黎明の天泣

琴里 美海

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第参拾六話

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 仕事とはいえ、流石に氷柱さんを置いて遠くに行くのは怖くて仕方が無いんで、やっぱり戻って来ちゃったっす。それなのに一体何が起きてるんっすか。
 御主人の家には普段あんまりいないんっすけど、護衛とかが沢山いるんっすよ。そんな連中がわらわらと外に出て来てるし、それに見事に倒れてる。

「え、あっしのいない間に何があったんっすか!?」

 いや、大凡の予想は出来るっす。だってあちこちに炎が見えるんっすから、とうとう暁光が此処突き止めて怒りの形相でやって来た様子が容易に想像出来るっす。

「と、取り合えず氷柱さん!!」

 あっしは慌てて中に入った。
 中は中で見事に地獄絵図で、何人もが倒れていた。だけど死んではないみたいで、呻き声が所々から聞こえていた。

「暁光、これ相当御立腹っすよ。」

 この状態の暁光にだけは会いたくないっす。そう思いながら廊下を曲がった。

「あ。」
「あ……………逃げるが勝ちっす!!!」
「あ!!!おい待て雀!!!」

 如何してこんな状況で暁光に遭遇するんっすか!!!
 鳥の姿になってその辺の隙間に滑り込むと、何とか暁光を撒けたっす。
 周囲の安全を確認しながらあっしは隙間から出て人の姿になった。

「本当に暁光は氷柱さんの事になると怖いっす。」

 あんな鬼の形相で追い掛けられたら、誰だって全速力で逃げるに決まってるっすよ。
 と、そんな事は置いておいて、氷柱さんは何処にいるんっすかね。流石にこの騒ぎの中大人しく待っているとは思えないんで、少し移動してると思うっす。と言う事は姉さんの所っすかね?あ、でも氷柱さん姉さんが何処に居るか知らない筈っすから、それは無いっすね。

「氷柱さーん、何処っすかー?」

 呼んだもの、そんなに大きな声は出せないんで近くにいたとしても聞こえないっすよね。
 大声で呼んだら暁光が来そうっすからね。

「雀。」
「!!ご、御主人…………」

 最も遭遇したくなかった人物第一位す。

「あんたこの状況なんなのよ!!何で暁光様がこの場所知ってるのよ!!!」
「いや、そんな事あっしに言われても。」

 多分鳩辺りに依頼して場所を特定してもらったんだと思うんっすけど、それを言うと今度は鳩が標的になりそうだから黙っておく事にするっす。

「あんた何か知ってそうね。」
「知ってる様な知らない様な…………」

 全部知ってるっす。

「にしても何なの、鶴ってそんなに暁光様に好かれてる訳?」
「姉さんと言うか何と言うか。」

 氷柱さんが一番大事なんっすけどね。
 御主人見事に手違いで氷柱さんを連れて来ちゃったすから、後でどうなっても知らないと思ってたっすけど、まさかあそこまでの鬼の形相で来るとは思ってなかったんで、若干御主人が可哀想に思えて来たっす。今の暁光が御主人と会ったら、御主人何されるか分からないっす。

「と、取り合えずあっしは氷柱さん探して来るっす。」
「あ!ちょっとあんた逃げる気じゃないでしょうね!!」

 逃げる気は無いっす。氷柱さんが心配なだけっす。とは口に出さず、御主人の下から逃げた。
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