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卒業式

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卒業式、侑は和明の高校のいつもの正門前でストーカーではなく呼ばれて待っていた。
ずるる、と鼻を啜って耳付きのニット帽をぐいと目深にかぶる。

「卒業式来てくれる?」
「俺が行ってもいいん?」
「中には入れないからいつものとこで待ってて欲しいんだけど」

いいよ、と言うとふはっと和明が笑った気がした。
通話越しに聞く和明の声は直に聞くより大人な声に聞こえる。
あのバレンタインデーの後にも和明は試験があって、それに向けてラストスパートをかけるから会えないと言われてずっと会っていなかった。
試験が終わってもなんだかんだ忙しくすぐに卒業式になってしまった。

「和明」
「ん?」
「楽しみにしてる」

ふはっとまた笑った気がして胸がなんだか熱くなった。


こうやって待つことももう無いのかなぁ、と侑が感慨に耽っているとざわざわがやがやと騒がしくなってきた。

「あっくーん!!」
「さっちゃん、ゆめちゃん、終わったん?」
「終わったー!」
「JKも終わったー!」

あははとあっけらかんと笑う二人に侑も笑う。
とても可愛いくて侑はこの二人が好きだ。

「卒業おめでとう」
「「 ありがとー! 」」
「あっくん、写真撮ろ」

三人で座ったり立ったり何パターンもひたすら写真を撮った。
途中、ムラや他のクラスメイトもやってきて代わる代わる写真を撮った。
あの文化祭とは真逆で、それを思い出すとなんだかおかしくてへらへら笑ってしまう。

「さっちゃんとゆめちゃんも大学行くの?」
「んーん、うちらは美容系の専門だよ」
「あ、あっくんネイルとか興味ある?綺麗にしたげるよ」
「あるかないかで言ったら全くない」
「「 言うと思ったー 」」

ケラケラと女子二人はなにがおかしいのかずっと笑っていた。
ひとしきり笑い終えた後に、あのねあっくんと切り出した。

「あっくんにはみんな感謝してるんだ」
「ん?」
「文化祭ん時さ、写真撮ってくれたじゃん?あれで、柳楽君もうちらと同じなんだなって思ったの」
「ん?同じだろ?同級生だ」
「んー、柳楽君はさアルファだし、なんていうかんだって思ってたの。友達もムラだけだったしさ」
「そうそう、でもさあの日あっくんが柳楽君をなんか子ども扱いしててさー。柳楽君も普段見せない笑顔見せたりしてさ、なんだ一緒じゃんって」
「アルファの柳楽君からクラスメイトの柳楽君に変わったんだよ」

うふふと笑ったゆめちゃんが色んなポーズをとって乱れたマフラーを巻き直してくれた。
そのままさっちゃんとゆめちゃんにぎゅうと両側から抱きつかれて最後の写真を撮った。

「何してんだ」
「おっ、和明・・・どした?なんか窶れてんな?」

声をかけられて目をやると呆れた顔の和明がいた。
学ランの前は全てはだけて、なんならカッターシャツも皺がよっていた。

「じゃーね、あっくん。いつでも連絡してね!」

そう言ってギュッと握手としたその手の中には連絡先の書いたメモがあって、周平と大和以外の友だちがいない侑はついにやけてしまいペチと額を叩かれた。
行くぞ、と手を引かれ歩きだしたその先はいつかの小さな児童公園のベンチだった。

「あ、卒業おめでとう」
「ありがと、はいコレ」
「・・・付けてほしいのか?」
「んなわけないだろ」

和明が侑に渡したのは学ランの第二ボタンだった。
コロンと手のひらに乗っかっているそれ、元は金色だったろうそれは端の金メッキが剥がれ黒ずみ全体的にくすんでいた。

「知らないの?第二ボタンの話」
「知らんけど、なんかあんの?」
「・・・好きな子にあげるんだよ」
「なんでボタン?」
「心臓の側にあるから、心をあげるって意味・・・って何言ってんだ」

はぁと大きく嘆息して和明はがくりと腰を折って顔を覆った。
髪から見え隠れしている耳が赤い、きっと寒さのせいじゃないと侑は思う。

「和明、大事にする」
「うん、して」

あー恥ずかしい、と指の隙間から覗かせた目を合わせるとふはっと和明は笑った。

「他のボタンは?」
「あぁー、なんか囲まれて取られちゃって。第二ボタンだけは死守した。そんなだったから正門行くの遅れた」
「みんながいたから楽しかったよ?」
「んー、それはそれでなんか面白くないな」

がくりと折っていた腰をあげて膝の上に乗る侑の手に和明の手が重なる。
強く握りこまれた手はまだ肌寒いのに汗ばんでいて、そこからドクンドクンとなにかが流れ込んでくるような気がした。

「明日さ、合格発表なんだけど」
「うん」
「合格したらさ」
「うん」
「ご褒美欲しいんだけど」
「うん、約束だもんな」
「それで」

途切れ途切れだった言葉がそこで一旦区切られ、和明はまた腰を折ってしまった。
空いた手で髪をガシガシと掻きむしり、チラと見上げる顔に侑は首を傾げた。

「ラブホ行きたい」

耳を澄ませていなければ聞こえないような小さな声と、赤く染まった頬に侑の血液が一気に駆け巡った。
ボンっと音が出そうなくらい一瞬で侑の顔も朱に染まる。

「・・・行く」

ガバッと起き上がって見開かれた目が、次の瞬間にはへにゃりと崩れた。
顔を合わせているのが恥ずかしくて、見上げた冬空に鳥がピィーと鳴きながら飛んでいく。

「なんて鳥?」
「鷲かな」
「ふうん」

恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ないのに、少しでも離れるのが嫌で侑はもたれ掛かるようにぴたりとくっついた。
立ち上がるタイミングを失った二人はそうやってしばらく空を見上げて、やがてどちらからともなく目を閉じた。



※どちゃくそ遅れてしまって、大変大変大変!申し訳ありません。
お休み中に色々と無駄話を省いていったらあっという間に卒業式になりました。
これで良かったのかわかりませんが、また読んでくださったら嬉しいです。




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