ようこそ!追放令嬢様!

谷絵 ちぐり

文字の大きさ
8 / 19

突撃☆隣の晩ごはん

『この島は本土と違う文化が発展してきました』

マルティナはそう言った。
それはもそうだったのか、とシェリル達は思う。
それにしても目の前でコロッケというものを大口開けて食べているのは貴族令嬢なのだろうか。

「こちらがご飯と味噌汁で、こちらがコロッケです。これは付け合せのキャベツの千切り。これがほうれん草のおひたしで、きんぴらごぼうです」
「はぁ・・・そうですか」

ばあやが食事の説明をしてくれる。
二本の棒は箸というらしい。
白いものがご飯。
この薄茶のスープが味噌汁。
コロッケはよくわからない。
キャベツと言われたがこれはドルスでは?
ほうれん草と呼ばれるものはカナ菜だと思うのだが・・・
きんぴらごぼうに至ってはもうなにかわからない。

「お箸はまだ使えないと思うから使いやすいカトラリーで食べていいわよ」

言いながらマルティナはコロッケに黒いソースをかけている。

「あの、トルーマン公爵様と夫人は?」

屋敷の主がまだ来ていない。
それなのに先に食事をしてもいいのだろうか?
シェリルはソワソワ落ち着かなかった。

「ん?お父様?今日の朝に隣のアフィリアに行ったわよ。お母様が今そっちで遊んでるから」
「あーな。マル、ソースくれ」

ダイニングの食卓には当たり前のようにニーサン、ルナ、カーラ、ばあや、スティンが座り皆同じ食事をとっていた。
メイド服姿のルナ達をつい見てしまうシェリル。

「あ、気になる?これ趣味だから」
「本土の使用人可愛かった」
「カーラより可愛いのはいないよ」

隙あらば惚気けてんじゃねぇ、とマルティナが面白くなさそうに言う。

「お嬢様方、冷めてしまいますよ」
「せっかくこちらに来たんですから島のご飯に慣れてくれると嬉しいですよ、ばあやは」

スティンとばあやがシェリル達に優しく声をかけてくれる。
いただきます、とコロッケを小さく切ってそっと口に運ぶ。

「ばあや、コロッケもう無い?」
「残りは明日のお弁当でございます」
「あ、シェリル明日学校行こうね」
乗れんの?」
「馬車出すわよ」
「なに着せていく?」
「第一印象大事」

あーでもない、こーでもないと話すマルティナ達。
よくもまぁそんなに話しながら食べれるなぁと目が丸くなるシェリル。
こんなに賑やかな食卓は初めてだ。
公爵家での食事は自室で一人だった。
アンナは傍にいたけれど一緒に食事をとることはなかった。
つい、クスリと笑みがこぼれてしまう。

「あら、そうやって自然に笑った方が可愛いわよ」
「そうだよ」
「シェリル緊張するのよくない」
「カーラの言う通りだ。ここではお前の好きにしろ。泣こうが笑おうが怒ろうが俺らが全部受け止めてやっから」

な、と見回すニーサン。

シェリルが同じように見回すと、マルティナもルナもカーラもばあやもスティンも頷いていた。・・・アンナまで。
島に来てまだ一日。そうまだたった一日。
その一日で、どれだけ驚かされただろう。
ここに来るまでの常識が全部飛んでいってしまった気がする。
たくさん俄には信じられないような話を聞いた。
自分罪人がなぜ収容されないのかもわからない。
ニーサン達が何者なのかもわからない。
明日行く学校のこともわからない。
わからないことだらけだ。
だけど、初めて食べたコロッケはホクホクしていて美味しい。
みんなで同じ食事をとるのは楽しい。
そして、自然と笑ってしまう自分を少しだけ好きになった気がする。

「皆さんは全部説明が足りません!ね、アンナ?」
「はい。説明不足がすぎます」

つい、笑いながらも文句を言ってしまうシェリル。

「たいていのことは図書室のジョバンニが書いた本で解決するからだいじょーぶ」

そういうことじゃねぇ、とニーサンに額をペチンとされるマルティナ。
マルはばかだねぇ、とルナ。
マルちゃんとする、とカーラ。

微笑ましく見ているばあやとスティン。

たった一日、されど一日。
私はきっとここが好きになる。
もう本土には帰りたくない。
シェリルはそう思った。
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

 怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~

美袋和仁
恋愛
 ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。  しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。  怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。  なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。

王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました

明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。 十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。 一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

私がもらっても構わないのだろう?

Ruhuna
恋愛
捨てたのなら、私がもらっても構わないのだろう? 6話完結予定

いや、無理。 (3/27・0時完結)

詩海猫(9/10受賞作発売中!)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。 一旦完結にしましたが、他者視点を随時更新の間連載中に戻します。 もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、 「わかってくれるだろう?ミーナ」 と手を差し伸べた。 だから私はこう答えた。 「いや、無理」 と。