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夢見の末路
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目を覚ますと見覚えのない場所にいた。これまでの風通しの良かった整えられた部屋とは違う。ほんの少し黴臭くて、壁は剥き出しの石壁だった。ふかふかの寝具ではなく、固い寝具に薄掛けが一枚。
「お目覚めになられましたか?」
「ジーマ、ここどこ?」
「王城の地下でございます」
「なんで?」
困ったように笑ったジーマは、湯気のたつマグカップをミュウの手に持たせた。温まりますよ、と言われたそれは蜂蜜の匂いがした。
「オーウェン殿下の命によりお連れいたしました」
「オーウェンが?なんで?ケイレブは?」
質問してばかりのミュウにジーマは曖昧に笑うだけ、もしかしたらジーマも何も知らされていないのかもしれない。ミュウは諦めてマグカップに口をつけた、それは蜂蜜の甘さが引き立つ紅茶のようだったがとろりとしていてミュウの喉をゆっくりと滑り落ちお腹がほっと温かくなった。
「ジーマ、おいしい」
「それはようございました」
今度はにっこりとジーマが笑ってくれた。なんだかわからないけど、ジーマがいるならまぁいいかとミュウはマグカップの中身を飲み干した。
ここへ来てから良かったと思うのは足の枷が外れたことだ。悪かったのは窓がないので太陽の光も草木の匂いも風も何も感じられないこと、それと石壁はどうしたってローザを思い出してしまう。といってもまだこの殺風景な部屋にきたばかり、いつまでいるのかもう出られないのか。ミュウは小さく息を吐いて目の前にある昼食のミルクパン粥をかき回した。
「お口に合いませんでしたか?」
「ううん、美味しいで。ただ、これからのこと考えたらどうなるんやろなぁって」
またまたジーマを困らせてしまう。ミュウは自分がどうして囚われているのかわからない。夢見だから、と言ってしまえばそうなのかもしれないが、それにしては夢を見ることもないのだ。
「…フィル」
「…どなたのお名前ですか?」
「ずっと支えてくれてた人。他にもジェジェとかナッツとかヒューゴとかイーハンとかマージとか…」
「まぁ、最後の方はわたくしと名が似ております」
「ほんまや、マージはねジーマよりうんとうんとおばあちゃんなんやで」
「あら、お会いしてみたいものですわ」
「うん、マージもジーマの尾を見たがるかも」
「まぁまぁ、おばあちゃんになら見せて差し上げてもいいかしら」
ジーマはころころと笑い、ミュウもつられて笑った。こうして笑いあえるうちはきっとまだ大丈夫。
「マージはね、魔女とか呼ばれてて訳のわかんない研究ばっかしとんやで」
「ではケイレブ様とお話が合うんじゃないかしら」
あの方も熱心でいらっしゃるから、ジーマはまるでケイレブの姉のような感じだ。主従ではあるが、歳上ということもそこに多分に加味されるんだろう。
「でもおばあちゃんじゃお嫁さんは無理かしらね」
そうか、ケイレブは独り身なのか。もしかして?とジーマをチラと見たがジーマには何も無いように見えた。お似合いかも?と思う気持ちをミュウはかき消した。
小さな部屋に閉じ込められるばかりではお腹は空かない。それでも夕食に出された温かいスープは体と心に沁みた。ホクホクのカブと芋で作ったもちもちの団子はジーマの手作りだという。
「作り方教えてくれる?」
「もちろんでございますよ」
うふふとジーマと笑いあっていると、トントンと扉がノックされた。ジーマの肩がぴくりと小さく跳ねたのをミュウは見逃さなかった。
「…オーウェン殿下」
頭を下げるジーマにオーウェンは「外せ」と一言だけ言った。お茶でも、と言うジーマにオーウェンは答えない。ジーマの座っていた粗末な椅子に無言で腰掛ける、それが答えなのだ。パタンと音を立てて扉が閉まる、取り残されたミュウとほかほかのスープ。なんだかな、とミュウはスプーンを置いた。
「単刀直入に聞く。君は見たい夢が見れるのか?」
ふるふるとミュウは首を振った。
「なにか法則性はあるか?」
「知らん」
「現実と見る夢に関連性は?きっかけもないのか?」
「知らん」
あからさまに顔を顰めたオーウェン、そんな顔をしても知らないものは知らない。ただ物語の先を読みたい、そう強く願っていた時はちゃんとその夢を見たような気がする。だけどそれを教えてやる義理はない。鱗だって取り上げられたままなのだ。
「…君は本当はあの鱗をどうしたんだ?夢で拾ったなんて嘘だろう?どこかであの鱗を持つ者と出会ったんじゃないのか?あの湖か?それとも人を惑わす森か?」
何とか言え、とオーウェンは黙り込むミュウの肩を揺さぶった。
「…なんでそんなこと聞くん?」
「大事なことだ、とてもとても大事なことなんだ」
「……ローザにもらった」
