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種まき
カリーナ・ワーグナー公爵夫人は焦っていた。
やってはいけないと思いつつもつい爪を噛んでしまう。
それは少しの違和感だった。
鏡台の引き出しがほんの少し軽かった。
なにも入れていない引き出し。
けれど一日一回はそっと開く。
確かめるようにそっと引く。
アレはいつか自分に不幸が襲いかかった時の為に、その時だけの為に持っていたものだ。
アレがあれば言い逃れができるばかりか矛先も変えることができる。
「奥様、手紙が届いております」
カリーナは盆に乗った封書をひったくりペーパーナイフを使わずビリビリと端を破った。
血走った目で読み進め、馬車の用意を、と言って手紙をグシャリと丸め屑籠に放り込んだ。
かしこまりました、と侍女が出ていく。
まだ、まだ終わったわけじゃない。
ここまで予定通りに進めた。
こんなところで落とされてたまるか。
カリーナは深呼吸を一つしてゆっくりと部屋を出ていった。
男は憤慨していた。
どうして今になって、と。
何もかもが順調であった。
やはり殺しておくべきだったか。
女は使い物にならない。
男より劣る分際で小狡いことを平気でやりやがる。
なぜ処分しなかったのか。
まだ年若い男は心配していた。
少し前から母上の具合がよくない。
真っ青な顔で寝台に伏せっている。
医師も原因がわからないと言っている。
アイリーンと婚約を結びなおした時は、あんなに喜んで祝ってくれたのに。
一体なにが母上を苦しめてるんだろう。
城の侍女は恋をしていた。
ふいに現れる黒髪紫瞳の見目麗しい青年に。
青年は清廉とした立ち姿で、ふいに現れる。
目を奪われ瞬きした次の瞬間には居なくなってしまう。
どこの貴族だろう、と考えてもわからない。
仲間の侍女も見かけるけれど、誰も彼が誰かはわからなかった。
老婆は諦めていた。
もうずっと胸が痛かった。
雨が降った時は特に痛んだ。
ナイフで刺された事はないけれど、刺されたらきっとこれくらい痛むのだろう。
ドンと衝撃がはしり、ズキンと痛む。
自分はこれに耐えねばならない。
助けを求めてはならない。
自分にその資格はないのだから。
この命尽きるまでこの痛みに耐えなければならない。
女はほくそ笑んでいた。
早く芽を出せ、花咲かせ、と歌いながら海を眺めていた。
やってはいけないと思いつつもつい爪を噛んでしまう。
それは少しの違和感だった。
鏡台の引き出しがほんの少し軽かった。
なにも入れていない引き出し。
けれど一日一回はそっと開く。
確かめるようにそっと引く。
アレはいつか自分に不幸が襲いかかった時の為に、その時だけの為に持っていたものだ。
アレがあれば言い逃れができるばかりか矛先も変えることができる。
「奥様、手紙が届いております」
カリーナは盆に乗った封書をひったくりペーパーナイフを使わずビリビリと端を破った。
血走った目で読み進め、馬車の用意を、と言って手紙をグシャリと丸め屑籠に放り込んだ。
かしこまりました、と侍女が出ていく。
まだ、まだ終わったわけじゃない。
ここまで予定通りに進めた。
こんなところで落とされてたまるか。
カリーナは深呼吸を一つしてゆっくりと部屋を出ていった。
男は憤慨していた。
どうして今になって、と。
何もかもが順調であった。
やはり殺しておくべきだったか。
女は使い物にならない。
男より劣る分際で小狡いことを平気でやりやがる。
なぜ処分しなかったのか。
まだ年若い男は心配していた。
少し前から母上の具合がよくない。
真っ青な顔で寝台に伏せっている。
医師も原因がわからないと言っている。
アイリーンと婚約を結びなおした時は、あんなに喜んで祝ってくれたのに。
一体なにが母上を苦しめてるんだろう。
城の侍女は恋をしていた。
ふいに現れる黒髪紫瞳の見目麗しい青年に。
青年は清廉とした立ち姿で、ふいに現れる。
目を奪われ瞬きした次の瞬間には居なくなってしまう。
どこの貴族だろう、と考えてもわからない。
仲間の侍女も見かけるけれど、誰も彼が誰かはわからなかった。
老婆は諦めていた。
もうずっと胸が痛かった。
雨が降った時は特に痛んだ。
ナイフで刺された事はないけれど、刺されたらきっとこれくらい痛むのだろう。
ドンと衝撃がはしり、ズキンと痛む。
自分はこれに耐えねばならない。
助けを求めてはならない。
自分にその資格はないのだから。
この命尽きるまでこの痛みに耐えなければならない。
女はほくそ笑んでいた。
早く芽を出せ、花咲かせ、と歌いながら海を眺めていた。
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