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第弐拾弐話
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出て行ってしまった炎陽ちゃんの後姿を、私は特に何も言わずに見えなくなるまで見詰めていた。うん、確かにあの子にはこの話は難しかったかもしれない。だってあの子は森の事も村の事も、そもそも自分の事も何も分からなかったのだから。やっと分かった自分の素性が、そんな物だったら、誰であっても困惑するだろうなぁ。
私は早瀬を見ると、早瀬は特に何も言わず、目を閉じたままジッとしている。
「うーん、私上手く説明出来てなかったかな…………」
色葉ちゃんの困った声が聞こえると、私は微笑みながら色葉ちゃんを見た。
「大丈夫だよ、多分あれが一番簡単な説明だと私も思う。それにほら、あの子は色々と少し特殊だから、仕方ないと思うよ。」
狼に育てられた当たりとか、特に特殊だと思う。
それにしても、早瀬は随分と落ち着いてるなぁ。もう少し驚いたり取り乱したりすると思っていたんだけど、
「早瀬。」
私が声を掛けると、早瀬は目を開いて私を見た。
(何?)
「追わなくて良いの?」
(今私が追ったら逆効果じゃない?)
うん、まぁ確かにそうかもしれない。全て知っていて話してくれなかった事を怒っているのだから。
さて、取り敢えず私は炎陽ちゃんを探しに行くとしよう。
一度立ち上がってその場にいる皆に軽くお辞儀をしてから、私は外に出て炎陽ちゃんを探しに行った。
それにしても、あの子は何かあるとすぐに何処かに走って行ってしまうなぁ。きっと当ても無く走っていたら、余計な事を考えなくて済むのだろうか。あぁでも何となくその気持ちは分からなくもないかな。私も昔色々と考え込んだ時、唯当ても無く、目的も無く空を飛び回って頭の中を空っぽにした事があった。
さて、それにしても炎陽ちゃんは何処に行ったんだろう。多分村の中にはいないだろうし、そうなるとまぁ必然的に森の中かな。
動物達に聞こうかな。まぁきっとそっちの方が早い。
「こんにちは。」
近くの木の上に居る鳥や小動物達に話し掛けた。あの子の見た目はやはり特徴的で、少し口に出しただけで見たか見てないかを教えてくれる。
少しの時間だけで炎陽ちゃんの居場所を突き止める事が出来た。
炎陽ちゃんがいたのは、森の中の開けた空間。木々はまるで円を描く様に生え、そしてその中心には、実に見事な巨木が生えている。少し急な坂の上からは滝があり、川が流れて行っている。そしてそんな巨木の周りには色とりどりの花が生えている。
そんな巨木の根元に、炎陽ちゃんは膝を抱えて顔を埋めて座っていた。
「炎陽ちゃん。」
目の前まで歩いて行って声を掛けると、少し顔を上げて私を見て、またすぐに膝に顔を埋めてしまった。
私は何も言わず、炎陽ちゃんの隣に腰を下ろした。
「大丈夫?」
と聞いてみたけど、実際私は大丈夫とは思っていない。だから何も言わない彼女を見て、私の予想は見事に当たっていた。
暫く何も言わずに唯彼女を見ていた。
ふと空を見上げると、木々の隙間から差し込む光が丁度私に当たっていて、少し眩しくて目をすぼめた。
「此処はね、私の好きな場所なんだ。」
唐突にそんな取り留めのない話を、私は一人で勝手に始めた。
「昔、一緒に此処に木を植えた子がいてね、その子に言われたんだ、『この場所を好きでいて』って。まぁそんな事言われなくても好きなんだけどね。」
もう何年前かも覚えていないくらい、そのくらい昔の話だけど。でも私は今でも忘れられない人。
ふと袖が引っ張られると私は炎陽ちゃんを見た。相変わらず顔を上げないままではいたけど、私の袖を引っ張っていた。
(なぁ恵風、あたい如何したら良いんだ。)
「…………如何と聞かれると、それは難しい質問だなぁ。ただ、君はもっと知らなきゃいけない事が沢山あると思うんだ。だからね。」
私は炎陽ちゃんの顔に手を伸ばし、少し無理矢理かもしれないけれど顔を上げさせた。
「帰ろう。」
泣いていたのであろう、少し赤くなった目は困った様子で私を見ていたが、暫くして炎陽ちゃんは何も言わずに頷いた。
無事に村まで炎陽ちゃんを連れて戻る事に成功した私は、改めて彼女から、早瀬から色々と話を聞く事にした。
「さて早瀬、森の代表として、今度は君が炎陽ちゃんに話をしないといけない番だ。」
私がそう言うと、早瀬は暫く目を瞑ったまま黙っていたが、やがてゆっくりと目を開き、炎陽ちゃんに語り始めた。
(それはそうね、大体十年と少し前くらいだったかしら。あそこで貴方を拾ったの。)
私は早瀬を見ると、早瀬は特に何も言わず、目を閉じたままジッとしている。
「うーん、私上手く説明出来てなかったかな…………」
色葉ちゃんの困った声が聞こえると、私は微笑みながら色葉ちゃんを見た。
「大丈夫だよ、多分あれが一番簡単な説明だと私も思う。それにほら、あの子は色々と少し特殊だから、仕方ないと思うよ。」
狼に育てられた当たりとか、特に特殊だと思う。
それにしても、早瀬は随分と落ち着いてるなぁ。もう少し驚いたり取り乱したりすると思っていたんだけど、
「早瀬。」
私が声を掛けると、早瀬は目を開いて私を見た。
(何?)
「追わなくて良いの?」
(今私が追ったら逆効果じゃない?)
うん、まぁ確かにそうかもしれない。全て知っていて話してくれなかった事を怒っているのだから。
さて、取り敢えず私は炎陽ちゃんを探しに行くとしよう。
一度立ち上がってその場にいる皆に軽くお辞儀をしてから、私は外に出て炎陽ちゃんを探しに行った。
それにしても、あの子は何かあるとすぐに何処かに走って行ってしまうなぁ。きっと当ても無く走っていたら、余計な事を考えなくて済むのだろうか。あぁでも何となくその気持ちは分からなくもないかな。私も昔色々と考え込んだ時、唯当ても無く、目的も無く空を飛び回って頭の中を空っぽにした事があった。
さて、それにしても炎陽ちゃんは何処に行ったんだろう。多分村の中にはいないだろうし、そうなるとまぁ必然的に森の中かな。
動物達に聞こうかな。まぁきっとそっちの方が早い。
「こんにちは。」
近くの木の上に居る鳥や小動物達に話し掛けた。あの子の見た目はやはり特徴的で、少し口に出しただけで見たか見てないかを教えてくれる。
少しの時間だけで炎陽ちゃんの居場所を突き止める事が出来た。
炎陽ちゃんがいたのは、森の中の開けた空間。木々はまるで円を描く様に生え、そしてその中心には、実に見事な巨木が生えている。少し急な坂の上からは滝があり、川が流れて行っている。そしてそんな巨木の周りには色とりどりの花が生えている。
そんな巨木の根元に、炎陽ちゃんは膝を抱えて顔を埋めて座っていた。
「炎陽ちゃん。」
目の前まで歩いて行って声を掛けると、少し顔を上げて私を見て、またすぐに膝に顔を埋めてしまった。
私は何も言わず、炎陽ちゃんの隣に腰を下ろした。
「大丈夫?」
と聞いてみたけど、実際私は大丈夫とは思っていない。だから何も言わない彼女を見て、私の予想は見事に当たっていた。
暫く何も言わずに唯彼女を見ていた。
ふと空を見上げると、木々の隙間から差し込む光が丁度私に当たっていて、少し眩しくて目をすぼめた。
「此処はね、私の好きな場所なんだ。」
唐突にそんな取り留めのない話を、私は一人で勝手に始めた。
「昔、一緒に此処に木を植えた子がいてね、その子に言われたんだ、『この場所を好きでいて』って。まぁそんな事言われなくても好きなんだけどね。」
もう何年前かも覚えていないくらい、そのくらい昔の話だけど。でも私は今でも忘れられない人。
ふと袖が引っ張られると私は炎陽ちゃんを見た。相変わらず顔を上げないままではいたけど、私の袖を引っ張っていた。
(なぁ恵風、あたい如何したら良いんだ。)
「…………如何と聞かれると、それは難しい質問だなぁ。ただ、君はもっと知らなきゃいけない事が沢山あると思うんだ。だからね。」
私は炎陽ちゃんの顔に手を伸ばし、少し無理矢理かもしれないけれど顔を上げさせた。
「帰ろう。」
泣いていたのであろう、少し赤くなった目は困った様子で私を見ていたが、暫くして炎陽ちゃんは何も言わずに頷いた。
無事に村まで炎陽ちゃんを連れて戻る事に成功した私は、改めて彼女から、早瀬から色々と話を聞く事にした。
「さて早瀬、森の代表として、今度は君が炎陽ちゃんに話をしないといけない番だ。」
私がそう言うと、早瀬は暫く目を瞑ったまま黙っていたが、やがてゆっくりと目を開き、炎陽ちゃんに語り始めた。
(それはそうね、大体十年と少し前くらいだったかしら。あそこで貴方を拾ったの。)
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