って来た時、アメリアは2階からの階段の直ぐ近くに座っていた。階下の様子を少しでも探ろうとしていたからだ。
屋上にいた女も連れて来ている。
アメリア自身は既にあり合わせの服を身に着けていたが、屋上にいた女は大きな布で体を覆われただけだ。そして、大粒の涙を流し嗚咽を漏らしている。ようやく感情を取り戻したらしい。アメリアは、その女を抱きしめてていた。
アメリアは魔法のランタンも一つ持ち出してきており、目立たないように布をかぶせて光を絞りつつも階段に注目していた。その為、エイクが戻って来た事に直ぐに気付き声をあげた。
「もう、終わったのだろうか?」
「ええ、とりあえず、だいたいの敵は倒したと思います」
アメリアはその報告を素直に信じた。
階下から戦闘の喧騒が聞こえて来て、そして直ぐに途切れた事に気付いていたからである。
つまり、戦いはあっけなく終わったという事だ。そして、平然と帰ってきたこの男が勝者であるのは間違いない。
「そうか。感謝する」
そう言って、アメリアは頭を下げた。
(この男は、本物の強者だ)
そして、心中ではそう思っていた。
長く軍務に就き、数多くの戦場に出た経験をもつアメリアは、自分などとは格が違う強者について見聞きしたことが何度もあった。たった一人で並みの兵士なら何十人でも倒してしまうような者達である。
今しがた目にしたエイクの強さは、そんな者達に劣らない。と、そう確信していた。
エイクは報告を続ける。
「捕らえられていた方たちも6人いました。一応、皆さん命に別状はありません」
「そうか。心より感謝する」
アメリアは、感謝の言葉を述べながら、改めて深々と頭を下げた。
「ただ、まだどこかに敵が隠れているかも知れません。とりあえず、一か所に固まった方が良いと思います。下に降りましょう」
「……分かった。そのとおりにしよう」
そう言うとアメリアは保護した女性を立たせ、ともに歩き出そうとした。
そのアメリアにエイクが問いかける。
「ところで、この砦の下の迷宮についてですが、入ってすぐの場所に小さな部屋がいくつも並んでいるというのは事実でしょうか?」
それは、ベアトリクスから教えられた情報の一つだった。
アメリアが答えた。
「その通りだ。確かに迷宮に降りて直ぐの通路には左右両側に五つずつ合計10の小さな部屋が作られている。
本来はどのような意図で作られたのかは不明だが、迷宮が枯れた後、私たちは外から鍵を取り付けて、その部屋を牢獄として使っていた」
(それは、猶更好都合だな)
エイクは、生かしておいた傭兵たちを尋問するにあたって、1人ずつ別の小部屋に入れて別々に尋問した方が良いと思っていた。なので、迷宮内にあるという小部屋が使えるのではないかと考えたのである。
その小部屋が牢屋に使われていて外から鍵をかけられるなら、監禁して尋問するのにうってつけの場所だ。
そう考えたエイクはさらに質問を続ける。
「その部屋は、今は空いていますか?」
「ああ、現在囚人はいなかった」
「では、その部屋を傭兵たちを尋問するのに使いたいと思います。後で鍵などを貸してください」
「分かった」
アメリアはこのことも了承した。
そうしてエイクは、未だ気を失ったままだったバルオンを引きずって、アメリア達と共に1階まで降りた。言葉通り、迷宮内の一室を使って尋問をするつもりだった。
エイクは、捕らわれていた女たちの世話はアメリアに任せ、早速バルオンを引きづって迷宮の入り口がある部屋に向かった。
迷宮の入り口は、特に飾り気もない下へと降りる階段だった。5人ほどが並んで歩けるほどの幅がある。
枯れている為迷宮内に灯りはない。暗視能力を持つエイクに光源は不要だが、暗視能力も隠そうと思っているので、偽装として鍵と共にランタンを借りて灯りを灯していた。
階段から下を見ると、降りて直ぐのところに多くの死体が転がっているのが見えた。服装を見る限り辺境伯家に属する兵士たちのようである。
(迷宮に立て籠もって戦った兵士達がいたということか)
エイクはそう考えた。
迷宮に降りても退路はないのだから追いつめられただけだ。
しかし、例えば階段を降りて直ぐのところに陣取れば、降りてくる者達は足場の悪い階段で戦わなければならないし、数の利も生かせない。その点だけ見れば、少数の側が立て籠もって時間を稼ぐのに適していると言えなくはない。
と言っても、結局は多勢に無勢、長く持ちこたえることは出来なかったのだろう。
実際、迷宮内にオドを感知することは出来なかった。
