剣魔神の記

ギルマン

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第5章

86.傭兵団の全滅

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 その日の夜になって、エイクがリーンツの街に帰還した。
 そして、街を守っていた騎士団の者に告げる。

「索敵に出ていた者達は、出来る限り討ち取りました。ですが、流石に全員は討てていません。その者達が何かするかもしれませんから、警戒はしておいてください」
 この言葉は嘘だった。

 エイクは、オドの感知能力を最大限に使って、確実に敵を捕捉し、索敵の為に街の外に出ていた反乱軍の者達を全て殺していた。
 だが、オドの感知能力がなければそんなことは不可能なので、不自然に思われないように、全員は殺していないと告げたのだ。
 相手はエイクの言葉を信じたようだった。

 エイクは、敵を全て殺したことにとても満足していた。これで、ほぼ確実に“雷獣の牙”の傭兵達を皆殺しにすることに成功したからだ。

(領都で捕虜にした傭兵共も、まず間違いなく処刑される。これで、傭兵共は皆殺しだ。父さんが望んでいた通りになった)
 と、そう思っていたのである。
 
 かつて、生前の父ガイゼイクは、“雷獣の牙”の非道な行いを知って憤り、次に相まみえた時には皆殺しにしてやると語った事があった。
 それは、その場の勢いでの言葉であり、固く誓ったというほどの強い意思まではなかったのだが、その言葉を覚えていたエイクは、仮にでも父が望んでいた事を自分が実現できた事を嬉しく思った。

 また、エイクが外に出ている内に、領都からの使者がやってきていた。エイクはその使者達から、ベアトリクスが既に領都に帰還し、事態の鎮静化を図っているという事を教えられた。

 使者の中には、ワレイザ砦でエイクに助けられた、メイナという名の女兵士が加わっていた。
 見知った者がいた方がエイクも連絡を信じやすいだろうと、ベアトリクスとヒエロニムが配慮したからだ。
 そのメイナが、使者達を代表して領都の状況をエイクに告げたのである。
 そして、改めて感謝の言葉を口にした。

「その、ルキセイク様のお陰で、事態は収まりつつあります。あ、ありがとうございます。砦で救っていただいた皆に代わって、改めて感謝いたします」
 メイナは酷く緊張した面持ちでそう言うと、深々と頭を下げた。
 続いて、荷物入れから書状を出してエイクに差し出す。

「ベアトリクス様から預かった書状になります。ご確認ください」
 そして、そう告げた。

 その態度は、かなり気を張っているように見える。まだまだ、精神的に落ち着いているとはとても言えない状態のようだ。
 だが、複数の傭兵に犯されて、ほとんど正気を失っていたのがつい昨日である事を思えば、よくぞわずかな時間でここまで回復したというべきだろう。

 エイクは、感心しながらベアトリクスの書状を受け取り、封を解いてその内容を確認した。
 そこには、領都の現況が簡潔に書かれている。内容は今聞いてことをほぼ同じで、その筆跡は確かにベアトリクスのもののようだ。

(どうやら、領都が落ち着きつつあるというのは事実のようだな。それなら、今日は休ませてもらおう)
 エイクはそう判断をくだした。

 昨日からずっと戦闘と移動を繰り返していた為、流石に疲労がたまっていた。まだ戦える自信はあるが、流石にいつもと同じとは言えない。無理はせずにそろそろ身体を休めるべきだろう。
 そう考えて、エイクはリーンツの街を代表する者に向かって告げた。

「今すぐに領都に戻る必要はないようなので、今晩はこの街で休ませていただきたいと思います。どこかに適当な部屋を用意してもらえますか?」
「もちろんです。出来る限り良い部屋をご用意いたします。ごゆるりとお休みください」

 その言葉通り、部屋は直ぐに用意され、エイクは、簡単に身繕いをしてから眠りについた。
 念のために扉や窓に開けば音が鳴るような仕掛けをして、手元にクレイモアを置いていくといった用心もしたが、特に何事も起こらなかった。

 そして翌日、エイクはまた馬を借りて、早朝にリーンツを発ち領都トゥーランへ向かった。
 今はもう急ぐ必要はないはずだが、可能なら早め早めに動こうとするのはエイクの癖だ。



 領都トゥーランに着くと、城門の警備をしていた兵がエイクの下に駆け寄って来た。
 どうやらエイクの風体を聞かされており、見かけたなら直ぐに対応するように命じられていたようだ。

「ルキセイク様でよろしいでしょうか」
「ええ」
 エイクは、警備兵の問いかけに短く答えてから、馬を降りようとした。
 そのエイクの動きを警備兵が押しとどめる。

「どうぞ、そのままに。
 直ぐに辺境伯様の屋敷にご案内するように申し使っています。どうぞこちらへ」
 そして、そう告げるとエイクが乗る馬の手綱をとって屋敷に向かう。

 その途中に広場になっている場所があり、そこにはいくつもの死体が吊るされていた。
 ラモーシャズ家の者達など、謀反の首謀者の死体だった。
 ベアトリクスは、昨日の内にその広場で、多くの民の面前で首謀者達への鞭打ち刑を執行し、そして死体をそのまま晒したのだ。

 ちなみに、その処刑の際、特に体を鍛えてもいなかったマグネイアと娘のローレイアは100と打擲されないうちに死んでしまった。
 しかし、鍛えられた戦士でもあったオスグリアの処刑にはかなりの時間を要した。
 その間オスグリアは泣き叫んで助けを求め、無様を晒した後に結局息絶え、今は姉や姪と共に吊るされている。

 他にも、家令のゴイセン・スフロスと、騎士団元幹部のランクハルト・デニッツも同様に吊るされていた。
 そして、その近くには、捕虜にした傭兵や裏切った騎士らの生首も晒されている。
 ベアトリクスの強い怒りと憎しみは、敵の死体を晒すという形で発露されていた。

 エイクは、さほどの感慨もなくその死体を眺めた。謀反の首謀者が殺されて死体が晒されるなど当たり前のことと思っていたからだ。
 あえて言えば、捕虜にした傭兵達の生首もあるのを見て、間違いなく“雷獣の牙”が全滅したことを確認し満足したくらいである。



 辺境伯の館でエイクを出迎えたのは、使用人頭のハインスだった。
 辺境伯の館に捕らえられており、エイクに救出された時に、エイクに声をかけて来た初老の男だ。
 ハインスは、エイクを恭しく遇した上で応接間に案内した。

「ベアトリクス様が直ぐにまいられます。しばらくお待ちください」
 そしてそう告げて、引き下がる。

 言葉の通り、間もなくベアトリクスが応接間へと入って来た。
 簡素なドレスを着て、身支度は既に整えられている。彼女は1人で応接間に入って来た。
 人払いがされており、応接間にいるのはエイクとベアトリクスだけだ。
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