その愛は契約に含まれますか?[本編終了]

谷絵 ちぐり

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待ってて!

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パンパンと尻を叩かれながら宿に戻ったナルシュは、そのまま寝室のベッドへと放り投げられた。

「ぺちぺち叩きやがって、俺の尻が使い物にならなくなったら八割方お前が困るんだぞ!!」

さすさすと尻を撫でながら起き上がったナルシュは勢いよく抱きしめられた。
スンスンと首筋に顔を埋めて、グリグリと押し付けられる。

「甘えんぼか・・・」
「お前も甘えてくれよ」
「・・・逃げてごめん」

よしよしとエルドリッジのその綺麗な金髪を撫でてやる。

「俺は絶対にあんな風にならない」
「あの旦那だって同じこと思ってただろうよ」
「それでも!俺はならない」
「・・・おう、そういうことにしておいてやる」

顔上げろ、ナルシュはそう言ってエルドリッジの両頬を包んで唇を押し付けた。
パチリと開いた目はかち合ったままで、ナルシュは嬉しそうにその目を細めた。
ぷはっと唇を離して固まっているその頬を撫でる。

「よし、まずはその股間のモノをしまえ」

近づいてきたエルドリッジの顔にナルシュは至極真面目に言い放った。

「・・・いや、今お前にしてはいい雰囲気だったろ?」
「今はそんなことをしている場合じゃない。リュカの旦那がなにを思ってるか教えろ」

そう言ってエルドリッジの頭に手刀をおろしたナルシュだった。



アイザックは頭を悩ませていた。
どうしたらあの父親にわかってもらえるだろうか、と。
あの盲目的といえる運命の番への思い。

「もう二人でイチャついてるとこ見てもらえば?そしたら諦めるかもしれん」
「エルドリッジはこうなった時に同じことができるのか?」
「んなわけねぇだろ。ナルに矛先が向いたらどうする」
「俺だって同じだよ。面白がるな」

しらっと睨むアイザックと飄々とするエルドリッジに挟まれたジェラールはまあまあと二人を諌めた。

「これは俺自身で解決しなきゃいけないんだ。そこにリュカを巻き込みたくない」
「先にリュカにそう言って安心させてやれば?」
「駄目だ」
「なんで駄目なんだよ、あいつもきっと泣いてるぜ?」
「リュカが原因で拒むことをリュカのせいにしたくないんだ。それはリュカを傷つける。俺は俺の意思でリュカを愛している。だから、全て一人で終わらせた後に迎えに行くのが最善なんだ」

原因があって結果がある、けれどその結果を原因に負わせてはいけない。
リュカがいるから、リュカがいたせいで、そう思いたくはないしそう思わせてもいけない。
リュカだけを愛している、大切に慈しみ育ててきたこれを運命と呼ばずにあれが運命とするならば、これは自分が定めた運命ではないのか。
本能も理性もそんなものは関係ない。
心が魂が求めるのはリュカだけ、こいねがうのはリュカただ一人だ。

アイザックは頭を抱えて黙り込んだ。
他の二人はそんなアイザックを見守るだけだ。
どれくらいそうしていただろうか、じりじりとした沈黙にエルドリッジは根をあげた。

「父親が納得してくれりゃあいいけどな」
「少し不気味だよね。αというわけではないんだろう?」
「あぁ、βだな」
「βだから、じゃないか?自分にないものに人は憧れるもんだ」

エルドリッジの言いように、なるほどなと二人は頷いた。

「そうであったとしても、早くなんとかしないといけないね。どんな強硬手段を使ってくるかもわからない」
「発情した状態で襲ってくるとか?」
「それもあるけれど・・・リュカがね」

しんと三人の間に沈黙が落ちる。
旅行に連れてきた護衛の数は最小人数だ。
万一を考えて宿全部を貸し切って、不要な人物が入り込まないようにしてある。
舞踊団団長である父親の訪問はそんなギリギリのところだった。
本当は違う場所での話し合いが良かったのだけど、とアイザックは大きく嘆息する。

「リュカに手出しはさせない」
「うん、ニコラス君がついてるからそれは大丈夫だろうけどね。私が言ってるのはリュカは・・・突っ走るところがあるから」

またしんと沈黙が落ちた。
リュカのやんちゃぶりはジェラールはもちろん、他の二人もよく知るところである。
 
「変な風に考えていないといいけれど・・・」

ジェラールの言葉がぽつりと落ちた。




エルドリッジが語るのを、腹に回るその手の指をいじいじと触りながらナルシュは黙って聞いた。
あの二人はお似合いだな、と思いながら。

「リュカも似たようなこと言ってた」
「ん?」
「あの旦那の決断に自分が混ざっちゃいけないって。だから、待つって」
「そうか」
「安心した。リュカを見捨てたらどうしようかと思った」
「そうなったらどうしてた?」
「そりゃ、リュカを甘やかすよ。好きな菓子を食べさせて好きな本を買ってやって、そんで傍にいてやる」

ぐにぐにと手のひらを押しながらナルシュは言う。
しばらくそうやってエルドリッジの手を弄んだナルシュは振り向いた。

「大人しくしてると思うよ?」
「お前と違ってか?」

ちゅちゅとキスを浴びせながら背後からのしかかってくるエルドリッジにナルシュは笑った。
笑いながら今回はね、との言葉を飲み込んだ。

「ところで、ほんとに貸切?」
「そうだが?」
「そっかー」

ずるずると体を滑らせエルドリッジの拘束から抜け出したナルシュ。

「ニコラス誘って大浴場行ってくる!」

ピャッと駆け出すのを見て、なんでそんな自由なんだと思いながらエルドリッジは後を追い部屋を出る既のところでその首根っこを押えたのだった。

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