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次男

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トルーマン家はαの父と男Ωの母から産まれた四人の息子がいる。
長男はどす黒い野心を抱え、王都へ旅立ちその野心を叶えた。

「おうち、びんぼうなの」

と、言ったかどうかは定かではないが王太子のポケットマネーから援助をいただいた。
これには父も母もにっこりで、領民に越冬のための資金を分配した。
家族みんながホクホクするなかで浮かない顔をする者がいた。
次男のランジュ、βである。

αの父とΩの母から産まれたにも関わらず、βで生まれた次男。
その確率は天文学的な数字になるほど低い。
それを家族、ひいては領民たちは『奇跡の子』と呼んで慈しみ愛して育てた。
すくすく育ったランジュはβでありながら母似で可愛らしかった。
いっそ、Ωの兄よりΩらしい儚さがそこにはあった。
Ωの兄ファミーユは外見は華奢だが、内面は骨太で野心という名の獰猛な獣を飼っていた。

さて、この次男だが棚ぼた的に跡継ぎに任命されてしまった。
ランジュは混乱した。
なぜなら、ランジュには想い思われる恋人がいたからだ。
村で炭焼きをしている幼なじみのβのカイだ。
次男だし、βだしとランジュはのほほんと暮らしてきた。
しかし、ここへきて跡継ぎになってしまった。
そうなると、後継を作らなければならない。
βであれば、女もしくはΩを娶らなければならない。
それは出来ない、ランジュはそう思う。
なぜならランジュはカイに求められる方なのだ。

ランジュは悩んだ。
貴族家に生まれたβ、他所では忌み嫌われる存在だと聞いたことがある。
けれど、自分は『奇跡の子』等と呼ばれて可愛がられてきた。
その恩を返さねばならない。
自分の想いに蓋をせねば、とランジュの顔色は日に日に悪くなっていった。

そして、ついにカイに告げるのだ。

「別れてほしい」

カイは泣いた。
それはそうだろう、ランジュを心から愛しているのだから。
しかし、ランジュの気持ちも痛いほどわかるのだ。
二人は小高い丘の上で日が暮れるまで抱き合い泣いた。

その数日後、王家より使者が訪れた。
使者の話はこうだ。

「未来の王太子妃の生家の当主がβでは外聞が悪い」

これには父も母も激怒した。
可愛い我が子を恥さらしとはなんという言い分か!
ふざけるな、と使者を一蹴しようとした。
家族が憤慨するなかで、ランジュはこう思っていた。
千載一遇の好機では?と。

「ぼ、僕では当主は務まりません!」

ランジュは声を上げた。
何事にもランジュに甘い家族である。
そうなの?と皆ランジュに注目した。
そこで、使者が大層な皮袋を取り出した。
これは使者にしても千載一遇の好機であったのだ。

「詫びと致しましてこちらをお納め頂きたい」

その皮袋を家族全員で覗いて、皆笑顔になった。

「ランジュがそう言うならば仕方ない。後継は三男のニコラスにしよう。れっきとしたαだ」

父の手首は360度可動する。
手のひらくるくるはお手の物であった。
またもこの先の越冬資金を手に入れた父はホクホクであった。
また、ランジュも顔を綻ばせた。

こうしてランジュはカイとまた愛し合うことになる。
カイは平民βであったが、何事にも甘い家族は言う。

「ランジュが幸せになるならなんでもいいじゃないか。笑ってるランジュが皆大好きだよ」

こうしてトルーマン家の後継はまたも繰り上がり、三男ニコラスに決定した。
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