3 / 47
反抗期
しおりを挟む
誠は昼食を済ませ、大学に行くため、黒のシンプルなバッグを背負い、玄関で靴を履いていた。
「それじゃ沙織さん。行ってきます」
「マコちゃん、ほら。いつものように頭を下げて」
「いいよ、もう」
「良いから」
誠は渋々、頭を下げる。
沙織は頭をポンポンと軽く叩くと、優しく髪を撫でた。
「いってらっしゃい」
沙織は満足したかのように、満面な笑みを浮かべる。
「沙織さん、その……」
「なに? 言いたいことがあるなら、言っていいのよ?」
「その頭を撫でられるの嫌じゃないけど、そろそろ恥ずかしい……」
「えぇー……、彼女が出来るまで我慢してくれる?」
「――分かった」
誠は、すんなり返事をすると、玄関を出た。
浮かない顔で、大学に向かって歩いていく。
誠は過去、酷く沙織を傷つけた事があった。
遡ること5年前。
旦那を亡くし、仕事をしながら、子育てをしていた沙織は、酷く疲れ、精神的に病んでいた。
そんな中、誠はまだ反抗期の真っただ中だった。
些細な言い合いで、誠は沙織に『本当の母親でも無いくせに! 死ね!』と、言ってしまったのである。
決して言ってはいけない言葉。
誠はそれを知りつつも、堪えられない怒りに負け、言ってしまったのである。
沙織は本当の息子のように育ててきた誠に、胸を抉られるような言葉を投げつけられ、ショックを受け、その場で泣き崩れた。
そして沙織も拒絶するかのように、言ってしまったのである。
『この家から出て行って』と……。
互いの心が傷つき、すれ違う。
誠は少ないお小遣いを片手に、家を出た。
しばらくして沙織は、冷静になり心配になったのか、不安な顔をして家を出た。
旦那も居ない状況下で、酷く混乱していたのだろう。
沙織は誰に連絡するわけでもなく、キョロキョロ辺りを見渡しながら、ひたすら歩き始めた。
誠は当てもなく彷徨う中、たまたま通りかかった公園に入り、ベンチに座っていた。
浮かない顔で、ただ一点を見据えている。
本当の母親はもう居ない。
そんな寂しさで言ってしまったのかもしれない。
誠は後悔するかのように顔を両手で覆い、目蓋をギュっと抑えた。
辺りはすっかり暗くなり、外灯が公園内を照らす頃、沙織が辿り着き、誠を見つける。
靴下も履かず、履きなれないカカト付きのサンダルで歩き回ったせいか、靴擦れが出来ていた。
苦痛で顔を歪めながらも、懸命に誠に向かって駆けていく。
沙織が息を切らせながら、誠の前で立ち止まる。
「沙織さん……」
誠はチラッと、沙織の顔を見るが、すぐに気まずそうに俯いた。
「良かった……」
沙織は倒れこむかのように誠の隣にドカッと座る。
腕を伸ばし、うつむく誠を引き寄せると、、ギュッと抱きしめた。
「さっきは酷いこと言って、ごめんね。もっとあなたに寄り添って、お母さんになれるように頑張るね」
沙織は必死で誠を探す中、どうしてこうなったのか、自分なりに考えていたようで、怒ることなく、涙を浮かべながらも、優しい表情でそう言った。
誠は沙織の優しい言葉に、言葉を詰まらせていた。
唇をグッと噛みしめ、涙を堪えているようにも見える。
意地っ張りなのか、反抗期特有の素直になれない気持ちが邪魔をしているのか、誠はなかなか口を開こうとしない。
そこへ沙織は、頭をポンポンと軽く叩き、優しく髪を撫で始めた。
ようやく誠は口を開く。
「俺こそ……ごめんなさい。もう二度と言いません」
口に出したことで感情が高ぶったのか、誠はその一言だけ言って、涙をポロポロと零した。
「うん。帰ったら、あなたの大好きなハンバーグを作ってあげるからね。一緒に食べようね」
それから沙織は仕事を辞め、誠と居る時間を増やし、親しみを込めるかのように誠君から、マコちゃんと呼ぶようになった。
頭をポンポンと叩き、髪の毛を撫でるようになったのも、その時からである。
誠はそれを感じ取るかのように、今まで何も言うことなく過ごしてきた。
だが今日、意思表示をしたのは、自分はもう大丈夫だと、アピールしたかったのかもしれない。
「誠くーん」
晴美が元気よく、誠の後ろから駆け寄っていく。
