ブラッシング!!

コトハナリユキ

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心のひっかかり

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 「余裕じゃないですか。」
 ナイフを握る手に力が入る。それと同時に汗も噴き出た。あの雨の日と両親ふたりのことが頭をよぎり、ヤマジ氏のあの日の言葉も頭の中で響いた。
 「あなたを殺って……僕は、本物のヒットマンとして認めてもらう。」
 「はぁ?」
 眉間にしわを寄せて疑問の声を投げかけてきた。そして溜息をつかれた。それはとても長い溜息だった。
 「お前そんなことの為にやってんのか? それ、本心なの?」
 僕は言葉が出てこなかった。本心だと言えばいいのに、僕自身も「本心なの?」と自分に問いかけてしまったからだ。
 
 僕は……。
 
 「あなたになんか……分からない。」
 僕は僕にも「分からない」と応えた様だった。

 「フー!!」
 息を深く吐きながら、頭は地面に座り込み、あぐらをかいた。俯いていた僕は彼を見た。
 「僕の気持ちなんかってか?……あ、ゲホ! ゴホ!」
 赤い血がせき込んだ彼の手のひらに溜まった。そして地面に零れ、地面に染みていく。彼はそれを少し眺めた。
 「ヒットマンってのは俺のイメージだと、殺人狂みたいな奴ばっかがなるもんだと思ってたから……。」
 「なにが……言いたいんですか?」

 「お前、本当は人殺しなんかしたくないんだろ?」
 「!」
 キィィンと耳の傍で音が鳴って、頭が痛くなってきた。
 「だからさっきも、隙だらけだった俺に奇襲をかけられなかった。」

 ……あの日の2人を寝かせた時の表情が蘇ってくる。

 「お前はハナから殺したくないと思ってた訳じゃない。お前の目は明らかに人を殺した目だ。」

 ……頭の中で親の目の辺りにかけられていたモヤがとれていく。

 「そしてお前は後悔してる。その殺しを」

 やめろ。 
 
 「お前の目や態度は、殺せなかった理由を……逃げ場を探してんだよ。」

 やめろやめろやめろ……!
 
 「ハンパな目ぇしてんじゃねぇよ!」

 やめ……。
 僕は気がつけばナイフを振り上げ彼を殺そうと1歩踏み出していた。だけど、目に入ったのは既に彼が前のめりに倒れた姿だった。
 「え?……おい!」
 僕はナイフを落として彼の傍まで駆け寄った。
 「……わりぃなぁ。」
 「え。」
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