あ、あぁ、あぁとオーウェンは頽れた。がっくりと腰を折り顔を覆う両手は震え、その隙間からぽたぽたと涙が溢れている。
「…ローガンなん?」
確信を込めてミュウは口を開いた。
「お目覚めになられましたか?」
「ジーマ、ここどこ?」
「王城の地下でございます」
「なんで?」
困ったように笑ったジーマは、湯気のたつマグカップをミュウの手に持たせた。温まりますよ、と言われたそれは蜂蜜の匂いがした。
「オーウェン殿下の命によりお連れいたしました」
「オーウェンが?なんで?ケイレブは?」
質問してばかりのミュウにジーマは曖昧に笑うだけ、もしかしたらジーマも何も知らされていないのかもしれない。ミュウは諦めてマグカップに口をつけた、それは蜂蜜の甘さが引き立つ紅茶のようだったがとろりとしていてミュウの喉をゆっくりと滑り落ちお腹がほっと温かくなった。
「ジーマ、おいしい」
「それはようございました」
今度はにっこりとジーマが笑ってくれた。なんだかわからないけど、ジーマがいるならまぁいいかとミュウはマグカップの中身を飲み干した。
ここへ来てから良かったと思うのは足の枷が外れたことだ。悪かったのは窓がないので太陽の光も草木の匂いも風も何も感じられないこと、それと石壁はどうしたってローザを思い出してしまう。といってもまだこの殺風景な部屋にきたばかり、いつまでいるのかもう出られないのか。ミュウは小さく息を吐いて目の前にある昼食のミルクパン粥をかき回した。
「お口に合いませんでしたか?」
「ううん、美味しいで。ただ、これからのこと考えたらどうなるんやろなぁって」
またまたジーマを困らせてしまう。ミュウは自分がどうして囚われているのかわからない。夢見だから、と言ってしまえばそうなのかもしれないが、それにしては夢を見ることもないのだ。
「…フィル」
「…どなたのお名前ですか?」
「ずっと支えてくれてた人。他にもジェジェとかナッツとかヒューゴとかイーハンとかマージとか…」
「まぁ、最後の方はわたくしと名が似ております」
「ほんまや、マージはねジーマよりうんとうんとおばあちゃんなんやで」
「あら、お会いしてみたいものですわ」
「うん、マージもジーマの尾を見たがるかも」
「まぁまぁ、おばあちゃんになら見せて差し上げてもいいかしら」
ジーマはころころと笑い、ミュウもつられて笑った。こうして笑いあえるうちはきっとまだ大丈夫。
「マージはね、魔女とか呼ばれてて訳のわかんない研究ばっかしとんやで」
「ではケイレブ様とお話が合うんじゃないかしら」
あの方も熱心でいらっしゃるから、ジーマはまるでケイレブの姉のような感じだ。主従ではあるが、歳上ということもそこに多分に加味されるんだろう。
「でもおばあちゃんじゃお嫁さんは無理かしらね」
そうか、ケイレブは独り身なのか。もしかして?とジーマをチラと見たがジーマには何も無いように見えた。お似合いかも?と思う気持ちをミュウはかき消した。
小さな部屋に閉じ込められるばかりではお腹は空かない。それでも夕食に出された温かいスープは体と心に沁みた。ホクホクのカブと芋で作ったもちもちの団子はジーマの手作りだという。
「作り方教えてくれる?」
「もちろんでございますよ」
うふふとジーマと笑いあっていると、トントンと扉がノックされた。ジーマの肩がぴくりと小さく跳ねたのをミュウは見逃さなかった。
「…オーウェン殿下」
頭を下げるジーマにオーウェンは「外せ」と一言だけ言った。お茶でも、と言うジーマにオーウェンは答えない。ジーマの座っていた粗末な椅子に無言で腰掛ける、それが答えなのだ。パタンと音を立てて扉が閉まる、取り残されたミュウとほかほかのスープ。なんだかな、とミュウはスプーンを置いた。
「単刀直入に聞く。君は見たい夢が見れるのか?」
ふるふるとミュウは首を振った。
「なにか法則性はあるか?」
「知らん」
「現実と見る夢に関連性は?きっかけもないのか?」
「知らん」
あからさまに顔を顰めたオーウェン、そんな顔をしても知らないものは知らない。ただ物語の先を読みたい、そう強く願っていた時はちゃんとその夢を見たような気がする。だけどそれを教えてやる義理はない。鱗だって取り上げられたままなのだ。
「…君は本当はあの鱗をどうしたんだ?夢で拾ったなんて嘘だろう?どこかであの鱗を持つ者と出会ったんじゃないのか?あの湖か?それとも人を惑わす森か?」
何とか言え、とオーウェンは黙り込むミュウの肩を揺さぶった。
「…なんでそんなこと聞くん?」
「大事なことだ、とてもとても大事なことなんだ」
「……ローザにもらった」
あ、あぁ、あぁとオーウェンは頽れた。がっくりと腰を折り顔を覆う両手は震え、その隙間からぽたぽたと涙が溢れている。
「…ローガンなん?」
確信を込めてミュウは口を開いた。
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