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第壱拾六話
しおりを挟む「テメェあれか?前の森の長の濤の番いの雌か?」
瑞光のその言葉を聞いた瞬間、早瀬の表情が強張る。濤は早瀬の死んだ夫だ。如何して瑞光がその名前を…………
「いや、それに関しちゃ色々と悪かったと思ってんだよ、村の人間が手っ取り早く森を手に入れたいって言うもんだから、長を殺すように仕向けたんだけど、よくよく考えりゃ番いの雌に何か謝ってたから、早々に殺してあの世で一緒にしてやろうと思ってたんだが、すっかり忘れてたんだよ!!」
途端早瀬が雄叫びを上げる。
「まっ!!!早瀬!!!」
地面を蹴って早瀬は瑞光に飛び掛かった。私はすぐに早瀬に手を伸ばしたが、早瀬が速く、その手は届かなかった。
早瀬が瑞光の首に噛み付こうとした瞬間、瑞光は軽く手を振って早瀬を地面に叩き付けた。
「ッ!!!」
衝撃で気を失ったのか、早瀬はその場から動かない。そんな早瀬に瑞光は足を乗せた。
「犬ころが俺様に噛み付こうたぁ良い度胸じゃねぇか。」
瑞光が手をゆっくりと上げると、その手に突如黒い炎が燃え盛った。
「止めろ!!!」
慌ててそう叫ぶと、瑞光は冷たい瞳で私を見た。
「おいおい、止めろなんて、テメェも随分と残酷な事言うよな、なぁ恵風さんよぉ。見たところ、こいつはまだ番いの事を大切に思ってるんだ、だったら一匹だけで生かしておくなんて、そっちの方が酷いじゃねぇか。」
「そんな理由で殺して良い訳が無い。」
兎に角何とかして止めないと。あぁだけどこの距離じゃ私が走っても、彼が早瀬を殺す方がずっと早い。一体如何したら良い。
万策尽きたかと諦めかけた時、凄い速さで横から炎陽ちゃんが瑞光の顔目掛けて飛び掛かった。
「なっ!!!」
「炎陽ちゃん!!?」
炎陽ちゃんが瑞光の顔を思い切り引っ掻き、更に顔面に蹴りを入れると、手に灯っていた黒い炎が消えた。
その隙に一気に瑞光の下まで走って、瑞光に体当たりをして早瀬の上から退かし、炎陽ちゃんを連れて行こうとした時だった。
「っ!!!」
腹部に走る痛みと、液体の滴る音。
少しずつ視線を下に落とすと、瑞光の左腕が私の腹部に突き刺さっていた。
一瞬の混乱の後、すぐに炎陽ちゃんに手を伸ばしたが、瑞光に思い切り蹴り飛ばされ、結構な距離飛んで地面に叩き付けられた。
(恵風!!?)
「テメェは…………何時まで引っ付いてんだ!!?」
その声と地面に何かが落ちる音ですぐに起き上がった。そして真っ先に入って来た光景は、瑞光に炎陽ちゃんが踏まれている景色だった。
「よぉ糞餓鬼、俺様に向かって来たその根性は認めてやる。だけどな、調子に乗り過ぎなんだよ!!!」
その直後炎陽ちゃんの体は宙に舞っていた。何が起きたか考えなくても分かる、瑞光に蹴られたんだ。
瑞光を見ると、まだ宙に浮いている炎陽ちゃんに狙いを定めている。
「止めろ……」
駄目だ、それはいけない。彼女は殺されたらいけないんだ。
この森の為にも、私自身の為にも。
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