その愛は契約に含まれますか?[本編終了]

谷絵 ちぐり

文字の大きさ
134 / 190

愛の三兄弟

しおりを挟む
ジェラールがニコラスと結ばれた時、コックスヒル邸ではちょっとした騒ぎになった。
まず第一に、あれは誰だ?ということだ。
ジェラールのジャケットをすっぽり被って抱かれた彼は一体誰なのか?

「私の番だよ」

微笑むジェラールはいつものそれに見えるが、父も古株の使用人も、お前も誰だ?と思っていた。
それくらいジェラールの纏う雰囲気が違う。
声をかけようにもかけられず、寝室へ赴いてノックしようものなら凄まじい威圧フェロモンが飛んでくる。
仕方ないので使用人らは替えのリネン類と食事を寝室前に置くのみになった。
しかしこうなってしまって三日、未だ籠りきりの次代の当主に使用人達の不安は募った。

「それで、お父様がいらっしゃったのですね?」
「うん、先触れもなくすまない」

ぺろりと手で顔を舐める父にそんなのいいんですよ、とリュカは言う。
それにしてもまさかお兄様がニコラス様に婚約を打診して断られて、いくらもしないうちに番を連れて帰るなんてとリュカはぬるくなった茶をすすりながら思った。
失恋の辛さを乗り越えられずどこぞから誰かを攫ってきてしまったのだろうか?
お兄様に限ってそんなことは、と思うがリュカも不安が拭えない。

「その、アイザック君は強いだろう?あの威圧に負けないと思うんだ。だから、様子を見に来てもらえないかな?」
「そういうことでしたら、まず僕が行きます」
「そうか?」

こくりと頷いたリュカは、早い方がいいとすぐさまコックスヒル邸に向かった。


しんと静まりかえった勝手知ったる廊下をリュカはジェラールへの寝室に向かって歩く。

「お兄様、リュカです!」

ドンドンとノックをして待つ。
ガタガタと小さな音が聞こえるから、おっつけ出てくるだろうとリュカがのんびりと待っていると、細くその扉が開いた。

「リュカ?」
「お兄様、どなたが中にいらっしゃるのです?お父様もみんなも心配しています」
「心配することなんてないよ」
「では、どこかから攫ってきたわけではないのですね?犯罪ですよ、それは」
「ニコラス君だよ」
「は?お断りされたのでは?」
「・・・ちょっと行き違いがあっただけで同意の上だから」

それじゃ、と閉めようとする扉にリュカは足を突っ込んだ。

「本当に無理強いしてるわけではないのですね?」
「そう言ってるだろ」
「・・・では、その、労わってあげてくださいね?体への負担はΩの方が・・・」
「ニコラス君は鍛えてるからね。リュカみたいに軟弱じゃないから」

なんだそれは!とリュカがぷぅと頬を膨らませたと同時に強引に扉が閉まってしまった。
その扉にリュカは盛大にあっかんべーとして、そしてしょんぼりと肩を落とした。



「そうか・・・それが原因で今日はこんなに甘えっ子なの?」

コックスヒル邸から帰ったリュカは今か今かとアイザックの帰りを待ち侘び、帰ってきたアイザックに抱きついてべしょべしょと泣いた。

「お兄様に、あんな風に拒絶されるなんてっ・・・お兄様はいつもいつも優しくてっ」
「義兄上だってαだったってことだよ。番を持って気が立ってたんだろう」

アイザックはそう言ってリュカを抱きしめた。
それにしても義兄上がニコラスと番うなんてなぁ、と考える。
話を聞くと何もかもをすっ飛ばしている。
婚約も婚姻も、そもそもお付き合いをしていたのだろうか。
知っているジェラールらしからぬ強引さに、やはりαなのだなぁとアイザックは思い至った。

「リュカ?リュカは俺のこと好き?」
「だいすきです」
「幸せ?」
「しあわせです」
「じゃ、義兄上にもそういう相手ができたことを祝福してあげないと」

あい、と顔を上げるリュカの涙を拭いアイザックはキスをした。
こんな風にリュカを泣かせたジェラールに嫉妬のような、羨望のような気持ちがある。
リュカの全てを独り占めしたい。

「リュカ、今度旅行に行こうか」
「旅行?」
「トルーマン領の温泉に行こう」

涙で濡れていた顔がみるみる晴れていく。
この顔が好きなんだ、とアイザックは思う。

「温泉ってあの地面から熱い湯が湧いてるっていう・・・」
「そう、外で景色を見ながら湯に浸かれたりするよ」
「行く!!」

ぱぁっと雨上がりの太陽のように輝いた笑顔を見せたリュカはアイザックに口付け・・・られなかった。

「話は聞かせてもらったぁっ!!」

ドカンと扉が開きナルシュが飛び込んできたのである。
ナルシュは今、侯爵家で世話になっている。
エルドリッジが離さなかったからだ。

「小兄様、ノックしてって」
「リュカー、聞いてくれよぉ」

ナルシュはアイザックに抱きつくリュカに抱きついた。
こめかみがピクピクと動いているアイザックは無視である。

「エルが変態なんだ」
「まぁ、どんな?」
「猫の耳を付けようとしたり、尻が丸見えの下着を履かせようとするんだ」

性に対して積極的なナルシュではあるが、倒錯的なことにはめっぽう弱かった。
無いと思われた羞恥心は全てここに集約されている。

「着ればいいじゃない。喜ぶよ?」

ねぇ?とリュカはアイザックを見た。
やだぁとおいおいと嘘泣きをしていたナルシュは、お前か?とアイザックを睨みつけた。

「エルに変なことを教えるな!」
「知るか」
「だから!」
「だから?」
「俺もその温泉に行く!」

拳を高く掲げて立ち上がったナルシュに、なぜなのかわからない。

「じゃ、俺も行く」

戸口にはいつの間にかエルドリッジが佇んでおり、つかつかと歩み寄ってナルシュの首根っこを引っ掴んだ。

がすまないな」

全くすまなそうでない顔で言ったエルドリッジはそのままずるずるとナルシュを引きずって帰って行った。
ぎゃあぎゃあ、と騒ぐ声が次第に小さくなっていく。

「ほんとについてくるのかな?」

はぁぁと大きく嘆息したアイザックは脱力し、リュカを抱いたままソファにころんと横になった。
波乱万丈の予感にぶるりと震え、腕の中の愛しい人に縋るように抱きしめることしかできない。

その予感が的中するのはまだ少し先の話。




※兄弟編終わりです。
読んでくださりありがとうございます(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

温泉編は需要ありますか?ありますね?←
引き続きよろしくお願いします!
今のところ、がっつりコメディになってます(* 'ᵕ' )☆
しおりを挟む
感想 185

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。

竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。 男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。 家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。 前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。 前世の記憶チートで優秀なことも。 だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。 愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。

時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~

なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。 一つは男であること。 そして、ある一定の未来を知っていること。 エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。 意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…? 魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。 なんと目覚めたのは断罪される2か月前!? 引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。 でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉ まぁどうせ出ていくからいっか! 北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...