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第10章(最終章)
可能性は、無限(2)
しおりを挟む「ふーん、そうなんだ。はじめて知った!」
ナナシはシロクさんの解説を聞いてそう言ったあと、大きな欠伸をした。そのまま、ベッドに倒れ込み、すやすやと寝息を立てはじめる。
まだ、昨日の疲れが残っているのだろうか。しっかりと彼の手に握られたままのフォークを、シロクさんが真面目な顔で回収した。
部屋に漂う甘い匂いに、ふとまろやかさが加わる。出どころを辿ると、うっとりとした表情でレオッカがカップのお茶にミルクを混ぜ合わせていた。
あたしはまた笑みを零し、ふと思い立つ。
昨夜寝ている間に誰かが部屋に運んでくれていたバッグを漁り、宝物を取り出した。
昨日という日を乗り越えられたのは、みんなのおかげだ。
あたし個人がどれだけ力になれたのかは分からない。
でも……自分なりに、やりきれた思う。あの戦いの中での自分は、前を向いていたから。
きみの可能性は無限だよ。
その言葉がくれた、自分を信じる心。
あたしがそれを持っている限り、あのひとはこの胸に居続けてくれる。
そうですよね、エミルドさん――……
あたしは表紙をそっと撫で、ぎゅっと魔法書を抱きしめた。
ドアがノックされたのは、その数分後だ。
入ってきたのは大臣……だけじゃない。イジェ様、マールマム様、そして……国王様?!
シロクさんが左脚だけで立ち上がり、一礼する。あたしの背中には嫌な汗が伝った。
そ……そういえば、あたしたちの処遇ってどうなるんだろ……?!
自分で言うのもアレだけど、あたしのせいで悪魔女の魔魂が復活したようなもんだし、裏庭とかお城とか壊れたし、白の地なんて使い物にならなくなってるし……!
思い起こせば、大臣が裁判がどうとか言ってたような……じゃあ、あたしは犯罪者?! 刑務所行き?! みんなはどうなるの……?!
国王様はご立派な顎鬚を撫で、咳払いをした。
「……マトリ・シュマイルズ」
「はっ……はひっ?!」
喉が鳴る。目が潤む。背筋が伸びる。し、心臓が、飛び出そう……!
「よくぞ、やってくれた」
「はっ……はいぃ…………?」
あたしは首をかしげた。あれ……? 今、褒められたような……?
聞き間違いではないらしい。国王様の御顔は笑みを湛えている。
「彼女だけではない。シロク。レオッカ。そして、ナナシ……は眠っておるのか? ともかく、ひとりの犠牲者も出さず、よく悪魔女の魔魂を葬ってくれた。国を救っただけではない。この9年間、余にとっては悪魔女の魔魂の存在がなによりの心痛だったのだ。どれほど国民に対して後ろめたかったことか……それをよくぞ、解消してくれた。感謝してもしきれぬぞ」
「あ、あのう……お咎めは……?」
「そんなもの、あるわけがなかろう。元々、お主をスカウト係に選んだのは余であるぞ。どんなことがあっても、その責任は余が取るのが筋だと思っておった……しかし、どうだ。想像以上の成果ではないか。余は大変満足しておる!」
国の最高権力者が、声を出して高らかに笑っている。
い、いいのかなあ……? 国王様が言うなら、いいんだよね……?
あああ、よかった……! 助かったぁ……! へなへなと床に座り込む。
「――ところで、ナナシくんのことだが」
ほっとしたのもつかの間で、大臣がそう切り出した。
今朝目覚めてから、あたしたちは一切、ナナシに本当の両親の事を問わなかった。また、ナナシもその件に関して何も口にしなかった。
あたしたちにはそれでよくても……国にとってはそういう訳にはいかないはずだ。無駄な抵抗かもと思いつつ、あたしは立ち上がって声を張る。
「あ、あの! 確かに、ナナシは悪魔女の子供かもしれません。でも、それはナナシも知らなかったことで、彼がいなければ、あたしは多分今ここに生きてはいられませんでした。全員、この中の誰ひとり欠けても悪魔女には勝てなかったと思うんですよね! 絶対! ナナシがいてよかったです! ホントに!」
「落ち着け、マトリ・シュマイルズ。それは分かっている。結果としてこうなった以上、国としては、ナナシくんを咎めるつもりはない。ただ……次期王子として迎え入れる事は、難しくなった。国民の……特にライド区民の中には、悪魔女への恐怖、嫌悪、憎しみを持つ者も多い。悪魔女の息子、というだけで、怯える者もいるだろう。その者たちを納得させ、悪魔女のイメージを払拭するのは、棘の道だ。それでも、彼本人が王子候補として努めたいというならば、国としても力を尽くさなくもないが……」
みんなの視線が集まる中、ナナシは緩みきった顔でくーくーと眠っている。
イジェ様がくすりと笑った。
「……可愛い寝顔ですこと。では、彼が起きてから聞いてみましょうか」
「ねえ、どうかしら。わたくしたちとしては、ナナシさんだけではなく、シロクさんもレオッカさんも、わたくしたちの子供として迎えたいと思っているのですが……」
マールマム様はひとりひとりと目を合わせるように、王子候補たちを見回した。
その肩を、イジェ様が抱く。視線は、シロクさんに向いていた。
「でも……無理は言わないわ。あなたは、もう遠回りする必要はなくなったんですものね」
ライドのために候補になった、という事情はご存知らしい。シロクさんは頭を下げた。
「……ご理解頂き、感謝いたします」
大臣はシロクさんに向かって一歩、前に出る。
「きみには、本当に申し訳ないことをした。ライドの件は、わたしが責任を持って指揮を取らせてもらう。それから……間もなく、きみの新しい義足も届くはずだ。受け取ってくれ」
シロクさんは大臣にも頭を下げた。
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