炎陽の下吹く恵風

第五話

　はてさて、この状況を私は何と受け取ったら良いのやら。
　何故なら早瀬が帰って来てから暫く経った後に帰って来た炎陽ちゃんが、何故か妖しの血に塗れた状態で帰って来たのだから。
　まぁ大体の事情は早瀬から聞いてはいた。山の頂上の方で妖しと遭遇したらしく、二人で撃退したと。だけどね、うん、その、何で人間の子供で女の子の炎陽ちゃんが、両手で二つに引き裂くなんて、そんな芸当で倒すの。私兎に角色々と驚きが隠せないよ。まず男だろうと女だろうと、人間の時点でそんな事出来る出来ないは置いといてやらないよ。
　で、如何して血塗れなのかと聞くと、帰る途中で川に寄って洗ったのに、何故か落ちなかったとの事。

「えっと、取り敢えず、水浴びじゃ風邪引くから、お風呂に入ろうね。」

　と、そう言って立ち上がって、早瀬達の家から一度出た。
　にしてもお風呂か、早瀬は狼だから風呂なんて物がある訳が無いし、彼女は自分の事を人間と思っていないし、そもそもの話人間が嫌いだから、人里に降りて風呂を貸してもらうなんて出来る訳が無い。と言うか、私が人里に降りられない。理由は簡単、背丈が明らかに人間の背丈じゃないから。一応一丈近くあるからね。
　と言う事は結果的に、風呂はあるけど人間がいなくて、私が出入りしても問題の無さそうな所、と言う事になるけど、そんな所こんな所にあるのかな。
　暫くの間考えて思い付いた場所が一つだけあった。

「あぁそうだ、薄暮はくぼの館があったじゃないか。」

　あそこなら唯一この条件を満たしてくれる。

「炎陽ちゃん、今から出掛けられる?」

　寝床の中に居る炎陽ちゃんに向けてそう言うと、少しして炎陽ちゃんが出て来た。それにしても妖しの血は臭うな。この世の存在にだったら、そんなに感じられない臭いなんだろうけど。

（何処に行くんだ?）
「お風呂を借りに。」
（さっきも言ってたけど、風呂って一体何なんだ?）

　うん、まぁ知らないよね、野生動物として暮らしてたら。

「良い物だよ、私は大好きだ。兎に角行こう。」

　ね?と軽く首を傾げつつそう言うと、炎陽ちゃんは少し不満そうにしつつも頷いてくれた。
　早瀬は出て来てすぐに私を見た。

（どうせ行くなら、少し頑丈そうな服を着せてあげて。ついでに毛並みも整えて。）
「毛並みって…………」

　まぁそう言う言い方の方がこの子達にとっては日常か。
　私は炎陽ちゃんの手を引いていこうと手を掴むと、凄まじい速さで振り解いて、両手を地面に付けて威嚇してきた。何か凄い、大きさ的な問題で猫に見えてきた。って、そんな事は如何でも良いか。
　どうやら手を繋いでくれる気は一切無い様で、仕方が無いから離れないように念を押して、一緒に歩いて行った。