泡沫の如く儚い平和

琴里 美海

文字の大きさ
1 / 44

第壱話

しおりを挟む
 今日は生憎の雨。私は少し窓を開けて外を見て、すぐに閉めた。今は丁度雨季なので、雨が降っているのは何ら可笑しな事じゃありません。
 私は氷柱。元々生贄として殺される筈でしたが、暁光さんと言う人に救われ、今は平和に暮らしています。あ、人と言いましたが人間じゃありません。暁光さんはとっても大きな炎の鳥です。
 部屋の襖が開かれると、暁光さんが立っていた。

「氷柱、飯食うか?」
「はい。」

 私は立ち上がって部屋を出て居間に移動した。
 何時も通りのとても美味しそうな匂いが部屋の中に充満していて、さっきまでは小腹が空いている程度だったけど、その匂いを嗅いだだけでお腹が鳴ってしまった。恥ずかしい。暁光さんを見ると、暁光さんが何故か顔を押さえてその場で蹲っていた。

「暁光さん?」
「もうヤダ、氷柱可愛い、辛い、尊い。」
「暁光さん!?」

 また何時も通り暁光さんがよく分からない状態になってしまった。こうなると戻るまでに少し時間が掛かるので、この間は基本的に私はわたわたしているだけです。
 やっと暁光さんが元に戻ると、大きく息を吐いてから御飯を持って来てくれた。

「ほい、召し上がれ。」
「いただきます。」

 私は合掌してからそう言ってお箸を手に取って食べ始めた。うん、やっぱり何時も通りとても美味しい。
 全部食べ終わると私はまた合掌した。

「御馳走様でした。とても美味しかったです。」
「御粗末様でした。」

 暁光さんが食器を片付けようとしたのを見て、私は慌てて自分で持った。

「私、自分で片付けます。」
「え。」

 何時までも暁光さんに全部任せっ切りなのは流石に申し訳ない。

「氷柱がどんどん自立していく。嬉しいのに死ぬ程寂しい。」
「暁光さん!?」

 また顔を押さえてその場に蹲ってしまった。

「そう言えば暁光さん、雀さん達は大丈夫なんですかね。」

 この家には雀さん、鳩さん、鶴さんがよく来ます。雀さんと鳩さんは情報屋と言うお仕事をしているので、この家にいない事の方が多いです。でも今は雨季。皆さんが雨に濡れていないかが心配で仕方が無い。

「大丈夫だろ。鳥ってのは天候の変化に敏感なんだよ。雨が降るなって思ったらすぐに何処かに避難するだろ。」

 本当にそうなのかなと思ったけど、そもそも鳥は空を飛んでいる生き物だから、確かにすぐに分かるかもしれない。じゃあ暁光さんも分かるのかな?
 再び外を見ると、やっぱり雨が降っている。

「さて氷柱、勉強するか?」

 待っていましたと笑って私は頷いた。暁光さんがまた変な声を上げて倒れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...