ブラッシング!!

コトハナリユキ

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赤い過去

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 僕はキッチンにゲスト用の布団を持ってきて、両親を寝かせた。死んでいるから重くて大変だったけど、頑張って移動させた。

 10分ほど僕は2人を眺めていた。ボロボロと涙が零れていた。でも僕は悲しいと思わなかった。仕方ないと思った。
 「君たちが僕を叱るからだよ。」

 外はまだ雨が降り続けている。

 支度をして、家を出た。今度はちゃんと傘を持って出た。5分位歩いたところで電話ボックスを見つけて入った。使ったことが無かったから少し困ったけど、なんとかかけれた。
 「両親を刺し殺しました。住所は……。」

 2人が腐って見つかったりするのは可哀想だと思って、警察へ通報した。これが僕の最後の親孝行だ。

 僕は町を出て、どうするつもりだっただろうか。きっと死んでいたと思う。悔やんで? 罪の意識に苛まれて? 違う。そんな理由で僕は死なない。両親を殺してもなんとも思わない心が虚しくて死ぬんだ。

 さっき涙は流れた。僕は頭では分かってるんだ。自分を生んで育てた親が死んだんだ。悲しい。と。だから頭が涙を流させた。でも心で悲しんでないし、自分自身にも何も感じない。

 やっぱり僕の心は壊れてる。
 まぁ少し前から気づいてた。でも周りに合わせてなんとかやって来たんだ。

 時々何かが切れて暴れてしまうから友達は居なくなってしまったけど、僕は悲しくなかった。仕方ないと思ってた。1人でも平気だった。

 だから、1人で町を出て、疲れたら死ねばいい。さぁ行こう。壊れた心を抱えて出て行こう。ドシャ降りの雨がちょうどいい。僕は笑った。

 何台かパトカーとすれ違った。凄いスピードで僕の家へと走って行った。その度水が跳ねて僕にかかった。

 「おい。」
 僕は歩を止めて声の主の方を向いた。真っ黒の服を来た若い男が後ろに立っていた。僕はその男と目を合わせた途端に逸らしてしまった。

 なんだこいつは……? 酷く気分が悪い。

 後に分かったことだったけれど、この時僕が感じた気持ち悪さは”恐怖”だった。初めて僕は人に気圧された。

 「……なんですか?」
 平静を装って、興味のなさそうに返事をした。
 「何にも言わずに俺について来いよ。……親殺しの糞ガキ。」
 僕は背筋が凍ったように感じた。そしてその男に差し出された手には、人差し指と小指が見当たらなかった。

 彼は殺菌族の人間だった。


 

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