炎陽の下吹く恵風

琴里 美海

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第壱拾四話

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 この村は長閑で良い村だ。昔から人は少し騒がしいところがあるけれど、平和でとても良い村だ。
 以前来た時は、果たして何年前だったんだろう。あの頃の亥助はまだとても若かったのに。いやはや、時の流れと言うのは実に早い物だなぁ。もう少しでも目を離したら、亥助も歳で死んでしまいそうだ。
 すぐ近くの家の客間に通されると、私は真っ先に炎陽ちゃんを見た。特に怪我とかはしてない様子だから、あの後人喰い妖怪に襲われたりとかは無かった様だ。あぁ良かった。
 少しして部屋に亥助と女の子が入って来ると、何故か炎陽ちゃんが警戒した様子で女の子を見た。

「えぇと、君は…………」
「はい!!お初にお目にかかります!!!手前は環と申しまする!!!恵風様のお話は、日頃から曾祖父の亥助より伺っております!!!どうぞ宜しくお願い致しまする!!!」

 そう言ってそれはそれは深く頭を下げた。それも凄まじい勢いで。今、この子座っていたら床に頭をぶつけていただろうな。
 二人は私達の向かいに座ると、亥助は環ちゃんに話し掛けている。成程、彼女は亥助の通訳か。確かに亥助は今ちゃんと喋る事が出来ないから。

「えぇでは、僭越ながら手前が曾祖父の言葉をお伝え致しますので、何なりとご質問をおっしゃってください!!!」
「そうだなぁ、じゃあまず、君子供がいたんだね。」
「ほっほっほ。」

 まぁ最初はこのくらい軽い話の方が良いだろう。何より炎陽ちゃんの環ちゃんに対する警戒が未だに解けない様だし。私が来るまでの間に一体何があったんだろうか。と、そんな事は置いといて、そろそろ本題に入らないと。

「じゃあ質問なのだけど、私が来た時に炎陽ちゃんの事を『森神様』と呼んでいたけど、あれは一体如何言う事なんだい?」

 私がそう問い掛けると、亥助は環ちゃんに耳打ちをして、それを環ちゃんは頷きながら聞いている。
 一通り聞いたのか、環ちゃんは私達の方を向いた。

「それは至極簡単、その方が森と人間に平穏をもたらす森神様だからでございます!!!」

 私は少し炎陽ちゃんを見るが、炎陽ちゃんも何の事だか全く分かっていない様子だった。

「えぇと、申し訳無いけど、一から説明してもらって構わないかな。」
「はい!!一からとなると少々長くなりますが、ご説明致します!!!まずこの村は恵風様が最初に訪れた時よりも昔に、とある理由から二つに分かれました!!!」

 それは確か、昔亥助から聞いた事がある。今亥助や環ちゃん達がいるこの村は、あくまでも森や自然、妖怪や妖し達と共に生き、尚且つ人とも暮らしていく事を望む、至極平和な村だ。だけど山を挟んだ向こう側に、この村から出ていたもう一つの勢力の村がある。

「彼等は妖怪や妖し達の力を利用し、森や自然、人間達を支配して自分達が世の頂点に立つ事を目的としています!!!」
「それは知っているよ、だからこそ私はその村の人間達に襲われたのだから。」

 それを聞いた瞬間、皆驚いた様子で私を見た。

「それは何と罰当たりな!!!」
(恵風、今の如何言う意味だ?お前まさかあの時空を飛んでた大きな蛇なのか?)
「…………え!!?炎陽ちゃん気付いてなかったの!!?」
(気付くも何も、あたい今の人間の姿の恵風しか見た事無いぞ。)

 いや、だとしてもだよ。だとしても龍が居た場所にいたし、何より人間の姿になってもこの背丈だよ?普通分かるでしょ。っていやそうじゃない、それは今は如何でも良い。

「えっと、それでその二つの村と、炎陽ちゃんが森神様と呼ばれている事は、一体如何言う関係が?」
「あぁそれはですね!!」

 と、環ちゃんが理由を言おうとした瞬間、背筋に寒気が走った。それはもう今この場にいる全員はが口もきけなくなるくらいの寒い。そしてそれと同時に空が真っ暗になった。

(この妖気!!)

 私は知っている、この妖気の持ち主を。いや、強いて言うなら一人しか知らない。

 空は未だ暗いまま。

 私は唾を思い切り飲み込むと、自身を奮い立たせ、すぐに立ち上がって外へ飛び出した。
 空を覆い尽くす黒は、山の頂上へと流れて行った。
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