炎陽の下吹く恵風

琴里 美海

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第壱拾七話

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 一瞬だった。この黒髪の男に蹴り飛ばされて、宙に浮いた時、確実に死んだと思った。なのにあたいは今こうして恵風に抱えられていて生きていて、逆にあたいの事を殺そうとしてきたこいつの右腕が、今宙を舞っている。
 正直何が起きたのか分からなくて、唯困惑しながら、あたいと同じように驚いている黒髪の男を見た。
 不快な音を立ててそいつの腕が地面に落ちると、黒髪の男は地面に転がっている自分の腕を見た。

「……………くっくく…………っはははははははははははははは!!!」

 何故か男は笑った。いや、今この状況において笑うって、こいつ頭可笑しいんじゃねぇのか?腕飛んで行ったんだぞ?そう思った次の瞬間、無くなった筈のそいつの右腕が突然生えてきた。

(!!?)

 え、ちょっと待て、今何が起きたんだよ。確かにこいつの腕は地面に落ちてるのに。いやそもそも取れたら治らないだろ。

「炎陽ちゃん仕方ないんだよ、これが神って物だから。」

 ふとあたいは恵風の原を見た。確かにさっきこいつに貫かれていたのに、その傷が何処にも見当たらない。
 ってか待て、神って如何言う事だ。
 色々と聞きたい事があるのに、恵風はあたいを地面に降ろした。

「いやこれは驚いた。まさか『不努おこらずの青龍』で知られる恵風さんが怒るとは!!!」

 青龍?

「そんな事は如何でも良いよ。ここまで来て戦わないで終わるなんて、そんな事無いよね。」
「あぁ当たり前だろ。」

 その直後だった、空にそれはもう大きな真っ黒い炎の鳥と、緑の龍が飛んでいた。
 あちこちに炎が飛んで来たり、雷が落ちて来たり、突然地震が起こったり、大雨まで降り出してきた。
 兎に角此処は危険だと思ったあたいは、母さんを連れて寝床まで戻る事にした。

 母さんを抱えて、山を下って、何とか寝床まで辿り着くと、母さんを寝かせた。
 一体何が起きているのか、あたいには全く分からなかった。だけど恵風が戦ってる事は紛れもない事実だ。あいつ一人が戦ってて、あたいは隠れてるなんてのは格好が悪い。
 あたいはすぐに立ち上がった。

(炎陽………)

 母さんがあたいの名前を呼んだ。
 あたいはすぐに母さんの方を向くと、何時の間にか目を覚ました母さんがあたいを見ていた。

(炎陽、恵風と一緒に戻って来なさい。どちらか片方だけ、何て事は許さないからね。)
(母さん…………)

 本当は今色々と言いたい事とか聞きたい事があるけど、今は恵風を迎えに行く方が先だ。

(行ってくる。)

 あたいは寝床を飛び出した。
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