炎陽の下吹く恵風

第壱拾九話

　あれ、何で恵風も黒髪の男も滅茶苦茶驚いた顔してあたいを見てんだ?ってか、さっきまであんなに苦しかったのに、今何ともない。恵風が何かやった、って感じじゃないな、この驚いてる感じからして。

「え、炎陽ちゃん…………君、大丈夫なの?」
（大丈夫だから今こうして起きてんだろ。）
「………っは、っはは!!うっわ何だよそれ!!」

　黒髪の男が急に笑い出すと、あたいは黒髪の男を見た。

「あー成程な、何か変な妖気を発してたが、俺様の血で死なないので決定打だ。まさか『現人神あらびとがみ』とは思ってなかった!!いやぁ恐れ入った!!」

　え、こいつ何言ってんだ?

　訳が分からないから取り敢えず恵風を見た。恵風は恵風で、相変わらず驚いた顔してこっち見てきやがる。

「さてと、色々楽しんだし、俺様帰るわ。」
「なっ!!君何言って………」
「つーか元々唯の下見のつもりだったし、これ以上此処にいる理由が無ェしなぁ。つー訳で、じゃあな。」

　そう言うとそいつの足元から真っ黒い炎が噴き出して、そいつは炎に包まれた。炎が消えた時、そいつは其処には居なかった。
　色々と訳が分からないんだけど、取り敢えず何故か恵風があたいの事抱き締めたまま離してくれない。いやこいつ力強い、痛い。

　兎に角離せと恵風は驚いた顔をしてあたいを見てくる。いやもう良いから、驚いてんのはあたいも同じだから。ってか母さんが恵風も連れて二人で帰って来いって言ってたんだよ。だからほら、早く帰るぞ。あたいも母さんに聞きたい事あるし。

「…………うん、そうだね。」

　恵風はあたいを抱き締めたまま立ち上がると、そのまま寝床に向かって歩き出した。