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バス
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「何してるんですか?」
一穂は砂山を作っていた。
大きな手で砂を集めサラサラと高くしていく。
「海を見てるしのぶちゃんを見てるとつい触りたくなっちゃうから、砂触ってた」
俺は約束を守れる男だぜ?と笑いながら立ち上がり手の砂を払い落とした。
「もういいの?」
「はい」
「じゃ、nisiyama行こうか。ゆっくり歩いて行ったらちょうど十時になると思うし」
二人で連れ立って海岸沿いの道を歩く。
二人の距離は一穂の歩幅一歩分。
その一歩分に一穂の優しさを感じて、忍はその大きな背中を見て歩く。
衣料品コーナーで一穂は初めて振り向き、選んでよと微笑んだ。
円形になったラックにぎゅうぎゅうとハンガーに吊るされている服。
そこの一着を忍は手に取り一穂に渡す。
「いや、選んで?」
「だから、これです」
「いやいやいや、どう見てもこれ俺には小さいよね?」
サイズを見るとMサイズだった。
なるほど、と呟き忍は一着一着タグを見ていった。
「これは?」
手に取ったのは、黒地に白でアーチ状に『PEOPLE』の文字のトレーナー。
その下には水浴びをしている象。
サイズは2L。
「サイズしか見てなかったよね?」
「・・・僕だってサイズしか見ないから」
「ん?でも、そのスウェットは大きめじゃない?」
「こ、れはおさがりだから」
ふーん、と一穂はトレーナーを手に取り楕円形の移動式の鏡の前で合わせてみる。
「似合う?」
「着れると思う」
アハハと笑い買ってくる、と言って会計に向かう。
「どう?似合う?」
会計を済ませ着替えてきた一穂に面食らいコクコクと頷く忍。
「ワハハ、しのぶちゃんこっちでバス乗ったことある?」
フルフルと首を振るのを見て、じゃあバス乗ろうと一穂は歩き出した。
バス停にある錆びたベンチに二人で座る。
時刻表は歯抜けだらけだった。
田舎だからね、と一穂は笑った。
「俺の真似してね」
オレンジ色のバスに乗って小さな箱から舌のように出ている白い紙を取る。
白い長方形の紙には赤いインクで05とスタンプしてあった。
バスはガラガラで一番後ろの席に一穂はまるで大の字のようにどっかり座った。
「それは真似できません」
「しなくていい」
くつくつと笑いながら一穂は天を仰いだ。
忍は二人がけの席に座り車窓からの景色を眺める。
等間隔にある電柱、何枚も並んだ黄色い田圃、鳥のマークの大きなホームセンター、いくつも並んだビニールハウス、遠くに見える山は所々赤くて黄色い。
座席からぴょこんと飛び出た小さな頭を一穂はずっと見ていた。
「しのぶちゃん、降りるボタン押してくれる?」
降車ボタンを押すと、ピンポンと音がして暗かった部分が紫色に変わった。
バスの乗車賃は360円。
一穂がまとめて払って下車する。
「払います」
「いいよ、バス代くらい」
「じゃ、じゃあ帰りのバス代は払います」
「ん、わかった」
お昼ごはんはあそこで食べよう、とバスが走り去った方へとまた二人で歩いた。
砂利の駐車場の中にある三角屋根。
赤いのれんには『中華たちばな』と染め抜いてあった。
店内は元は鮮やかな赤だったであろう褪せた色のカウンター。
四人がけのテーブルが四つ。
レジの横の三段ボックスには少年誌がズラリと並んでいる。
忍が頼んだのは、中華そばと餃子とライスのセット。
一穂は麻婆丼定食。
ズルズルと音を立てながら忍はラーメンを啜る。
餃子もライスもどんどん食べる。
「しのぶちゃん、美味しい?」
「はい、とても」
「良かった。人って美味しいもの食べると笑顔になるよね」
食事代は割り勘。
