王子発掘プロジェクト

urada shuro

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第5章

ただいま。またね。(5)

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 シロクさんが帰って来たのは、あたしたちが更衣室に戻ってから十数分経った頃だった。
「お疲れ様です」と声をかけるも、なーんか違和感。あれ? その服装は……。

「シロクさん、なんで着替えてるんですか? その服、シロクさんの私服ですよね?」
「……マトリ。おれは王子候補を辞退することにした。これから、ライドへ戻る」
「えっ……?!」
「じたいってなに?」

 ナナシがシロクさんの腕を掴む。シロクさんは「……やめる、ということだ」とわかりやすい言葉で説明した。

「ななな、なんでですか?! 戻る……って、もしかして、ライド区でなにかあったんですか?!」
「……いや……問題があるのは、おれだ。どうやらおれには、魔法がかけられているらしい」
「ま、魔法っ……?!」

 シロクさんは頷くと、別室で大臣から聞かされたという話を語りはじめた。



 今を遡ること、九年前。この国でミグハルド大事変が起こった時のことだ。

 当時まだ十二歳だったシロクさんは、出先のレフド区で、偶然、悪魔女対国王軍の戦いの場に居合わせてしまったらしい。奇跡的に命は助かったものの、シロク少年はあまりに凄惨な場面を見てしまった。それを知った国王が、シロク少年の将来を考え、彼がミグハルド大事変で見たものすべての記憶を消す魔法を施すことを決定。秘密裏にメイラールドさんに頼み、実行した、という。

 当然、シロクさん本人は魔法で記憶が消されているため、そのことはまったく覚えていない。
 しかし、王国側には記録がある。あたしから送られてきた履歴書を見た大臣は、過去の記録と照らし合わせ、彼があの時のシロク少年だと気が付いた、という話だ。



 レオッカは、ソファに深く座り、腕と脚を組んだ。

「へぇ~。メっちゃんがそんなことしてたなんて、知らなかったなあ。なーんだ、メっちゃんの魔力がなくなったのは、僕だけのせいじゃなかったんじゃない」

 頬を膨らませて、シロクさんを睨む。
 あたしも、シロクさんをそっと見つめた。

 決戦の場に居合わせたということは、エミルドさんを見たという可能性が高い。シロクさんの漆黒の瞳は、彼の最期も目撃したのだろうか。まあ聞いたところで、シロクさんには記憶がないのだから、分からないだろうけど……。

「でもシロクさん……それが王子候補とどんな関係があるんですか?」
「……白の地でお祓いを受けると、その者にかけられている魔法も取り払われて……つまり、消えてしまうらしいんだ。そうなると、おれにかけられている魔法も解け、ミグハルド大事変の記憶が戻ってしまう。大臣はそれを危惧……つまり気にして、おれにお祓いを受けないほうがいいと教えてくれたんだ」

 シロクさんは、いつものようにナナシにもわかりやすく説明を加えながらゆっくりと話した。

 大臣、疑ってごめんなさい。別室に呼び出したのは彼のためだったんですね。
 なるほど。お祓いを受けないということは、お城には入れない、つまりは、王子にはなれないということだ。だから辞退する、帰る。そういうことか。

 ……ん? 待てよ?
 となると、シロクさんが国王に会うこともないってことで……。
 はっとして、思わず、シロクさんの腕を強く掴む。

「シ、シロクさん! 今から大臣捕まえにいきましょう! 国王様は無理でも、大臣ならまだその辺うろうろしてるかもしれないです! とりあえず、帰る前に、少しでも上の立場の人にライドのこと伝えないとっ……」

 シロクさんは宥めるように、自分の腕を握り締めるあたしの手を優しく引き離した。

「……いや、その必要はない。すでに先程別室で、ライドの現状を伝えることができた。すぐに調査隊を派遣し、現状を把握でき次第しかるべき措置を行ってくれるとのことだ。必ずライドに安全をもたらすことを保障すると、約束もしてくれた」
「えっ!! 大臣がそんなことを……?! ほ、ほんとですか?!」

 まさか、別室でそんなやり取りまで行われていたなんて。
 大臣てば、話が分かるじゃん。権力に弱い嫌なおじさんだと思ってたけど、見直したよ!

 シロクさんはナナシに向かって改めて説明し直し、小さく息を吐く。

 そして真剣な表情で……いや、彼はいつも同じ真面目な表情なんだけど、いつも以上にきりっとしてみえる眼差しで、あたしを真正面から見据えた。

「……おれが王子候補になった目的は、ライドを平和に導く為だった。すべては、我が一家の掟に従ったまでだ。マトリには不義理を果たすことになるが、こうなった今、おれは帰ってライドの為に尽力したい。勝手な申し出を、許してもらえるだろうか」

 端正なお顔にじっと見つめられて内心どきっとしつつも、あたしは拳を握り、声に力を込める。

「ゆっ、許すもなにも……! ライドが救われるのなら、あたしも嬉しいです。シロクさんが現場にいてくれた方が、ライドのみなさんも絶対心強いに決まってますし!」

 幸い、王子候補は他にふたりいる。ライド区の候補がいなくなってしまうけれど……大臣が直々に辞退を薦めたのだから、王国的にも問題はないはずだ。

「……このような結果を得られたのも、おれをここまで連れてきてくれたマトリのおかげだ。感謝してもしきれない」
「そ、そんな……あたしはただ、ほんとにシロクさんの人柄とかいろいろ……そういうのに惹かれただけで……」
「本当にありがとう。この礼は、いつか必ずさせてもらいたい」

 シロクさんは、視線を一切あたしから外さない。見つめ合っているようで、なんだか恥ずかしくなってきた。誤魔化すように、声を弾ませる。

「あの……じゃあまた、シロクさんに……一家のみなさんにも会いに行ってもいいですか?」
「おれも行く! またシロクとみんなと遊ぶ!」

 ナナシは飛び跳ねるように腕を伸ばした。シロクさんの獣耳を撫で、ははっ、と笑う。

「……ああ。ライドの治安が改善された後ならば、歓迎する」
「かんげい? ちあんがかいぜんってなに?」
「……歓迎というのは……」

 恒例の、ナナシQアンド、シロクさんA。
 この光景も、しばらく見られないと思うとなんだか感慨深い。

 門の外まで見送りたかったけれど、それはシロクさん本人に止められた。
 あたしたちに深々と一礼し、シロクさんがひとり部屋を出ていく。扉が閉まり、彼の姿が消えた瞬間、うるっときた。込み上げるものをぐっと堪える。

 ここ数日、彼とはずっと一緒にいた。頼りにもしていた。たくさん助けてもらった。
 あたし……シロクさんに会えて良かったな。エミルドさんっぽさを持ってるからってスカウトしたけれど、彼はそれを差し引いてでも十分素敵な人だった。

 彼のおかげで、教科者で読むだけでは分からなかった世界も知ることができたんだ。
 寂しいけれど、ライドが平和になったらまた会えるよね。
 いつか、シロクさんの笑顔も見れたらいいな、なんて。

 ふと、アニイセンパイの顔が浮かんでくる。
 セ、センパイ残念がるだろうなあ。
 ライドに行くときは、センパイも絶対誘わないと……!

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