炎陽の下吹く恵風

琴里 美海

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第参拾九話

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 左後ろ足を怪我した。
 足を引き摺りながら私は寝床へ向かった。炎陽は、どうやら居ないみたいね。まぁ当たり前か。だってあの子の母親が居たのだから、村に連れて行くのが妥当でしょう。
 私は積まれた木の葉の上に寝転がった。そう、あの時、あの木の所に居た彼女は無事だったのね。全く姿を見なかったし、森の中で彼女の話を聞かなかったから、てっきり死んだとばかり思っていたわ。

(痛む。)

 全く、多勢に無勢で襲ってくる事無いでしょう、珍しく人間相手に怪我をしてしまったじゃない。
 ふと外から足音が二匹分聞こえてくる。さて、人間かしら。追ってきた人間だったなら、このまま動けないふりをして、近付いて来たら首筋に噛み付いてしまおうかしら。と、そんな事を考えていたら、中に入って来たのは炎陽と恵風の二人だった。

(母さん大丈夫か!!?)

 私は体を起こした。

(炎陽、如何して来たの。私の事が頼りなかったの?)

 私がそう問い掛けると、炎陽と恵風はお互いの顔を見合わせてから、何故か笑い始めた。一体何が面白かったのかしら。

「いや、実は炎陽ちゃんは最初環ちゃんの居る村に来て、私と色々と話をしていたんだ。その時、如何して引き返さなかったのかって聞いたら、今まさに君が言った事を言われそうだからって答えたんだ。」

 あぁ成程、如何やらこの子は私が思っている以上に、私の考えている事が分かるらしい。
 炎陽を見ると、随分と心配した様子で私の足を見ている。

「珍しいね、君が人間相手に怪我をするなんて。」
(多勢に無勢じゃ仕方が無いでしょう。)
「そうだね。」

 恵風は苦笑いを浮かべながらそう言って、私の足に手を翳した。
 恵風の手が淡い光を放つと、私の足の怪我はみるみる内に治っていった。炎陽はそれを見て相当驚いている。あぁそうだった、この子はこれを見るのは初めてだったわね、私は二回目だわ。最初は驚いたけれど、恵風の正体を知ってからは妙に納得したわ。
 完全に怪我が治ると、私はその場で立ち上がった。うん、もう痛みは無い。

(有り難うね。)
「どういたしまして。」
(え、今の、え!?)

 見事に驚いてる。見ていて少し面白いわ。
 少しして恵風は炎陽を連れて村へ向かった。私は普通に疲れたから、このまま眠る事にするわ。
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