夕方まであと数時間。
二人の距離は歩幅一歩分から縮まらない。
一穂は砂山を作っていた。
大きな手で砂を集めサラサラと高くしていく。
「海を見てるしのぶちゃんを見てるとつい触りたくなっちゃうから、砂触ってた」
俺は約束を守れる男だぜ?と笑いながら立ち上がり手の砂を払い落とした。
「もういいの?」
「はい」
「じゃ、nisiyama行こうか。ゆっくり歩いて行ったらちょうど十時になると思うし」
二人で連れ立って海岸沿いの道を歩く。
二人の距離は一穂の歩幅一歩分。
その一歩分に一穂の優しさを感じて、忍はその大きな背中を見て歩く。
衣料品コーナーで一穂は初めて振り向き、選んでよと微笑んだ。
円形になったラックにぎゅうぎゅうとハンガーに吊るされている服。
そこの一着を忍は手に取り一穂に渡す。
「いや、選んで?」
「だから、これです」
「いやいやいや、どう見てもこれ俺には小さいよね?」
サイズを見るとMサイズだった。
なるほど、と呟き忍は一着一着タグを見ていった。
「これは?」
手に取ったのは、黒地に白でアーチ状に『PEOPLE』の文字のトレーナー。
その下には水浴びをしている象。
サイズは2L。
「サイズしか見てなかったよね?」
「・・・僕だってサイズしか見ないから」
「ん?でも、そのスウェットは大きめじゃない?」
「こ、れはおさがりだから」
ふーん、と一穂はトレーナーを手に取り楕円形の移動式の鏡の前で合わせてみる。
「似合う?」
「着れると思う」
アハハと笑い買ってくる、と言って会計に向かう。
「どう?似合う?」
会計を済ませ着替えてきた一穂に面食らいコクコクと頷く忍。
「ワハハ、しのぶちゃんこっちでバス乗ったことある?」
フルフルと首を振るのを見て、じゃあバス乗ろうと一穂は歩き出した。
バス停にある錆びたベンチに二人で座る。
時刻表は歯抜けだらけだった。
田舎だからね、と一穂は笑った。
「俺の真似してね」
オレンジ色のバスに乗って小さな箱から舌のように出ている白い紙を取る。
白い長方形の紙には赤いインクで05とスタンプしてあった。
バスはガラガラで一番後ろの席に一穂はまるで大の字のようにどっかり座った。
「それは真似できません」
「しなくていい」
くつくつと笑いながら一穂は天を仰いだ。
忍は二人がけの席に座り車窓からの景色を眺める。
等間隔にある電柱、何枚も並んだ黄色い田圃、鳥のマークの大きなホームセンター、いくつも並んだビニールハウス、遠くに見える山は所々赤くて黄色い。
座席からぴょこんと飛び出た小さな頭を一穂はずっと見ていた。
「しのぶちゃん、降りるボタン押してくれる?」
降車ボタンを押すと、ピンポンと音がして暗かった部分が紫色に変わった。
バスの乗車賃は360円。
一穂がまとめて払って下車する。
「払います」
「いいよ、バス代くらい」
「じゃ、じゃあ帰りのバス代は払います」
「ん、わかった」
お昼ごはんはあそこで食べよう、とバスが走り去った方へとまた二人で歩いた。
砂利の駐車場の中にある三角屋根。
赤いのれんには『中華たちばな』と染め抜いてあった。
店内は元は鮮やかな赤だったであろう褪せた色のカウンター。
四人がけのテーブルが四つ。
レジの横の三段ボックスには少年誌がズラリと並んでいる。
忍が頼んだのは、中華そばと餃子とライスのセット。
一穂は麻婆丼定食。
ズルズルと音を立てながら忍はラーメンを啜る。
餃子もライスもどんどん食べる。
「しのぶちゃん、美味しい?」
「はい、とても」
「良かった。人って美味しいもの食べると笑顔になるよね」
食事代は割り勘。
夕方まであと数時間。
二人の距離は歩幅一歩分から縮まらない。
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