黎明の天泣

琴里 美海

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第参拾参話

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 苛々する。
 どうにもこうにも苛々して仕方が無い。その理由は勿論氷柱が居ないからだ。ついでに鳩がまだ帰って来ないからだ。

「あああああああああああ!!!氷柱!!!氷柱に会いたい!!!」

 もうあれから何度叫んで、何度その場に転がって暴れているかも覚えてない。

「氷柱ー、氷柱に会いてーよー………………」
「煩い。」

 声が聞こえてすぐに顔を上げると、鳩が何時の間にか戻って来ていた。
 俺はすぐに起き上がると鳩に金を叩き付けた。案の定お代分だけを取り出して俺に巾着を返して来た。つー事はだ、金を取ったんだ、俺の依頼は達成したって事だ。

「見付けたんだな?」
「見付けた。場所は此処から北に十里の所。人の姿で行ったんじゃ相当時間掛かるけど。」

 十里か、確かに鳩じゃ鳥の姿でも結構時間が掛かるな。其れなら中々帰って来なかったのに納得だな。
 さて、流石にちんたらしてられないけど、困った事に本来の姿じゃあまりにも目立ち過ぎるからどうするか。

「どうするか。」
「知り合い居るんだから頼めば良いだろ。」
「えー、知り合いっつったって仲は良くねぇんだよ。」
「じゃあ氷柱は暫く放置で良いんだな。」
「絶対ェ駄目だ!!!」

 あぁもう仕方が無ェ!!!うだうだ言ってられねぇ!!!

「朱雀!!!朱雀ー!!!」

 全力で名前を呼ぶと、俺は息を切らした。何で俺あいつの事呼ばなきゃいけないんだよ。いや、これは氷柱の為だ、氷柱の為なら我慢しよう!!!
 夜空を切り裂く様な大きな翼の音と風を切る音が聞こえた。
 家の前に降り立ったのは、全体的に赤い体の羽をした大きな鳥。毎度思うけど、俺と見た目結構被るよな。
 段々と人の姿になると、肩を回したりと準備運動をしていた。

「んで、余に何の用なのだ?」

 俺と違って赤一色の長い髪を後ろに一つにまとめてるこいつはさっきも名前を呼んだけど『朱雀』だ。何故か俺と同一視されるけど、断じて違う。俺は全こいつとは全く違う存在だ。
 取り合えず近くに気配を感じたのがこいつだったから呼んだけど、正直他の奴等じゃなくて良かったかもしれねぇな。だって青龍は自尊心が高すぎるし、白虎は無駄に頑固だし、玄武は何言ってるのか全く分からないし。朱雀は性格捻くれてるけど、まだマシな方だからな。

「いや、それにしても貴兄が余を呼ぶとは、明日は恐らく槍でも降るのだろうな。」
「殴り飛ばしてやろうかお前。」

 俺は拳を握りしめるが、朱雀はそんな事で怯んだりしない。そもそも四神の一体が高々この程度の事で怯んだら、それはそれで問題だろうが。

「やれやれ、貴兄は相変らず随分と口が悪いのだ。そんな事では誰かに好かれると言う経験も皆無であろうな。」
「手前ェは本気で殴り飛ばしてやろうか?俺は氷柱に好かれてるからな。」
「何と!!ならば近い内にこの世は滅亡するのだ。」
「殺すぞ!!」
「死なないのだ。」

 んな事知ってるっての。けどよ言いたくなるだろ、本気で殺したい時ってのは。いやそんな事やってる場合じゃなかった!!こいつのせいですっかり忘れてた!!

「お前俺を乗せて北に十里くらい飛んでくれないか?」
「嫌なのだ。」
「あぁ!?」
「余は他者を上に乗せる気等毛頭ないのだ。大体、貴兄は鳥の王ぞ?何故他の鳥の背に乗ろうと思ったのだ?」

 そうだ、俺は鳥の王って呼ばれてる。だけど其れは人間が勝手に言ってる事であり、俺はそうとは思っていない。朱雀で良いだろ。ってそんな事は関係無い。

「俺じゃどうにも体がでかすぎて目立つんだよ。それに燃えてるし。」
「まぁ貴兄は全身炎だから仕方が無いのだ。」
「それに、飛ぶのはお前の方が速い。」
「如何して其処まで必死なのだ。」

 必死?そんなの氷柱がいるからに決まってるだろ。

「氷柱がいるからだ。」

 俺がそう言うと朱雀は大きく溜め息を吐いた。

「何時からそんなに女に熱くなったのだ。まぁ良いか。」

 そう言ってから朱雀は鳥の姿になると、俺は炎の灯っていない背に飛び乗った。

「助かる。」
「今回だけなのだ。」

 羽ばたくと空に飛び上がった。
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