夢見のミュウ

谷絵 ちぐり

文字の大きさ
45 / 58
夢見の末路

7

しおりを挟む
 奇襲とは相手の不意をつき思いがけない方法で攻撃することをいう。フィルは最初、「燃やすか」そう言って手のひらにボッと炎を出した。

「大尉、それでは姫さまも被害にあいます」
「大丈夫だ。その前に助け出す…ヒューゴが」
「…大尉、枷を付けられてるんですよ?」

 フィルの顔がこの上なく歪む。枷、それがなにより許せない。

「引きちぎればいい」

 できるかな、金だったよ?のヒューゴの思いは口にすることは出来なかった。

 フィル班、アトレー班の二班に別れてそれぞれ目当ての宮に夜の闇に紛れて忍び込もうという今回の作戦は凡そ奇襲のそれとは呼べない。
 そういう意味では、相手は全く油断も隙もなく当然不意などつけるわけもなくフィル達は呆気なくお縄になった。お縄になったといっても捕らえられたわけではなく、「来ると思ってました」と応接室に通された。

「ミュウがここにいると聞いた」

 神職についているような装いの男はミュウの話に出てきた。確か名はケイレブだったはず…

「眠っておられますよ」
「どこだっ、どこで!?」

 血相を変えたフィルを見て、ケイレブは僅かに目を見張った。

「大丈夫、夢は見ていませんよ」
「見て、いない?」
「えぇ、悪戯に寿命を縮めることはありません」

 至極落ち着いた様子のケイレブに、フィルは気が抜けてストンとまた腰をおろした。

「どうしてそれを…」
「彼は。彼と私は初対面のはずなのに」

 ゴクリと喉の鳴る音が思いのほか響いて、ドクドクと鼓動が早くなる。

と。私はね、先祖返りというものをずっと研究してきた。だから、夢という言葉に心当たりがあった。夢を通して世界のあらゆる事象を見ることのできる者がいる。あぁ、彼がそうなのかと思った。腑に落ちたよ、遠見の予見が外れたことに」
「遠見?それは…」
「知っているかい?我が国にいるんだよ、美しく脆弱なお方だ」

 ケイレブはそう言って暗闇が覆う窓の外を見やった。視線を追えば、遠くほのかに白く光る明かりを見ていた。



 ──フィルとケイレブが話し込んでいたその頃、アトレーもまた花畑に囲まれた宮の応接室に招き入れられていた。

「お久しぶりです。オーウェン殿下」
「まぁまぁ、そんな堅苦しい挨拶はよさないか。お茶でも淹れさせよう」

 穏やかに、和やかに、オーウェンはその笑みを崩さずにパンとひとつ手を打った。その合図にリンがティーワゴンと共に入室し、てきぱきと茶の用意をしてまた静かに下がっていった。ローテーブルには湯気を立てたお茶、お茶請けには花を型どった小さなビスケットが添えられていた。

「まるで私が訪れるのがわかっていたようだ」
「君に特別な力があるだろう?王家の人間だけに現れる他者を圧倒する力。それを以て建国した、と」

 どうぞ、と手を上に向けてオーウェンは自分もカップを手にした。歴史の研究家だというオーウェン、自国だけでなく他国にもその範囲は及ぶのかとアトレーは勧められるままに腰を落ち着けた。父と外交で訪れジュリアンと気が合い、それから幾度となくこの国を訪れたが、このオーウェンと差し向かいで話すのは初めてのことだ。

「…ジュリアンに会わせてもらえないだろうか」
「君はどこまで知っている?あの夢見は」
「泣いていたと、そう言っていた」
「驚いた、どんな原理なんだろうね」

 オーウェンは落ち着き払ってビスケットを口に入れる。サクサクと咀嚼音を立てながら、君もどうぞと勧められる。お茶会をしに来たわけではない、アトレーの心にイライラが募り、それは膝に置いた指先に現れた。僅かに揺れる指先、抑えていた気持ちが爆発しそうになる。

「そんなことより、ジュリアンは…」
「会いたいか?」
「当然だ」
「弟がどんな姿であっても?」
「あぁ」
「そうか、信じられないな。見てみないとわからない、そう言われた方がまだ納得できるね」

 そう言ってオーウェンはまたビスケットをつまみ、アトレーにもまた勧めた。美味しいよ、そう言って。あまりに勧めるものだから、アトレーもそのビスケットを口に入れた。バターの香り、ほのかな甘みの中に胡麻の香ばしい味がした。

「──これ」
「なんだ、わかっちゃったのか」
「ジュリアンが…」

 私の負けだ、オーウェンは降参するかのように手を挙げた。

「どういうことだ?」
「賭けに負けたんだよ、ねぇ?ジュリアン」

オーウェンが振り返ったその先の扉がカチャと小さな音を立ててゆっくり開いた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。

うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!! 高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。 ムーン様にも投稿してます。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

処理中です...