泡沫の如く儚い平和

琴里 美海

文字の大きさ
25 / 44

第弐拾五話

しおりを挟む
 外からの足音でおいらは目を覚ました。足音の重さからして何か重たい物を持っている。逃げる為の物か、それとも戦で使う武器か、流石に其処まではおいらには分からない。
 腕や足を確認すると、負っていた傷は治っている。こう言う時本当に人間じゃなくて良かったと思う。
 起こさない様に槿花を抱き上げ、洞穴の奥へ移動すると、おいらは息を殺して様子を伺った。

「本当にこの辺に子供なんていたのか?」
「さっき見たんだって、珍しい髪の色した子供をさ。」
「へー、じゃあ見世物小屋とかに置いたら相当売れそうだな。」
(糞ッ。)

 こいつ等おいら達を捕まえて売るつもりだ。おいらだけならまだしも、槿花にそんな事させるか。

「けど遠くから見ただけなんだろ?」

 おいら達が何処に行ったのかは流石に分からないらしく、洞穴の周辺でうろうろしているだけだった。もうそのまま何処かへ行け。そう思った時だった。

「なぁおい、これ足跡じゃないか?」
(!!!)

 そうだ、おいら達は飛べないから地面を歩いていたけど、それが見事に仇になった。外にある足跡に人間達が気が付いた。
 おいらは大きく深呼吸をしてから槿花をそっと降ろし、少しだけ足音を立てて洞穴の入口まで歩いて行った。

「ぅお!!」
「ほら言っただろ!?」

 外にいた人間は二人だけで、おいらは少しだけ安心した。大人数だったら何かあった時に勝てない可能性があるからだ。二人だったら、一人くらいは何とかなるかもしれない。
 人間達はおいらの髪の色に関してあれこれ言ってくるけど、別に不快に思ったりはしない。

「と言うか如何する?」
「そりゃまぁ連れて帰るに決まってるだろ。女子供は連れて来いって。」

 こいつ等、盗賊か何かか?
 そんな事を考えているとおいらの腕を掴んで来た。おいらは咄嗟に腕を払うと、その場から逃げようとした。

「あ、おい待て!!」

 そうだこっちに来い。おいらがいない間に槿花が目を覚まして泣く光景が目に浮かぶ。だけどそれで良い、それで槿花が無事ならおいらだって本望だ。だけど世の中思った様には事は進まない。

「にーちゃ?」
「!!!」

 おいらは慌てて止まって振り返ると、他の人間二人も足を止めて洞穴の方を見ていた。其処には目を覚まして心配そうな顔をしている槿花が立っていた。

「チッ!!!」

 おいらは人間二人の横を全速力で走って槿花の手を掴むと、その場からすぐに逃げた。

「逃がすな!!!」
「ありゃ妹は特に高く売れるぞ!!!」

 だからおいらは良いけど槿花にはそんな事させない。

「槿花!!鳥の姿になれるか!?」
「え、うん。」

 槿花が鳥の姿になると、おいらはさっきよりもずっと速く走った。流石に子供が此処までの速さで走れるとは思っていなかったのか、人間達の驚く声が聞こえる。
 このまま逃げ切れる。そう思っていると突然背中に痛みが走ってその場に倒れていた。

「は?」
「にーちゃ!!!」

 槿花は人の姿になると、おいらはすぐに自分の背中を見た。矢が二本背中に刺さっていて、地面に血が流れていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...