この迷宮はそれほど広大ではなく、エイクのオド感知の範囲に収まるはずなので、迷宮内に逃げ込んだ者も根こそぎ殺されてしまっているのだと思われる。
ちなみにこの時エイクは、迷宮内に人工生物のオドを感知できないことも確認していた。
このワレイザの迷宮は、迷宮核が見つかる前に枯れてしまっている。迷宮核は迷宮内のどこかにあるものだから、ワレイザの迷宮には確実に未知の隠し部屋が存在しているはずだ。
もしも、未知の隠し部屋に人工生物が配置されていれば、そのオドを感知する事で隠し部屋の位置を推測する事が出来ると思っていたが、そう都合よくはいかなかった。
(まあ、どちらにしろ迷宮探索などしている暇はない。今するべき事を確実にしよう)
エイクはそう思い直すと、兵士たちの死体をとりあえず邪魔にならないように脇にどけて、まずは未だに意識を取り戻してはいないバルオンを奥の小部屋に入れて鍵をかけた
小部屋はかなり気密性が高く、声も簡単に外に漏れる事はなさそうだった。尋問をするのに適している。
その事を確認した後、エイクは捕虜にした傭兵たちを次々に引きずって来て1人1人小部屋に入れて鍵をかけた。
(とりあえず、このくらいにしてベアトリクスを連れてこよう)
生き残っている傭兵たち全員を小部屋に入れたエイクはそう考えた。
砦の隅々まで確認したわけではないので、確実に安全を確保したとはまだ言えない。しかし、屋外に一人で置いておく方がよほど危険だろう。そう判断したのである。
エイクはアメリアに状況を説明すると、砦の城門を開けてベアトリクスの下へと向かった。
ベアトリクスのオドも、その近くに配置した小型スライムのオドも、問題なく感知されていた。特に異常は生じていないはずだ。
倒された22人の傭兵達の内5人は、意識はないもののまだ生きている。尋問して情報を聞き出すためにあえて殺さなかったからだ。
一応、偉そうに見えたり、強そうに見えたりする者を選んでいる。
砦内には、他に人間らしきオドは存在していない。馬と思われるオドが目立つくらいである。現時点で確認できている脅威は排除できたと言ってよいはずだ。
エイクは生きている傭兵たちを縛り上げてから、女たちに状況を説明した。
自分はベアトリクスに雇われた冒険者で、謀反人を討つためにやってきた事。そして、副隊長のアメリア・ヨーセインが生き残っている事などを。
女たちの反応は様々だった。
茫然自失で真面に動けない者もいれば、泣き声を押さえられない者も、比較的平静でエイクから詳しい話を聞きたがる者もいた。
だが、時間をかけたくなかったエイクは、とりあえず副隊長を連れてくるからこの場で待っているように告げて3階に戻った。
エイクが3階に戻って来た時、アメリアは2階からの階段の直ぐ近くに座っていた。階下の様子を少しでも探ろうとしていたからだ。
屋上にいた女も連れて来ている。
アメリア自身は既にあり合わせの服を身に着けていたが、屋上にいた女は大きな布で体を覆われただけだ。そして、大粒の涙を流し嗚咽を漏らしている。ようやく感情を取り戻したらしい。アメリアは、その女を抱きしめてていた。
アメリアは魔法のランタンも一つ持ち出してきており、目立たないように布をかぶせて光を絞りつつも階段に注目していた。その為、エイクが戻って来た事に直ぐに気付き声をあげた。
「もう、終わったのだろうか?」
「ええ、とりあえず、だいたいの敵は倒したと思います」
アメリアはその報告を素直に信じた。
階下から戦闘の喧騒が聞こえて来て、そして直ぐに途切れた事に気付いていたからである。
つまり、戦いはあっけなく終わったという事だ。そして、平然と帰ってきたこの男が勝者であるのは間違いない。
「そうか。感謝する」
そう言って、アメリアは頭を下げた。
(この男は、本物の強者だ)
そして、心中ではそう思っていた。
長く軍務に就き、数多くの戦場に出た経験をもつアメリアは、自分などとは格が違う強者について見聞きしたことが何度もあった。たった一人で並みの兵士なら何十人でも倒してしまうような者達である。
今しがた目にしたエイクの強さは、そんな者達に劣らない。と、そう確信していた。
エイクは報告を続ける。
「捕らえられていた方たちも6人いました。一応、皆さん命に別状はありません」
「そうか。心より感謝する」
アメリアは、感謝の言葉を述べながら、改めて深々と頭を下げた。
「ただ、まだどこかに敵が隠れているかも知れません。とりあえず、一か所に固まった方が良いと思います。下に降りましょう」
「……分かった。そのとおりにしよう」
