朱夏の日光に栄える森

琴里 美海

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第壱拾参話

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 私の問い掛けに朱夏は驚いた様子で私を見た。如何やら正解らしい。

「お前………いや、まぁ別にあれか、妖怪の居る館なんだし、隠さなくても良いか。」
「君は覚か何かなの?」
「いんや?あたしの両親はどっちとも人間だから、多分あたしだけ特殊なんだよ。別に村の奴等から迫害されたりとか、そんな事は無かったんだけど、まぁそんな訳の分からない力があるから、あたしは村を出て行ったんだ。」

 嘘は何も言っていない。だけど言わない事も幾つかあった。
 朱夏の気持ちは痛い程よく分かる。私も人の心の声が聞こえるから。まぁ私はまだ良い方だ。私は意識して初めて人の心が聞こえてくるけれど、覚は意識しないで心の声が聞こえてくる。多分だけど、朱夏は後者の方だろう。
 人間であれど神通力を持つ者は少なくとも存在する。力によるが、神格化されるか迫害されるかの二種類だ。朱夏は迫害はされなかったらしいけど、恐らく村に、人が居る場所に居る事に耐えられなくなって森で暮らすようになったのだろう。

「まぁあれだ、ついでに森の動物達とも少しは会話が出来るから、生活に困ったりはしなかったよ。」

 うん、この子逞しい。
 それにしても、色葉ちゃん嬉しそうだ。

「ありがとう。」
「え、何がだ?」
「私、疲れているって誰かに気付かれなかったから、何だか嬉しくて。」

 色葉ちゃんがそう言うと、朱夏は私を睨んで来た。うん、何だかごめんね。
 ふと何かを思い付いた色葉ちゃんは、ここ最近の事を朱夏に話し始めた。
 この森には人間側と妖怪側の二種類が存在して、時折人間がこちら側に迷い込んで来る。そんな人間を無事に帰す事、妖怪が人間側に行かないように見張るのが色葉ちゃんの役目。だけど困った事に、その役目が忙しいらしい。

「だから、何か良い案が無いかなって。」

 成程と呟いて朱夏は暫く考え込んだ。
 私は天井を見詰めた。何かあるだろうか、色葉ちゃんの負担を少しでも減らす方法。
 森の中が人間側と妖怪側で分かれているのなら、ならばいっそのこと………

「人間側専門の子が居れば、少しは楽なのかな。」

 ふと私がそんな事を呟くと、二人共同時に私を見た。あまりにも突然の事で、私は驚いて体を軽く動かしてしまった。

「その手があった!!」
「恵風お前流石だな!!」
「え、えぇ………」

 二人とも目を輝かせている。
 こうして森を守る存在は、色葉ちゃんの一人から、人間側専門のもう一人が増える事になった。
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