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近づく文化祭
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抜けるような薄青い秋の空に、流れるような雲が浮いている。
絶好の文化祭日和である。
和明の通う高校は都内でも有名な進学校だと侑は武尊から聞いた。
その高校の門にぞろぞろと人が吸い込まれていく。
「高校の文化祭ってすげぇんだな」
侑は独りごちてスマホカメラのシャッターを切った。
「柳楽さんも来れば良かったのにね」
「あの爺の頑固はしゃーない」
やまちは寂しそうに眉を下げ、侑は三階建ての校舎の写真を撮った。
わしはそんなもんには行かん!と言い張る爺に孫の写真をたくさん撮ってやるというのが今日の侑の使命だ。
「和明君はなにするの?」
「メイド喫茶だって」
「和明君がメイドになるの?」
「知らんけどそうなんじゃない?」
スマホをボディバッグにしまった侑は卯花の腕をとった。
その反対側には大和が卯花の腕をとっている。
「卯花よ、俺はあの瓶のジュースがまた飲みたい」
「・・・手配させていただきます」
ニヤリと笑う悪人顔の侑に卯花はたらりと汗を流し、前方を歩く武尊と周平に視線を移した。
いわゆる恋人繋ぎで歩く二人、周りには花が咲きピンクのオーラが見える。
周平の垂れた目は一層だらしなく下がり、武尊は武尊で終始笑みを絶やすことはなかった。
なんかムカつくから俺らもああしようぜ、と侑が言い出し今の状況になった。
なに言ってんの、と顔を赤らめた大和に思い切って腕を差し出した自分を褒めてやりたいと卯花は思う。
そっと掴まれて心に火が灯ったように暖かくなった。
和明のクラスは三年二組で二階に教室があり、そこでメイド喫茶を開店しているという。
松竹梅達はまずはそこを目指し、途中あちこちで侑は写真を撮った。
「いらっしゃいませ!3-2メイド喫茶へようこそ!」
ツインテールにフリルのついたニーハイソックスに同じくフリルエプロンのメイド女子に案内された教室内は、ゴテゴテと飾り付けられ客足は盛況のようだった。
案内女子は卯花に頬を染めていた。
「生徒のお兄様ですかぁ?」
「うん、和明いる?」
「えっ?柳楽君!?」
侑ではなく卯花への問いかけだったが、侑がそうそう、とへらへら笑う。
「侑さん!!」
うん?と振り向くと執事姿の和明が怒りの表情でずんずんと歩いてくる。
「侑さんはいつから僕の兄になったんですか!」
「まあまあ、お兄ちゃんみたいなもんだろう?」
「僕より馬鹿なのに兄なわけないでしょ」
「なんだと、コラ」
あっくんやめて、と大和に窘められ一触即発の事態は免れた。
隣のテーブルに案内された武尊と周平は他人のフリなのか、気づいてないのか運ばれてきたカップケーキを食べている。
「お待たせしましたぁ」
このメイド喫茶、入店すると漏れなくコーヒーとカップケーキが運ばれてくる。
メニューはこれしかない、ちなみに350円。
「美味しくなるおまじないかけますねぇ。美味しくなぁれ、萌え萌えキュン♡♡」
「萌え萌えキュン♡♡」
同じように手でハートを作っておまじないをかける侑は可愛いかった。
うっとたじろいだ和明は、ポケットからスティックシュガーを5本出して、甘い方がいいんだろとテーブルに置いて接客に戻って行く。
ゴシゴシと腕で口元を拭くその顔はほんのりと赤かった。
「さすが俺の舎弟」
「あっくん、弟よりタチ悪いよその言い方」
ねぇ?と話を振られた卯花はあぁとかうぅとか言いながら手の甲で口元を覆った。
極限まで客を入れるつもりか一席一席が狭く、そして椅子なんかは隣席にぴたりとくっついて卯花の左半身は大和にくっついているのだ。
太ももと太ももがひっついて生々しい温かさに心臓がドキドキとうるさい。
この歳になってこんな思春期のような思いをすると思わなかった。
この学校という場所もいけないのかもしれないな、と卯花は目の前のコーヒーを飲んだ。
「やっぱりブラックなんですね。かっこいいなぁ」
気を落ち着かせようと思って飲んだコーヒーは逆効果で、ぶっと吹き出して侑に、汚ねと白い目で見られる羽目になってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ、うん、大丈夫、うん、すまない」
ジャケットの内ポケットから出したハンカチで卯花は口を拭ってテーブルも拭いた。
「あ、それ」
「ん?」
卯花が慌てて取り出したハンカチは黄蝶の刺繍が施されているものだった。
「僕の・・・」
「あ、いや、これはその」
「買ってくださったんですか?言ってくれれば差し上げたのに」
や、うん、その、えっと、ともにょもにょと顔を赤くした卯花と嬉しそうに笑う大和。
勝手にやってろ、と侑は大和の分のカップケーキをもしゃもしゃと食べた。
「あ!あっくん、それ僕の!」
「うるへー」
「松下君、こっち食べていいよ」
「でも、それは卯花さんの」
「いいから、どうぞ」
「じゃあ、半分こしましょう」
にこにこと笑ってカップケーキを割る大和に卯花は机に突っ伏した。
「え?なに、どうしました?」
おろおろと背中を擦る大和と、それにピクピクと反応する卯花を見て侑はゲラゲラと笑った。
腹を抱える侑の頭にゴンと盆が降ってくる。
「っ、痛ってえな!」
「うるさい」
「だからって盆で叩くことないだろ」
「もうすぐ当番終わるから待ってて」
