ようこそ!追放令嬢様!

谷絵 ちぐり

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飛べ

シェリルが一歩を踏み出した頃、マルティナ達はゆっくり自転車を進めていた。

「マル、急展開すぎない?シェリル達もっとゆっくりしてからでもいいんじゃない?」
「んー?あの子はねー、しんどい事しかしてこなかった。そんな子に考える時間与えたらなに考える?」
「しんどいこと?」
「カーラ正解!過去は過去よ。なかったことに出来ない。だけど、それに囚われてばかりじゃダメなのよ。これから未来を見ないと、見せないと。荒療治だけど、考える隙を与えちゃダメ」

学校はいい場所だと思わない?とマルティナはぐんぐんペダルを漕ぐ。
ルナ達を置いてどんどん進むマルティナ。
マルティナの背中を見ながらルナ達は思い出していた。

『マルはバカだけど、ずっと先を見てる。みんなあいつのバカに救われてンだ』

昨夜、屋敷から帰る時に夜空を見あげながらニーサンの言った言葉。
そう、自分達も
空には半分の月がぽっかり浮いていて、星がキラキラしていた。
春の雪は積もらず落ちるそばから消えて、次の日には晴れを連れてきた。
シェリル達の心も晴れますように、そう願った帰り道。



「まずは職員室行って校長に挨拶してから、子ども達集めてもらうか。そこでシェリル達を紹介す─ビュンッ─るな」

ニーサン達三人の横を自転車に乗ったマルティナが駆け抜ける。
は?と思った時にはもう遅い。

あー!マーちゃんだ!
マーちゃん校庭に自転車で入っちゃダメなんだよー!
マーちゃん遊ぼー!

小さな子ども達がマルティナを見つけて騒ぎ出す。
スピードにのった自転車をドリフト気味にとめたマルティナはそのまま自転車を乗り捨て、そして──

「みーんなー!!」

校舎に向かって叫びだす。

えーなになに?
あっ、マーちゃんだ!
マーちゃんどうしたのー?
またニーサンに怒られるぞー!
マーちゃん、頭ボッサボサー
もうすぐ鐘鳴るよー
次の授業始まるー!

窓から子ども達が顔を覗かせ、やんややんやと囃し立てる。

「本土から先生連れてきたー!!!みんな、授業なんかいいから降りてこーい!!!」

新しい先生?
行く行くー
マーちゃん待っててー

仁王立ちでうんうんと頷くマルティナ、が駆け寄ってきたニーサンにはたかれる。

「っお前は順序ってもんを知らんのか!ばかマル!!」

わらわらと子ども達が校舎から駆け出してくる。
あっという間に囲まれるマルティナとニーサン。

新しい先生どこ?
ねーどこ?

「シェリル!アンナ!おいでー!!」

両手をめいっぱいふりながら飛び跳ねるマルティナ。

あの人たち?
あれが新しい先生?
二人もいるの?

子ども達がマルティナに反応してざわざわ騒ぎながらシェリル達に注目する。
子ども達の目はみんなキラキラしてる。
裏も表もなく純粋な瞳で見つめてくる。


シェリルが幸せだと思えたのは10歳まで。
愛してくれた母親が儚くなり、新しい家族が出来た。
8歳で結んだ婚約は上手くいかなかった。
ピンと張りつめた心は安まることはなかった。
愛してほしい人に愛されなかった。
その場所は今でも大切か?
しがみつきたくなる自分だった?
何を思って生きてきた?
ただただ息を潜めて叱責されないようにしてきた。
言われたことだけをこなす日々。
あの日々には戻りたくないと思った。
そう昨日思っただろう?
飛べ
この崖っぷちから飛べ
失うものなんかもうないだろう?
飛び損なってもきっと受けとめてくれる人がここにはいる。
あの笑いさざめく場所へ向かって
飛べシェリル!

「いーまーいーくー!」

シェリルは物心ついてから初めて大きな声を出した。
こんなに大きな声が出るんだと驚いた。
最後は掠れたけれど、それでも大きな声が出る自分が誇らしかった。
アンナ行こう、と手をとり駆け出す。
走るのは幼い頃以来だった。
気がつけば笑っていた。
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