毒と薬の相殺堂

urada shuro

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第三章

オレのカラダ(2)

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「このあと、風音寺さんを研究室にお連れしたいのですが、よろしいですか?」
「あぁん?! いいわけねえだろ! んな話、聞いてねえぞ。あの部屋は俺の聖域だ。他人を入れるなんざ、パンツ脱がされるのと一緒だろーが」
「脱いでください」
「なにっ?!」
「我々が今行うべきことは、わが社の実態をお見せすることで誠意を伝えることです。社長の研究結果を実らせるためにも、風音寺さんの信頼を得ることは最優先事項でしょう」

 いつにも増して、やけに真面目な表情だ。これが仕組まれた演技だとしたら、たいした物だと思う。もっともこの社長なら、本物のパンツくらい平気で自ら脱ぎそうな気もするけど。

 社長はしばらく黙ったあと、大きく舌打ちをした。

「……しょーがねえなあ。わかった、脱げばいいんだろ。ただし、実験器具には触るなよ!」

 傷薬が完成するにはあと数時間かかるということで、見学は切り上げ、オレとマルカさんは滅菌室に戻った。
 元の服装に着替え終わったところで、自分の身体の変化に気が付く。背中のあたりが、じわりと重い。できれば休みたいけど……でもな。研究室はなにがなんでも、確認すべき場所だ。行ってから、座ろう。たぶん、椅子くらいあるよね?

 オレはマルカさんのあとに続き、階段で一階に下り、例の奥の部屋までやってきた。置かれた本や物の色が溢れ、相変わらず雑然とした印象を受ける。壁に掛かった、屋号の書かれた大きな木の看板が目に付いた。

「相殺堂」。そうだ。この文字だったな、そうさい堂って。

 マルカさんは部屋の角にいくと、床板の一部を外した。現れたのは、地下へと続く階段だ。地下室があったことに驚きつつ、ついていく。天井に点々とライトが灯ってはいるものの、それでも薄暗くて怪しい雰囲気に、ほのかな不安を感じる。恋人同士ならそれを口実にいちゃつくチャンスなんだろうけど、オレとマルカさんは別にそんな関係じゃないからなあ……

 あることを思い出し、はっとする。「あ……」と、思わず、声まで出た。

「……なんですか? どうかされましたか」

 階段を下り切ったところで、マルカさんがふり返る。オレは咄嗟に、視線を逸らした。

「いやあ、あの……こないだオレの家であんなことされたのに、オレと二人きりでこんな閉鎖的なとこに来て、マルカさんは平気なのかなあと思って」

 あんなこと、というひと言で伝わったらしい。マルカさんはキッと眉を上げ、腕を組んだ。

「べ、別に平気です。あなたのご自宅をあとにしてから、状況を整理してみてわかりましたから。あなたは我々を詐欺師だと思い込み、わたしを家から追い出したかった。だからわざと、わたしを襲ったのでしょう? そう気付いた後、あの時録音した音源も消去しました。あの時はお互い、認識不足だったという結論です」
「は、はあ……」
「しかし……あのような作戦しか浮かばないなんて、あなたは短絡的すぎるとは思いますが」

 心臓が跳ねる。オレの下で嗚咽を漏らす、幼気な姿が脳裏に甦った。

「……まさに。はい。そのとおりで……あの、ショックでした? あんなに泣いてたし」

 マルカさんの顔が、一気に赤くなる。胸に手を当ててうつむき、とがらせた唇がふるわせた。

「そ、それはっ……あんなことをされたら、誰だって……いえ、でも、平気ですので!」

 顔を背けて強がる仕草が、いかにもいじらしい。
 オレは一度、天を仰いだ。護身のための自分の行動が間違っていた、とは思わない。無事だったから思えるだけなんだけど……自分でも、後味の悪かったことだ。小さく、頭を下げる。

「ごめんなさい。ああいうのは、もうしません」

 マルカさんは瞠目した。気を取り直すように小さく咳払いをして、背筋を伸ばす。

「なぜ謝るのですか。わたしを詐欺師と思い込んでいたのですから、作戦を反省することはあれど、謝る必要はないでしょう」
「それはそうですけど……やっぱり、女の子にあれは悪かったかなと思って」

 しばらく、お互い無言で見つめ合う。やがてマルカさんが視線を落とし、小さく息を吐いた。気のせいか、またさらに赤らんで見える顔を隠すように、くるりと身をひるがえす。

「……あなたは変わった人ですね。そんな甘い考えでは、いつかひどい目に遭いますよ」

 オレは目を細めて苦笑した。誰が、どのお口で言っているんだか。拉致や不法侵入というひどい目なら、オレはとっくに遭ってるぞ。
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