炎陽の下吹く恵風

琴里 美海

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第参拾五話

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 暫く紫蘭母さんと色々と会話をした。環のいる村の話とか、この村の話とか、森の事とか。他にもいろんな事。
 会話に一段落つくと、あたいは一度立ち上がって壁の溝に手足を突っ込んで壁をよじ登った。特に壊れそうな所とかは見付からないし、風が吹いてこないからそもそも外に通じてる穴は無さそうだった。

「え、炎陽、危ないから降りなさい。」

 そう言われてあたいはそのまま飛び降りると、紫蘭母さんはそれはもう驚いた顔をしてから、慌ててあたいに駆け寄って来た。

「だ、大丈夫!?足の裏痛めたりしてない?」
(平気だって。そもそも森の中じゃ普通に木の上から飛んだりしてたし。)
「え!!?」

 いや、そんなに驚くかな。こんな恵風が立ったら確実に頭ぶつけるくらいの高さ、飛び降りたって怪我なんかしないって。結構昔に滝から飛び降りた事だってあるし。でも、それはあたいにとっての、森で暮らしていたからこその考え方で、普通の人間の紫蘭母さんからしたら、驚き以外の何物でもないのかな。
 まぁそんな事は如何でも良いとして、早いとこ此処から出たい。さっき紫蘭母さんの腕触ったけど、結構細い。碌に食い物食えてないんだ。だから早く外に出て、紫蘭母さんを環達のいる村に帰してやらないと。
 あたいは紫蘭母さんを、扉から離れた壁の方に追いやった。

「炎陽?如何したの?」

 此処なら大丈夫だろうって場所まで移動させて、其処から動くなって念を押してから、あたいは扉から距離を取って、その場で手首や足首を動かしたり、飛び跳ねたりして準備運動をした。

「な、何をする気なの?」

 大きく深呼吸をしてからあたいは一気に扉まで走って行って、少し手前で飛び上がり、渾身の飛び蹴りを喰らわせた。
 扉は凄い音と破片を飛び散らせて見事に壊れた。いやぁ、木で作られた扉で助かった。扉なんて大して厚くないだろうから、本気でやりゃ壊れる。
 早く出て逃げようと言おうと思って紫蘭母さんを見ると、紫蘭母さんは口を開けたまま完全に固まっていた。え、あたいはそんなに驚かれるような事したのか?どのくらいだったら普通の範囲なのか全く分からん。

「え、えっと、炎陽は、何か武術でもやってたの?」

 そう聞かれてあたいは首を傾げた。そもそも武術が何なのか分かんね。
 そんな事は如何でも良いからって言って、あたいは紫蘭母さんの手を引いて外に出た。さっき扉壊した時の音聞いたのか、武器持ってる奴等がこっちに走って来た。
 あたいは一度紫蘭母さんから手を離すと、適当に一番手前にいる奴に飛び掛かって顔面蹴り飛ばして体制崩したところで、手に持ってる棒をぶん取って、もう一発そいつの頭を殴って気絶させた。

 さて、武器がありゃこっちのもんだ。
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