はぁ?と侑は顔を歪めたが、いい!?と強い口調の和明の迫力に押されてコクコクと頷かされた。
絶好の文化祭日和である。
和明の通う高校は都内でも有名な進学校だと侑は武尊から聞いた。
その高校の門にぞろぞろと人が吸い込まれていく。
「高校の文化祭ってすげぇんだな」
侑は独りごちてスマホカメラのシャッターを切った。
「柳楽さんも来れば良かったのにね」
「あの爺の頑固はしゃーない」
やまちは寂しそうに眉を下げ、侑は三階建ての校舎の写真を撮った。
わしはそんなもんには行かん!と言い張る爺に孫の写真をたくさん撮ってやるというのが今日の侑の使命だ。
「和明君はなにするの?」
「メイド喫茶だって」
「和明君がメイドになるの?」
「知らんけどそうなんじゃない?」
スマホをボディバッグにしまった侑は卯花の腕をとった。
その反対側には大和が卯花の腕をとっている。
「卯花よ、俺はあの瓶のジュースがまた飲みたい」
「・・・手配させていただきます」
ニヤリと笑う悪人顔の侑に卯花はたらりと汗を流し、前方を歩く武尊と周平に視線を移した。
いわゆる恋人繋ぎで歩く二人、周りには花が咲きピンクのオーラが見える。
周平の垂れた目は一層だらしなく下がり、武尊は武尊で終始笑みを絶やすことはなかった。
なんかムカつくから俺らもああしようぜ、と侑が言い出し今の状況になった。
なに言ってんの、と顔を赤らめた大和に思い切って腕を差し出した自分を褒めてやりたいと卯花は思う。
そっと掴まれて心に火が灯ったように暖かくなった。
和明のクラスは三年二組で二階に教室があり、そこでメイド喫茶を開店しているという。
松竹梅達はまずはそこを目指し、途中あちこちで侑は写真を撮った。
「いらっしゃいませ!3-2メイド喫茶へようこそ!」
ツインテールにフリルのついたニーハイソックスに同じくフリルエプロンのメイド女子に案内された教室内は、ゴテゴテと飾り付けられ客足は盛況のようだった。
案内女子は卯花に頬を染めていた。
「生徒のお兄様ですかぁ?」
「うん、和明いる?」
「えっ?柳楽君!?」
侑ではなく卯花への問いかけだったが、侑がそうそう、とへらへら笑う。
「侑さん!!」
うん?と振り向くと執事姿の和明が怒りの表情でずんずんと歩いてくる。
「侑さんはいつから僕の兄になったんですか!」
「まあまあ、お兄ちゃんみたいなもんだろう?」
「僕より馬鹿なのに兄なわけないでしょ」
「なんだと、コラ」
あっくんやめて、と大和に窘められ一触即発の事態は免れた。
隣のテーブルに案内された武尊と周平は他人のフリなのか、気づいてないのか運ばれてきたカップケーキを食べている。
「お待たせしましたぁ」
このメイド喫茶、入店すると漏れなくコーヒーとカップケーキが運ばれてくる。
メニューはこれしかない、ちなみに350円。
「美味しくなるおまじないかけますねぇ。美味しくなぁれ、萌え萌えキュン♡♡」
「萌え萌えキュン♡♡」
同じように手でハートを作っておまじないをかける侑は可愛いかった。
うっとたじろいだ和明は、ポケットからスティックシュガーを5本出して、甘い方がいいんだろとテーブルに置いて接客に戻って行く。
ゴシゴシと腕で口元を拭くその顔はほんのりと赤かった。
「さすが俺の舎弟」
「あっくん、弟よりタチ悪いよその言い方」
ねぇ?と話を振られた卯花はあぁとかうぅとか言いながら手の甲で口元を覆った。
極限まで客を入れるつもりか一席一席が狭く、そして椅子なんかは隣席にぴたりとくっついて卯花の左半身は大和にくっついているのだ。
太ももと太ももがひっついて生々しい温かさに心臓がドキドキとうるさい。
この歳になってこんな思春期のような思いをすると思わなかった。
この学校という場所もいけないのかもしれないな、と卯花は目の前のコーヒーを飲んだ。
「やっぱりブラックなんですね。かっこいいなぁ」
気を落ち着かせようと思って飲んだコーヒーは逆効果で、ぶっと吹き出して侑に、汚ねと白い目で見られる羽目になってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ、うん、大丈夫、うん、すまない」
ジャケットの内ポケットから出したハンカチで卯花は口を拭ってテーブルも拭いた。
「あ、それ」
「ん?」
卯花が慌てて取り出したハンカチは黄蝶の刺繍が施されているものだった。
「僕の・・・」
「あ、いや、これはその」
「買ってくださったんですか?言ってくれれば差し上げたのに」
や、うん、その、えっと、ともにょもにょと顔を赤くした卯花と嬉しそうに笑う大和。
勝手にやってろ、と侑は大和の分のカップケーキをもしゃもしゃと食べた。
「あ!あっくん、それ僕の!」
「うるへー」
「松下君、こっち食べていいよ」
「でも、それは卯花さんの」
「いいから、どうぞ」
「じゃあ、半分こしましょう」
にこにこと笑ってカップケーキを割る大和に卯花は机に突っ伏した。
「え?なに、どうしました?」
おろおろと背中を擦る大和と、それにピクピクと反応する卯花を見て侑はゲラゲラと笑った。
腹を抱える侑の頭にゴンと盆が降ってくる。
「っ、痛ってえな!」
「うるさい」
「だからって盆で叩くことないだろ」
「もうすぐ当番終わるから待ってて」
はぁ?と侑は顔を歪めたが、いい!?と強い口調の和明の迫力に押されてコクコクと頷かされた。
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