炎陽の下吹く恵風

琴里 美海

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第参拾四話

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「恵風は死なないからって、自分に対して無頓着過ぎる。だからこうして怪我をするんだ。ま、すぐに治っちゃうけど。」

 うん、そうだね。まぁそう言われても中々直せる物じゃないよ。これで何百年と生きているんだから。

「ははは!!だけどあれだな、あたしは恵風が怪我をしたら悲しいよ。だって恵風だって怪我をしたら痛いだろう?痛そうな顔をするし。」

 あ、表情に出ていたんだ。

「あぁ出てる。何だかんだ顔に出やすいぞ恵風は。」

「朱夏……………」

 目を開いて真っ先に目に入ったのは、私の顔を覗き込む環ちゃんだった。

「お気付きになられましたか!!!」

 起き上がると頭に痛みが走った。困ったな、今記憶が明確じゃない、一体何があったんだっけ。
 確か炎陽ちゃんを彼女の寝床に連れて帰ろうと森の中を歩いていたら、何故か環ちゃんがいて、如何してこんな所にと聞こうとしたら…………
 私はそこまで記憶を辿った瞬間、霧掛かっていた記憶が一気に明確になり、すぐに環ちゃんを見た。

「環ちゃん!!あの後森に入った!!?」
「あの後とは、恵風殿と炎陽殿を見送った後でしょうか?それでしたら食事の準備をしたり、明日の炎陽殿の勉強で何をお教えするかを考えたりしておりましたので、森へはそもそも近付いてすらおりません!!!」
「………………」

 私が突然大きな声を出して、そのせいで少し驚いてはいるけれど、如何やら嘘は吐いていない。と言う事は、あの子は環ちゃんとは全くの別人って事だ。

「あの、恵風殿、もしかしまして、手前とよく似た人間にでもお会いしましたか?」
「あ、うん。もしかして何か知っているの?」

 そう言うと、普段常に笑顔の環ちゃんが、急に真剣な顔をした。そして勢い良く頭を下げた。

「申し訳ございません!!!それは手前の双子の姉、紡でございます!!!」

 姉妹。それも双子の。成程、それは確かに似ている訳だ。
 だけど、あの子はこの村で一度も会った事はおろか、見かけた事すら無い。この村は他にならありそうな双子に対しての偏見も無いし、そもそも妖怪だろうと、見た目の普通ではない炎陽ちゃんだって、簡単に受け入れてしまう度量の広さがある。だったら閉じ込められていたと言う事は無い筈。
 と言う事は、必然的に彼女はこの村には居なかったんだ。
 それにしても如何して環ちゃんは謝ったんだろう。と、私が疑問に思っていると、環ちゃんはまた勢い良く頭を上げた。

「姉の紡はどう言う訳か、この村の人間の思想とは大きく異なった考えを持っておりました。それ故にもう一つの村へと行ってしまったのです。」

 あぁやっぱり、随分と悪意に満ちた表情をしていたのはその為だったのか。

「そう言えば環ちゃん、如何して私は此処に?それに炎陽ちゃんは?」

 私の問い掛けに対し、環ちゃんは首を傾げた。

「恵風殿に関しましては、本日森へ食料を調達しに行った者が発見しましたので、何人かで此処へ運びました。ですが炎陽殿は傍には見当たりませんでした。」
「え…………」

 私が気を失ったあの時、まだ炎陽ちゃんは意識が戻っていなかった筈だ。と言う事は炎陽ちゃんは相当危険な状態で放置されてしまったんじゃ。いや、放置じゃない。放置されたのは私だ。その近くに居なかったと言う事は、紡ちゃんに連れて行かれたんじゃ。
 それはいけないとすぐに立ち上がったけど、立ち眩みがしてその場に膝を突いた。

「恵風殿無理はいけません!!!今村の数人が森の中へ入り、炎陽殿を探しております故、恵風殿は暫くこちらでお休みください!!!」

 そう言って環ちゃんは部屋から出て行った。確かに、今の私じゃ探しに行く事はおろか、碌に動けそうにない。だけどこんな風に焦っているのは、昔の事を夢に見たからなんだろうなぁ。
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