誠は声に気付き、後ろを振り向いた。
晴美は誠に追いつくと、「学校行くの?」
「あぁ、午後から講義だから」
「私も。途中まで一緒に行こ」
晴美は今にも腕を組みそうなテンションで、そう言った。
「あ、あぁ」
誠は晴美から目をそらし、気恥ずかしそうに答える。
二人は腕と腕がぶつかりそうなぐらい狭い歩道を、肩を並べて歩き出した。
二人が出会ったのは、大学1年生の時。
パソコンの講義が始まる前、100人ぐらいは入りそうな大きな講義室で、誠は一人でポツンと座っていた。
そこへ薄手の白いブラウスに、ミニ丈の黒いスカートを履いた晴美が、下の入口から現れ、スカートをヒラヒラさせながら、上へと上がって行き、誠の座っている方へと近づいて行った。
男子生徒は、そんな晴美の姿をみて、クラスのアイドルを見るかのように、釘付けになっていた。
中には、視線が合うのすら恥ずかしいのか、晴美の方をチラチラとみて、反応をして示している者もいた。
晴美はそんな男子生徒の反応に気付いているのか、いないのか、表情一つ変えずに、誠の隣に着くと、黒のハンドバッグを机に置いた。
誠はこの広い講義室で、なぜ自分の隣に来るのか不思議に思ったのか、チラッと晴美の方を見る。
晴美は誠の視線に気付いたのか、髪の毛を耳に掛けると、誠の方を見た。
「あ。この席、駄目だった?」
「いや、大丈夫だよ。いくらでも空いてるし」
誠は本当に女の子に対して興味がないようで、素っ気なく答えて、頬杖をかいた。
「そうだね」
晴美はスカートを抑えながら、長椅子にスッと座った。
しばらくして体を誠の方へと傾ける。
「ねぇ、私は谷口 晴美。あなたは?」
「俺は畑中 誠」
「誠君ね。よろしく」
晴美は親しみを込めるかのように、満面の笑みを見せる。
「あぁ、宜しく」
誠も晴美の笑顔に安心したのか、ようやく笑顔を見せた。
その後、晴美の積極的な性格もあってか、二人はこうして、自習室や食堂、図書館などで出会っては、会話を交わすようになり、連絡を交換するまでの仲になっていった。
「それじゃ沙織さん。行ってきます」
「マコちゃん、ほら。いつものように頭を下げて」
「いいよ、もう」
「良いから」
誠は渋々、頭を下げる。
沙織は頭をポンポンと軽く叩くと、優しく髪を撫でた。
「いってらっしゃい」
沙織は満足したかのように、満面な笑みを浮かべる。
「沙織さん、その……」
「なに? 言いたいことがあるなら、言っていいのよ?」
「その頭を撫でられるの嫌じゃないけど、そろそろ恥ずかしい……」
「えぇー……、彼女が出来るまで我慢してくれる?」
「――分かった」
誠は、すんなり返事をすると、玄関を出た。
浮かない顔で、大学に向かって歩いていく。
誠は過去、酷く沙織を傷つけた事があった。
遡ること5年前。
旦那を亡くし、仕事をしながら、子育てをしていた沙織は、酷く疲れ、精神的に病んでいた。
そんな中、誠はまだ反抗期の真っただ中だった。
些細な言い合いで、誠は沙織に『本当の母親でも無いくせに! 死ね!』と、言ってしまったのである。
決して言ってはいけない言葉。
誠はそれを知りつつも、堪えられない怒りに負け、言ってしまったのである。
沙織は本当の息子のように育ててきた誠に、胸を抉られるような言葉を投げつけられ、ショックを受け、その場で泣き崩れた。
そして沙織も拒絶するかのように、言ってしまったのである。
『この家から出て行って』と……。
互いの心が傷つき、すれ違う。
誠は少ないお小遣いを片手に、家を出た。
しばらくして沙織は、冷静になり心配になったのか、不安な顔をして家を出た。
旦那も居ない状況下で、酷く混乱していたのだろう。
沙織は誰に連絡するわけでもなく、キョロキョロ辺りを見渡しながら、ひたすら歩き始めた。
誠は当てもなく彷徨う中、たまたま通りかかった公園に入り、ベンチに座っていた。
浮かない顔で、ただ一点を見据えている。
本当の母親はもう居ない。
そんな寂しさで言ってしまったのかもしれない。
誠は後悔するかのように顔を両手で覆い、目蓋をギュっと抑えた。
