大雪の中咲く一輪華

琴里 美海

文字の大きさ
38 / 45

第参拾八話

しおりを挟む
 こう言う時にやはり自然と来てしまう場所は暁光の家であった。
 力無く戸を叩くと、暁光は随分と驚いた様子で出て来て中へ招き入れた。

「お前、如何したんだよ。薬は買えたのか?」
「うむ…………………」
「なら……………」
「薬には、何の意味も無いのじゃ。」
「は?」

 霰の病の原因が妾の妖気の暴走であるのなら、妾が離れるのが一番良い。しかし縁の繋がった霰の下を離れても、恐らく妖気は霰の下へ生き続け、霰の病を悪化させるであろう。体の動かせぬ霰を一人残して遠くへ行く事になってしまうのだ。
 人と妖かしの縁は随分と薄く脆い物じゃ。消えるとしても時間の問題。しかしその時間が経つまで霰の体は恐らく耐えられない。それでは何の意味も無い。何より霰が縁を切る気が無い。それでは薄れても完全には消す事は出来ぬ。

「暁光、そなた他者の縁を切る事は出来るか?」
「俺にはそんな能力無ェよ。」
「ならば………………『縁切りの神』を知らぬであろうか。」

 その名を出した途端、暁光は黙ってしまった。
 縁切りの神であれば、霰の意思は関係無しに妾と霰の縁を切る事が出来るであろう。その際霰が妾の事を忘れてしまうやも知れぬが、霰の為とあらば妾は喜んで霰の中から消えよう。
 妾の決意は固いぞ、そなたが今何を考え込んでおるのかは分からぬが、どれだけ説得しようと妾はこの決意を曲げたりはせぬ。

「…………………お前は、本気で縁を切る気なのか?」
「無論。」

 暁光は大きく溜め息を吐きながら頭を掻いた。

「都の方に縁を切る蛇の神がいる。蛇神かがちだ。」
「感謝するぞ暁光。」

 妾はすぐに立ち上がると、暁光が呼び止めて来た。

「あ、その前に一つ。お前の思う様な結末にはならないかもしれないからな。」

 どう言う事かは分からぬが、内容を聞いている場合ではないと妾はすぐに暁光の家を飛び出し、都を目指して飛び立った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...