そう言うとアメリアは保護した女性を立たせ、ともに歩き出そうとした。
そのアメリアにエイクが問いかける。
「ところで、この砦の下の迷宮についてですが、入ってすぐの場所に小さな部屋がいくつも並んでいるというのは事実でしょうか?」
それは、ベアトリクスから教えられた情報の一つだった。
アメリアが答えた。
「その通りだ。確かに迷宮に降りて直ぐの通路には左右両側に五つずつ合計10の小さな部屋が作られている。
本来はどのような意図で作られたのかは不明だが、迷宮が枯れた後、私たちは外から鍵を取り付けて、その部屋を牢獄として使っていた」
(それは、猶更好都合だな)
エイクは、生かしておいた傭兵たちを尋問するにあたって、1人ずつ別の小部屋に入れて別々に尋問した方が良いと思っていた。なので、迷宮内にあるという小部屋が使えるのではないかと考えたのである。
その小部屋が牢屋に使われていて外から鍵をかけられるなら、監禁して尋問するのにうってつけの場所だ。
そう考えたエイクはさらに質問を続ける。
「その部屋は、今は空いていますか?」
「ああ、現在囚人はいなかった」
「では、その部屋を傭兵たちを尋問するのに使いたいと思います。後で鍵などを貸してください」
「分かった」
アメリアはこのことも了承した。
そうしてエイクは、未だ気を失ったままだったバルオンを引きずって、アメリア達と共に1階まで降りた。言葉通り、迷宮内の一室を使って尋問をするつもりだった。
エイクは、捕らわれていた女たちの世話はアメリアに任せ、早速バルオンを引きづって迷宮の入り口がある部屋に向かった。
迷宮の入り口は、特に飾り気もない下へと降りる階段だった。5人ほどが並んで歩けるほどの幅がある。
枯れている為迷宮内に灯りはない。暗視能力を持つエイクに光源は不要だが、暗視能力も隠そうと思っているので、偽装として鍵と共にランタンを借りて灯りを灯していた。
階段から下を見ると、降りて直ぐのところに多くの死体が転がっているのが見えた。服装を見る限り辺境伯家に属する兵士たちのようである。
(迷宮に立て籠もって戦った兵士達がいたということか)
エイクはそう考えた。
迷宮に降りても退路はないのだから追いつめられただけだ。
しかし、例えば階段を降りて直ぐのところに陣取れば、降りてくる者達は足場の悪い階段で戦わなければならないし、数の利も生かせない。その点だけ見れば、少数の側が立て籠もって時間を稼ぐのに適していると言えなくはない。
と言っても、結局は多勢に無勢、長く持ちこたえることは出来なかったのだろう。
実際、迷宮内にオドを感知することは出来なかった。
この迷宮はそれほど広大ではなく、エイクのオド感知の範囲に収まるはずなので、迷宮内に逃げ込んだ者も根こそぎ殺されてしまっているのだと思われる。
ちなみにこの時エイクは、迷宮内に人工生物のオドを感知できないことも確認していた。
このワレイザの迷宮は、迷宮核が見つかる前に枯れてしまっている。迷宮核は迷宮内のどこかにあるものだから、ワレイザの迷宮には確実に未知の隠し部屋が存在しているはずだ。
もしも、未知の隠し部屋に人工生物が配置されていれば、そのオドを感知する事で隠し部屋の位置を推測する事が出来ると思っていたが、そう都合よくはいかなかった。
(まあ、どちらにしろ迷宮探索などしている暇はない。今するべき事を確実にしよう)
エイクはそう思い直すと、兵士たちの死体をとりあえず邪魔にならないように脇にどけて、まずは未だに意識を取り戻してはいないバルオンを奥の小部屋に入れて鍵をかけた
小部屋はかなり気密性が高く、声も簡単に外に漏れる事はなさそうだった。尋問をするのに適している。
その事を確認した後、エイクは捕虜にした傭兵たちを次々に引きずって来て1人1人小部屋に入れて鍵をかけた。
(とりあえず、このくらいにしてベアトリクスを連れてこよう)
生き残っている傭兵たち全員を小部屋に入れたエイクはそう考えた。
砦の隅々まで確認したわけではないので、確実に安全を確保したとはまだ言えない。しかし、屋外に一人で置いておく方がよほど危険だろう。そう判断したのである。
エイクはアメリアに状況を説明すると、砦の城門を開けてベアトリクスの下へと向かった。
ベアトリクスのオドも、その近くに配置した小型スライムのオドも、問題なく感知されていた。特に異常は生じていないはずだ。
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