辺りはすっかり暗くなり、外灯が公園内を照らす頃、沙織が辿り着き、誠を見つける。
靴下も履かず、履きなれないカカト付きのサンダルで歩き回ったせいか、靴擦れが出来ていた。
苦痛で顔を歪めながらも、懸命に誠に向かって駆けていく。
沙織が息を切らせながら、誠の前で立ち止まる。
「沙織さん……」
誠はチラッと、沙織の顔を見るが、すぐに気まずそうに俯いた。
「良かった……」
沙織は倒れこむかのように誠の隣にドカッと座る。
腕を伸ばし、うつむく誠を引き寄せると、、ギュッと抱きしめた。
「さっきは酷いこと言って、ごめんね。もっとあなたに寄り添って、お母さんになれるように頑張るね」
沙織は必死で誠を探す中、どうしてこうなったのか、自分なりに考えていたようで、怒ることなく、涙を浮かべながらも、優しい表情でそう言った。
誠は沙織の優しい言葉に、言葉を詰まらせていた。
唇をグッと噛みしめ、涙を堪えているようにも見える。
意地っ張りなのか、反抗期特有の素直になれない気持ちが邪魔をしているのか、誠はなかなか口を開こうとしない。
そこへ沙織は、頭をポンポンと軽く叩き、優しく髪を撫で始めた。
ようやく誠は口を開く。
「俺こそ……ごめんなさい。もう二度と言いません」
口に出したことで感情が高ぶったのか、誠はその一言だけ言って、涙をポロポロと零した。
「うん。帰ったら、あなたの大好きなハンバーグを作ってあげるからね。一緒に食べようね」
それから沙織は仕事を辞め、誠と居る時間を増やし、親しみを込めるかのように誠君から、マコちゃんと呼ぶようになった。
頭をポンポンと叩き、髪の毛を撫でるようになったのも、その時からである。
誠はそれを感じ取るかのように、今まで何も言うことなく過ごしてきた。
だが今日、意思表示をしたのは、自分はもう大丈夫だと、アピールしたかったのかもしれない。
「誠くーん」
晴美が元気よく、誠の後ろから駆け寄っていく。
誠は声に気付き、後ろを振り向いた。
晴美は誠に追いつくと、「学校行くの?」
「あぁ、午後から講義だから」
「私も。途中まで一緒に行こ」
晴美は今にも腕を組みそうなテンションで、そう言った。
「あ、あぁ」
誠は晴美から目をそらし、気恥ずかしそうに答える。
二人は腕と腕がぶつかりそうなぐらい狭い歩道を、肩を並べて歩き出した。
二人が出会ったのは、大学1年生の時。
パソコンの講義が始まる前、100人ぐらいは入りそうな大きな講義室で、誠は一人でポツンと座っていた。
そこへ薄手の白いブラウスに、ミニ丈の黒いスカートを履いた晴美が、下の入口から現れ、スカートをヒラヒラさせながら、上へと上がって行き、誠の座っている方へと近づいて行った。
男子生徒は、そんな晴美の姿をみて、クラスのアイドルを見るかのように、釘付けになっていた。
中には、視線が合うのすら恥ずかしいのか、晴美の方をチラチラとみて、反応をして示している者もいた。
晴美はそんな男子生徒の反応に気付いているのか、いないのか、表情一つ変えずに、誠の隣に着くと、黒のハンドバッグを机に置いた。
誠はこの広い講義室で、なぜ自分の隣に来るのか不思議に思ったのか、チラッと晴美の方を見る。
晴美は誠の視線に気付いたのか、髪の毛を耳に掛けると、誠の方を見た。
「あ。この席、駄目だった?」
「いや、大丈夫だよ。いくらでも空いてるし」
誠は本当に女の子に対して興味がないようで、素っ気なく答えて、頬杖をかいた。
「そうだね」
晴美はスカートを抑えながら、長椅子にスッと座った。
しばらくして体を誠の方へと傾ける。
「ねぇ、私は谷口 晴美。あなたは?」
「俺は畑中 誠」
「誠君ね。よろしく」
晴美は親しみを込めるかのように、満面の笑みを見せる。
「あぁ、宜しく」
誠も晴美の笑顔に安心したのか、ようやく笑顔を見せた。
その後、晴美の積極的な性格もあってか、二人はこうして、自習室や食堂、図書館などで出会っては、会話を交わすようになり、連絡を交換するまでの仲になっていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる