炎陽の下吹く恵風

第弐拾九話

　寝床を目指して歩いている最中、森の中は殆ど真っ暗になった。まぁ木が生えてるから、暗くなるのが早いのは当たり前だけどな。

「それにしても炎陽ちゃん、ここ数日で大分人間らしくなったね。」
「そーか?」
「うん。まぁまだ喋るのは苦手みたいだけど。」

　そんな話をしてる途中、遠くから足音が聞こえて来た。

「炎陽ちゃん?」

　足音の聞こえる方向は、環達の村のある方向とは違う方向だ。それに一人二人の足音じゃない。結構な人数がいる。
　あたいはすぐに恵風の腕を掴んで、その辺の茂みの中に飛び込んだ。

「え、炎陽ちゃ……」
「しっ。」

　松明の明かりが見える。数は八つ。と言う事は人数は八人って考えて良いのか。そんな事は如何でも良いとして、さて如何やって気付かれないで帰ろう。
　何かこんな時だけど、前に環が話していた事を思い出した。昔、今環達がいる村と喧嘩か何かして別の所に村を作った奴等がいるとかなんとか。もしも、もしも今すぐ近くにいる奴等がその村の奴等だとしたら、今結構厄介なんじゃないか。

（恵風、あいつ等。）
「不味いなぁ…………」

　声を掛けたけど、恵風は独り言をずっと言っていて、あたいの声は聞こえていないみたいだった。

（恵風、不味いって何がだよ。）
「何とかしないと駄目だよね……………」
（恵風!!!）

　あたいが恵風の頭を叩くと、やっとあたいの声が聞こえたみたいだった。

「あ、炎陽ちゃん。」
（恵風不味いって何がだよ、それにあいつ等って。）
「うん、悪い人達の集まりの村の人間だよ。さっきから悪意が風に乗って伝わってくる。」

　恵風は人間じゃないから、そう言うのよく分かるんだろうけど、でも確かに何か、決して良い感じはしないし、それに正直言うと今大分気持ちが悪い。これが悪意剥き出しの人間の臭いか。最悪だ。
　兎に角離れようと動いた瞬間、頭に突然痛みが走って、そのままあたいは気を失った。