ブラッシング!!

コトハナリユキ

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天邪鬼

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 兄貴がクアリクを背負い投げして床に叩きつけてた時、闘いはまだ続きそうだと思った。

 とりあえずはミズエをここに連れてこよう。そう思った俺は、撃たれていない右足を使ってミズエが倒れているところまで行こうとした。

 動き始めたところでミヤシゲが気付き、走り寄ってきた。
 「ユースケさん、ミズエなら僕が行きますから」
 ミヤシゲは俺の撃たれた足を気遣って、自分がミズエを連れて戻ると言う。
 「いや駄目だ。」
 「だってユースケさんは足を……」
 「俺は大丈夫だ。ありがとな。」
 ミヤシゲは優しい。優しいけど、思いもよらない事態にはとても弱くてすぐに焦ってしまう。

 ここはこいつら3人誰に行かせても無駄な時間をくうかもしれない。俺が行くしかない。

 トントン、トントン、俺は指で床を鳴らした。するとミズエはこちらをチラっと覗いた。
 「やっぱり。」
 「え?」
 俺の小さな声にも気づいたミヤシゲだったが、とりあえず無視した。
 
 音を立てないよう集中して一気に右足で踏ん張り、ナイフを突き立てて力を込めて、ひとっとびで跳んだ。
 ミズエはいきなり俺が跳んできて驚いていたけれど、かまってる暇はない。すぐに傷口を見たが、やはり傷は一切なかった。
 俺はミズエを抱きかかえて、また同じように跳び、元の場所に戻った。

 さすがっすわ!とかトシキが言ってたが無視した。俺はまた包帯を取り出した。
 「両手を出しな。」
 「あ、でも……」
 少し悪びれたような態度をとるミズエ。早くしなっと無理矢理包帯で掌を包んだ。
 「よし、これで大丈夫だ。」
 「あ、ありがと。けど…。」
 いいから。と俺はそれ以上ミズエが喋らないようにシーっと言って遮った。そして小声で伝えた。

 「兄貴も含めて他の全員が知らないみたいだけど、水組の人間の肉体が、ほぼ100%水でできてるって俺は知ってるから。」
 するとミズエはホッとした様子だった。
 「傷なんかつかないし、血も出ないだろ?」
 「うん。」
 彼女が言うにはクアリクに撃たれたのは分かったけど、そのまま倒れてみたら思った以上にアツイ展開になったから、そのまま撃たれて気絶したことにしようと思ったらしい。
 気まずそうだったのは、あくまで嘘をついていることに罪悪感があったからだった。

 「こんなの、知らない人も居るのね。」
 いたずらっぽく小さくミズエは笑った。
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