黎明の天泣

琴里 美海

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第参拾話

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 もう御主人に対して何かを言う事も無くなったっす。毎日を唯死んだ様に暮らしていたっす。
 ある日ふと昔の家へ行くと、何故か其処には暁光が立っていたっす。

「よ。」
「あ、あんさん何で……………」
「此処ならお前が来ると思ったんだよ。」

 確かにそうっすけど、だけど如何してあっしの家の場所を知ってたんっすか。
 暁光はあっしに近付いて来ると、あっしの頬に触れた。

「うわ、酷い目してんな。」
「煩いっすよ。」

 最初に暁光と会った時、暁光はあっしにそうは言ってこなかったっす。だけど今言ってくるって事は、あっしの目は相当酷いって事っすよね。

「…………お前は如何して此処に来たんだよ。」
「如何してって……………」

 唯何となく、久しぶりに帰って来たかっただけっすよ。焼け落ちてもう何も無いこの家に。両親との思い出が残っているこの家に。

「お前そんな目になるまでそんな場所に居るのかよ。」
「仕方が無いんっすよ。あっし御主人と契約してるんっすから。」

 契約書がある限りあっしは御主人から逃げられないっす。
 あっしがそう言うと暁光はあっしの頭を叩いてきた。正直如何して叩かれたのか全く分からなくて腹が立ったっす。

「何するんっすか!?」
「煩ェ!!何か腹立ったんだよ!!!」
「どう言う意味っすか!!!」
「そのまんまの意味だっての!!!」

 暫くそんな言い争いを続けて、流石に両者とも疲弊して息を切らしていた。

「何なんっすか本当に……………」
「あ?」

「あっしだって、あっしだって居たくてあんな場所に居るん訳じゃないんっすよ。だけど今はあそこがあっしの居場所だから!!!だから仕方が無いんっすよ!!!」

 あ、何か知らないけど涙が出てきちゃったっす。でも不可抗力っす。泣こうなんて思って無かったのに、やっぱり両親の事になると自然と泣いちゃうっす。
 必死に涙を止めようとしていると、暁光はあっしの事を抱きしめて来た。

「…………え。」
「お前知ってるか?居場所ってのは、お前が居る事を望む奴が居る場所の事だ、お前が居たいと思う場所の事だ。其処はお前の居場所じゃねぇ。」
「居たい、場所……………」

 あっしの居たい場所は………………

「お前の居場所は何処なんだよ。」

 そう言われてあっしは暁光の後ろを見た。其処にある筈の焼け落ちた建物はあっしの目には映らなかった。元々の綺麗な家と、その家の前にあっしの両親の姿が見えた。そうっすよ、あっしの居たい場所は此処じゃないっすか。

「此処っす……………あっしの居たい場所は此処っすよ……………………」
「知ってる。」

 暁光はあっしの頭を乱暴に撫でると、あっしは涙が溢れて止まらなかった。
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